prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ブラックボックス 音声分析捜査」

2022年02月08日 | 映画
フランス映画で、それほど製作費もかかっているように思えないが、音という具体的な形となかなか結び付かないモチーフを扱ってああでもこうでもないと行き来するストーリーのジグザグな展開がスリリング。

「ギルティ」みたいなワンシチュエーションドラマとも、「カンバセーション 盗聴」みたいな不条理スリラーとも違う、終わってみるとオーソドックスなスリラー。強いていうなら、「ミッドナイトクロス」型というか。ただし、後味は悪くない。

技術者タイプで融通のきかない夫とキャリア指向の強い妻との関係の変化するドラマでもある(初めのうち、夫婦だと思わなかった)。





「アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド」

2022年02月07日 | 映画
原題(ドイツ語)はIch bin ein Mensch=私は人間だ、と邦題とはずいぶんニュアンスが違う。

第一、ヒロインと男性型アンドロイドはほとんどのシーンで恋愛関係にはなっていないし、最終的にもそう言えるかどうか微妙。毎度おなじみ、やたら甘く恋愛寄せにしたがる日本の宣伝の一環と言っていいだろう。

SF的なガジェットを欠いた「ブレードランナー」みたいな一編で、それらしいのはダンスホールで踊っていたり席についていたりする人間が実はホログラムに過ぎないあたりくらい。

時に非人間的な態度をとるようなアンドロイドとの関わりで逆に人間性とは何かを問うといった作りだが、良くも悪くもあまりエモーショナルになっていない。

「名付けようのない踊り」

2022年02月06日 | 映画
田中泯の、そこにいること自体が踊り、みたいな、誰でもできそうでしかしおよそ真似できる者はいないであろう踊り。
学校を作って教えれば成功しますよといった甘い誘いがあったが、バカ言うなといった感じで断ったらしい。

すべてが一回こっきり、唯一無二であると共に、縁起でもないかもしれないが、この踊りだったらたとえ寝たきりになっても、あるいは亡くなってからですら存在しえるのではないかと思った。

踊りそのものもだが、それを見ている外国人たちのなんともいえない目のみはり方が面白くて飽きない。
言葉の壁を最も突破しているというより言葉以前のコミュニケーション、そして言葉を否定するのではなくそこから言葉が新しく湧き出す体の踊り。

スーザン·ソンタグが見にきていたのがちょっと写り、モーリス·ベジャールも来ていたらしいが写ることはない。特にベジャールにはどう映ったのか興味を引かれる。

参道みたいな場所の踊りを周囲を大勢が集まって見ている中、急ぎ足で通りすぎる人もいる情景に、子供の頃の記憶と照らし合わせて虫たちはヒトとは違う時間を生きているといったナレーションが、かぶさるのがアイロニカル。

3.11で消失し人っ子ひとりいなくなった町で残った生き物たる蜘蛛を真似て踊りだすのにびっくり。人がいなくなったことには、ほぼ感慨を持つことはないのだね。生き物に区別なしというのは見ようによっては人間中心主義の否定でアンチヒューマニズムともとれる。

自分の子供時代のことを「私の子供」と呼ぶあたり、ちょっと水木しげるが自分のことを水木サンと呼んでいるみたいな他人事感がある。
汎生命的世界観というか、ヒトや自分が中心というのとは違うのかもしれない。
その「私の子供」を山村浩二のアニメーションで表現しているのがまた面白い。

抜粋で出てくる「たそがれ清兵衛」の絶命シーンの動きもまた踊りというのが納得いく。





「前科者」

2022年02月05日 | 映画
有村架純の保護司が担当しているもう少しで保護観察期間が終わる受刑者森田剛がどうやら警官を襲って拳銃を奪い連続射殺事件を起こしているらしい、というお話とすると、作り過ぎではあるけれどサスペンスドラマとして成立するが、すぐ真犯人を割ってしまうのでサスペンスにならない。

