prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「クレッシェンド 音楽の架け橋」

2022年02月10日 | 映画
パレスチナとイスラエルの若者たちを集めてオーケストラを作り演奏会を開こうという、ほとんどムチャぶりみたいな話。
実話というのでないと、納得しにくいくらい。

実際、オープニングから不穏な空気が漂って、無事に済むのかと思わせる。
ロミオとジュリエットばりにパレスチナ人の男の子とイスラエル人の女の子とが恋仲になるが、何年後かには女の子の方が検問所で最初の方で実際にされたように男の子を嫌がらせのように検問するかもしれない、というのがやりきれない。イスラエルは女子にも兵役があるからそういうこともありうるわけだ。

主催者が本業が株のトレーダーでお金に余裕があるからこういう一種物好きな真似ができるというあたり、リアリティがある。
一回、若者たちでとことん罵り合いをさせると言葉が枯れてしまう、いい意味で底が見える。そして納得できないメンバーが残っても否定しないのは大事なところだろう。

対立はパレスチナ人とユダヤ人の間だけでなく、それぞれの家庭内でもある。
ただ最終的な悲劇がどこから来たのか、これまたロミオとジュリエットみたいにいささか早まったというところに落ち着くのは元よりどこかのせいにするのが難しく、強いて言うなら代々続く差別と大国エゴのせいなのだが、そうなると大きすぎてつかみどころがなくなる。

使われているクラシック音楽が有名なものばかりなだけに、演奏会をどういうプログラムで組もうとしたのかよくわからない。
ある特定の曲を丹念にリハーサルを重ねて完成にもっていくという構成になっていない。だからラストシーンも、もっと丁寧に構成すればもっと感動的になったのにという惜しさが混ざる。

モデルになったウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団は演奏会をパレスチナやトランプ政権下のアメリカでも開いているらしいので、現実はけっこう希望が持てるのかもしれない。

新宿ピカデリーのエレベーターに描かれた宣伝用イラスト。