prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

公開講演会「映画監督・黒沢清氏を迎えて」

2024年07月28日 | 映画
篠崎誠監督が聞き手になって黒沢清監督から話を引き出す土曜午後いっぱいの四時間半。

まずフランスの叙勲に合わせてフランス映画人たちのビデオメッセージが上映される。レオス・カラックスのは下ネタ入り。

三部構成で、第一部は、立教大学に入学して当時は無名の蓮實重彦の授業をとり、いくつか出た課題のうち、鈴木とつく映画人を三人挙げよというのがあって、鈴木清順、鈴木則文までは出たけれど、三人目で困った、鈴木達夫、鈴木晄と後で答え合わせしたが、特に正解はないといった授業で初め百人くらい出席していた学生が秋頃には十人くらいになっていた、代わりに蓮實信徒になって教えを広めないといけないくらいの気持ちになっていたとのこと。

それからいくつかの映画の抜粋をスクリーンに映しながら解説する。
「ジョーズ」よりオープニングの夜の海岸シーン、女の子(そういえばこの役を演っていたスーザン・バックリニーは先日亡くなった)が走りながら服を脱いでいくのにいつの間にかズボンを脱いでいる、走りながら脱げるわけがないので編集でスキップしていると指摘する。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のマイケル・J・フォックスがスケートボードに乗って車につかまって走るシーンは逆にカットを割らないで通して見せる。
「工場の出口」で一分足らずのうちに実に大勢の労働者、犬や馬車まで混じえて出てくるのを、いわゆる実写にとどまらず明らかに演出が入っていると指摘。

それから黒沢監督の実作三本の抜粋に移る。
「降霊」の誘拐犯がわらわらと湧いてきた刑事に追われて工事現場で倒れたら上に組んでいた足場が崩れて下敷きになるのをカットを割らずに見せる。
「打鐘」の自転車に乗った競輪選手がカットをやはり割らずに積まれた段ボールに突っ込んでくる
そして「回路」の飛び降り。
編集によって失われるものをあっという間もない時間に掬いとって見せるという原理の説明。

第二部は30分くらいのあまり見る機会のない短編の二本立て上映。製作がコロナ禍にぶつかったという。
永作博美とユースケサンタマリア主演のAmazon prime「モダンラブ・東京」。いくつかの都市にまたがるモダンラブもののひとつ。
ラブものはどうも苦手だとしきりと照れたように言っていた。
永作博美が結婚相談所の紹介で会った別人の釣書を持ってきているユースケ・サンタマリアの正体不明の男とだんだん関係を深めていくが、そのユースケがふっとコンビニに行って姿をくらますのがすごい不安を煽ったり、事実ラストでは姿を消してしまう。

それから乃木坂46の「Actually」。MVと言いながら大半は中西アルノ、山下美月、齋藤飛鳥による芝居が占める。それもセリフが珍しく多くて、企画者の意図ではMVで商売する気はないので、彼女たちにそれまでしたことのない体験をさせたい、だから監督には一切注文はつけないということらしい。
後半になってMVになるのだが、こちらは振り付けの人がどうカメラを動かすかまでほぼ決めていて、あまり変えることはなかったという。

第三部は上映された短編の解説と今年公開される三本の話。
映画監督には教祖型と教師型があるというが、黒沢監督は典型的な教師型ではないかな。事実、大学教授でもあるわけだが。