なぜ期間が終わるまで待てないのかという理由づけも納得できるものではなく、むしろ終わるのを待った方がいいはずで、また、警察が受刑者周囲の人間関係についてまるで知らないってことあるか。

更正できるかどうかには、いわゆる世間一般が受け入れるか、あるいは受け入れないかが極めて重要だと思うのだが、一般市民がここではほとんど出てこない。コンビニの上司に自動車整備工場の社長くらい。後者は受刑者の身元引受人に近いのだから、受刑者がおとなしくしていられるかどうか無関心ではいられないはずだが、ほぼ描写としてはスルー。

保護司は無報酬なのでコンビニでバイトしているというヒドい待遇なのだが、そのあたりの生活実感やそれでも犯罪者の更正に尽くす熱意の描出も通りいっぺん。制度批判くらいあっていいのではないか。

細かいこと言うが、森田が一人暮らしのアパートの自室に帰ってきていきなり開けて入るので、あれ鍵かけてないのかと訝しく思った。
しばらく後で中に他に人がいたのがわかるのだが、だから鍵かけてなかったと腑に落ちるには描写そのものが曖昧。それにこの場合、中の人間を他人に見せてはまずいので、むしろ鍵かけないとまずくないか。

二度目の殺人が通りすがりの人間をいきなり撃つみたいに見せる(つまり無差別殺人に見える)必要あるか?
普通に狙った相手を撃つように描かないから後で説明するのが無理やりに見える。

つまりはお話作り過ぎ。それで作り物のサスペンスを盛り上げるだけの技術があるわけでもない。
普通に更正できるかどうかで十分ドラマもサスペンスも作れるのではないか。
原作マンガはいくらか読んでいたが、一話一話もっとすっきりしていたぞ。原作者が脚本書いているのだが。

その犯行の動機にしても、邦画では毎度のことながら回想シーンで説明するのって、誰か回想シーン禁止令出さないかと思うくらい。

リリー·フランキーの家周辺のクライマックスが終わった後でもう一回サスペンス風の展開付け加えるの蛇足だし、その後ハナシ終わっているのに長々しいセリフでなぜ保護司になったか語るだけでなくそれを受けてまた長々と喋るのはもう勘弁してほしい。そういうのはもっと前に言ってくれ。
悪い意味でテレビドラマみたい。

保護司と刑事が元同級生で元恋人という設定は、はっきり言ってジャマ。これも、またですかと言いたい。

有村架純が役でブサイクに作っているのかと思うと、ブサイクに撮ってしまっているのではないかと疑いたくなる。商業映画でそれはないでしょ。

正直、ここまでボロクソに言う出来だとは思わなかったぞ。




「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」

2022年02月04日 | 映画
これまでの各種のスパイダーマンの集大成的な作品なので、ディテールを相当に忘れているであろう状態でどこまで楽しめるのか不安もあったが、忘れていても見ているうちにかなり思い出した。

このシリーズに限らず、商業的にはできるだけ引っ張りたいしファンの期待にも応えなければいけないし、それ以上の展開も考えなければいけないのはわかるけれど、とはいえ、シリーズ内のディテールを踏まえてわかって当たり前みたいな作り方というのは特に熱心なファンというわけではない人間にとっては何だか居心地が良くない。

いちいちこれまでのを見直して復習するのはムリだし、忘れていて十分に楽しめないのではないかという不安あるいは不満が拭えないのは困ります。
とはいえ、にぎにぎしくて楽しいのと、悪をやっつけて万歳という作劇から完全に抜けきったのは清々しい。





「コーダ あいのうた」

2022年02月03日 | 映画
聾唖の一家で一人だけ耳が聞こえ口がきける娘がその歌の才能を認められ、外の世界に出ていく話。

ヒロインが持っていてちょっとかかるザ·シャッグスTHE SHAGGS の「マイ·コンパニオン」(アルバムPhilosophy Of The Worldより)というのは、前にタモリ倶楽部の歌ヘタ選手権に出てきた下手ぁな歌(なんでそんなのがレコーディングされたのかというレベル)。どういうつもりのセレクションなのか。

