「狼よさらば」あたりにつながるヴィジランティズム（自警主義）映画、平たく言うと警察は頼りにならないから一市民が街のダニを私的に退治してまわる話、なのだが、舞台がイギリスというところでかなり印象が変わる。
アメリカの場合はとにかく銃で「正義」を守って作ってきたみたいな国だから、悪い奴はぶち殺してしまえというのがストレートに通るが、ここでマイケル・ケインが演じる元軍人は北アイルランド紛争で戦った経験があってその古い友人も銃剣を大切に保管していて、それを乱暴に扱われることに怒りに決定的に火がつくといった具合に老軍人の誇りと戦友への思いといった渋さが加わり、これにケインがぴったり嵌まる。
腹を撃ったチンピラに向かって、同じように腹を撃たれて十分間苦しんで死んだ戦友の話をしてからとどめをさすあたり、残酷さだけではない物悲しいような味がある。
「狼よさらば」式にリンチが市民レベルで広まるということはなく、一方で若者たちが無軌道に暴力に走るのを警察が大がかりに弾圧する場面があり、警察も手をこまねいているわけではないと見せようとしているのだが、その警察内部も腐敗していて見せかけの正義を独占しようとしているに過ぎないあたりも苦味がある。
監視カメラもやたらと発達しているくせに、というよりだからこそエアポケットのようにトンネルがチンピラのたまり場になっているあたりも象徴的。
ここに出てくるチンピラたちのことをチャヴ（CHAV＝Council Housed And Violent）というらしいが、カウンシル・ハウスというのは低所得者向けの集合住宅のことで、イギリスが福祉国家から新自由主義に転向して若年層の失業が増えた背景も垣間見える。
「時計じかけのオレンジ」の不良たちが物質的にはとりあえず不足のない中産階級だったのとは違うところ。
集合住宅のなんともいえない荒涼として雰囲気をどこかパンキッシュに生かした映像・音響のセンスも秀逸。
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