ストーン自身の映画の引用はされていなかったのは、屋上屋を重ねることになってしまうからでもあるだろう。
ジョンソン大統領がお気に入りだったという「パットン大戦車軍団」の星条旗を背にしたパットンの演説、「地獄の黙示録」の「ワルキューレ」に乗ったヘリ軍団の殲滅作戦、「ランボー 怒りの脱出」の人質救出シーンなど、特に興奮をかきたてるシーンが選ばれている。
それらは思想的にはこのシリーズの仮想敵扱いなのだが、手法としてのセンセーショナリズムという点ではストーン自身との体質と地下水脈が通じてしまっているようなところは、やはりある。
ストーン自身が個人的にべトナムに行った体験については番組内部では一切触れられておらず、感情的に批判的なトーンとして溶解している。
持てる者と持たざる者との格差と対立というのが今になって始まったのではなく、もともと飽くことなき獰猛で貪欲な資本主義体質の内部に胚胎していたものに思える。
ジョンソンの「私が要求するのは絶対的な忠誠心だ。デパートのショーウィンドーで俺のケツの匂いを嗅いで、バラの香りがいたしますと言えるくらいのな」といった発言の品性の悪さに今更ながらげんなりする。
「共産主義」に対する恐怖というのは現実の共産国に対するものではなく、アメリカの権力者たちが猜疑心から敵の中に投影していた自身の暴力性に対する恐怖だったのは間違いないところ。
今だとその歪んだ鏡の名前が「テロリスト」や「イスラム」になっているということだろう。
チャンネル [BS1]
2013年5月9日(木) 午前0:00~午前0:50(50分)
ジャンル ドキュメンタリー/教養>ドキュメンタリー全般
ニュース/報道>特集・ドキュメント
ニュース/報道>海外・国際
番組内容
映画監督オリバー・ストーンが歴史学者とともに独自の視点でアメリカ史を描き直す全10回の意欲作。第7回は、監督自身も従軍したベトナム戦争の過ちを鋭く問い直す。
詳細
映画監督オリバー・ストーンと歴史学者のピーター・カズニックが共同で脚本を手がけ、アメリカ史を新たな視点で描くドキュメンタリーシリーズの第2週。
第7回は、泥沼化するベトナム戦争中の核兵器使用の検討など、力で押し切ろうとした政府高官たちの行動を描く。そして、大義なき戦争を“組織的に美化”し、教訓を得ようとしなかった政治家たちの姿勢や、今もなお続くアメリカ社会の分断を厳しく指摘する。
出演者ほか
【語り】鈴木省吾