同じように歌の才能に恵まれた男子生徒と仲良くなるが、ありがちなライバル意識やあるいは男女の仲が深くなるといった展開にはならない。
普通だったらドラマになるのを避けたともとれるが、不思議と物足りなくない。

本物の聾啞俳優で「愛は静けさの中で」でアカデミー主演女優賞を受賞したマーリー・マトリンが母親役。おおっぴらにえっちしているのを見られてしまうシーンがあるが、同作は障害者が性的暴力にさらされることが多いのも当然のように健常者とセックスするところも描いていた、だけでなく共演のウィリアム・ハートとしばらく同棲していたものです。

クライマックスになりそうな歌の場面で音があえて消える演出は感心半分疑問半分。
主演のエミリア・ハートが魅力的。





「さがす」

2022年02月02日 | 映画
初めのうち娘が失踪した父親を探すミステリものなのかと思っていると、途中から大きく話が転回して娘の出番が中盤なくなってしまうのは、ラストで回収するとはいえやや疑問。

こういう変則的な語りが、どう話が向かうのかという意外性と収まるところに収まる快感を併せ持っているのはわかるが、キャラクターの感情や行動を追うより、展開の恣意性の方が目立つ。

核になっている生き死にの問題が途中から出てくる分、お話の素材扱いになって軽くなった。
娘にとっては母親も大きな役割を果たしていたはずなのだが、そのあたりの描写も軽い。

「暗殺の森」について伊藤俊也監督が時制を交錯させる構成をとったことで監督のベルトリッチの美意識にかなう場面に集中できた代わり、キャラクターの造形について素朴に突っ込んでいくと案外弱い、と指摘していたのに近いものがあるかもしれない。

エンドタイトルで人の名前が流れていくうちのある一瞬だけ色がつく。
そして最後にストップする監督の名前の文字は色がつきっぱなし。
解釈すると、この映画の製作に集まった人たちがその時だけ監督の色に染まった図ということになるか。
製作委員会に個人名が入っているようだったが、だとしたら珍しい。

アダルトビデオを山ほど集めている爺さまが可笑しかった。それに対して若い男があまり興味を示さないあたりのねじれが面白いし全体のモチーフにも結びついている。

俳優たちは体臭まで感じさせる。街も田舎の風景も一種の匂いがある。





2022年1月に読んだ本

2022年02月01日 | 
読んだ本の数:23
読んだページ数:4482
ナイス数:2

読了日:01月01日 著者:中嶋 彰





読了日:01月03日 著者:田中 世紀





読了日:01月06日 著者:池上 俊一










読了日:01月14日 著者:町山智浩





読了日:01月15日 著者:中島岳志,若松英輔





読了日:01月15日 著者:トム・ロブ スミス









読了日:01月15日 著者:トム・ロブ スミス


読了日:01月16日 著者:望月衣塑子,五百旗頭幸男





読了日:01月17日 著者:岸 惠子





読了日:01月18日 著者:芥川 龍之介





読了日:01月20日 著者:田村由美





読了日:01月20日 著者:田村由美





読了日:01月20日 著者:田村由美





読了日:01月26日 著者:佐藤 泰志





読了日:01月26日 著者:門馬 忠雄





読了日:01月26日 著者:マン パウル・トーマス





読了日:01月27日 著者:池上彰,佐藤優





P191のエドナ·ピュユヴィアンスって、チャップリン映画のヒロインを長らくつとめたエドナ·パーヴィアンス Edna Purvianceのことか?
読了日:01月29日 著者:A.ピエール・ド・マンディアルグ



読了日:01月30日 著者:栗原 堅三




読了日:01月30日 著者:伊藤理佐





読了日:01月30日 著者:伊藤 理佐





読了日:01月30日 著者:伊藤 理佐