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小さな文庫本より小さなレモンイエローの本が手元にあります。「柚木沙弥郎 Tomorrow」、染色家として名の知れた「柚木沙弥郎」さんの本です。今年百歳になられる柚木さん、民藝運動の染色家、芹沢銈介を師事し流れを汲む染色家です。染色家とか民芸とか言うと兎角堅苦しく聞こえます。でも、柚木さんの実際の生活は世界中のものが溢れ、色取り取りのものに囲まれた方だそうです。その柚木さんを紹介したくて書かれた本です。と私は取りました。
作者はインタビューに訪れた柚木さんのご自宅の様子に呆気に取られます。高名な方の家、大学の学長を務められた方の家、緊張して訪れたものの世界中を旅して集められた色鮮やかな置物や家具、布に目を見張ったわけです。柚木さんは直感で自分の好きなものを買われた結果が今の状態になったのだとか。これだけのものに囲まれると楽しいだろうなあ、と写真に見入る私でした。
柚木さんの作品は染色の布の域を出て、リトグラフやマスキングテープのような小物も最近は見かけます。「アート」をもっと生活に取り入れて欲しいというご自身の思いもあります。「アート」と聞くと高額な絵画などを想像します。ところが柚木さん、「パンナイフ一本でも自分が徹底して選んだものはアート」だと捉えていらっしゃいます。お若い頃なけなしのお金を叩いて一枚のお皿を買われたのだそうです。その一枚のお皿がどれほど日々の生活を彩ってくれたか、それが大切だとおっしゃっています。
パンナイフ一本、確かに考え選び抜いたものはそれを見るたびそれに触れるたびに、元気をくれることは私自身よく感じます。「そうか!妥協せずに物を見つめ、選ぶことがアートなのね。」と私は独り合点します。
近年になって世に多く出ている柚木さんの作品は、 こんなにポップです。もちろんこのお歳でも染色のお仕事を続けていらっしゃいます。身の回りの品々と染色布の展示会の様子がこちらです。
好きなものはたとえ一つでも元気をくれます。ものから元気をもらうことは誰しもが感じることです。若い頃やっと買われた元気の源のお皿は今も柚木さんのテーブルの上で活躍中です。「アート」などという言葉に惑わされず、自分の目を信じよう、自分の直感を信じようと気持ちが前向きになった本でした。