黒澤 明 樹海の迷宮: 映画「デルス・ウザーラ」全記録1971-1975 | |
野上 照代 , 笹井 隆男, ヴラジーミル ヴァシーリエフ (著) | |
小学館 |
黒澤作品のメイキング本はずいぶんあるけれど、これくらい製作中の黒澤の、露骨に言うと醜態を記録したものもないだろう。ほとんど「トラ!トラ!トラ!」のメイキングに匹敵するし、しかも期間が長い。これでよく完成したものだと思わせる。
大量に飲酒して二日酔いで翌日の仕事に穴を開ける、気に入らないスタッフ、特に撮影監督の中井朝一の仕事にしょっちゅうケチをつけて喧嘩する、前に出した指示を矛盾する指示を後に出して混乱させる、
飲酒癖は相当にひどくて、ウオッカ一瓶空けてしまったりするので野上照代女史他が心配して水で割ったりしている。
これだけ厳しい内容になったのはどういうわけだろう、と思わせる。ソ連側助監督の記録がかなり入っているからだろうか。
率先垂範という感じで黒澤がセットの汚しや飾りつけをする場合でも、それがスタッフを動かすための<手>であることに気づいている、という記述など、巨匠神話に影響を受けていない客観的な目を感じさせる。
一方でソ連側のハード面のいいかげんさも驚くようなもので、折角苦心して撮影したフィルムが現像の失敗でオシャカになること再三なのだから呆れてしまう。
タルコフスキーが黒澤にソ連製のフィルムを使わない方がいいとアドバイスしたわけだと思う(タルコフスキー自身「ストーカー」の撮影後のフィルムを大量に台無しにされたらしい)。
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