晴、8度、80%
桃の節句にはお寿司が登場します。ふくさ寿司だったり、ちらし寿司だったり。お寿司屋さんのお寿司ではなく、お家のお寿司です。寿司ご飯が好きで簡単な寿司はよく作ります。寒くなると懐かしく思い出すのが「蒸し寿司」です。
「蒸し寿司」は関西の食べ物だと思います。子供の頃年に2、3回は関西へ母に連れられて旅行しました。どこの駅だったかどこに向かっていたのか、さっぱり思い出せないのですが、駅前に蒸し寿司の店が並ぶ駅がありました。この駅から確かバスに乗り換えて目的地に向かいます。きっと冬だったのでしょう。寒空の下、「蒸し寿司」の香りが駅前に漂っていました。バスに乗り換えの時間がある時は「蒸し寿司」を食べました。何が乗っていたか、どんな味だったか、器がどんなんだったか全く記憶にありません。私の記憶にあるのは「蒸し寿司」のほの温かい匂いだけです。
寒い日のご馳走、春に向かうお節句の日、久々に「蒸し寿司」を作りました。お節句ですから気張って「穴子」を探しましたが見つかりません。簡単に「錦糸卵」「海老」「椎茸の含め煮」だけの「蒸し寿司」です。蒸している時、飯台ですしご飯を作る時の香りより酸っぱさの抜けた匂いが台所に充満します。 そして蓋を取った時の具材の香りは心まで寛ぎます。
海老と椎茸の香りが寿司ご飯の香りとともに食欲を掻き立ててくれます。「穴子」が一切れでもあるとまた違った香りになります。「鰻」を代用しようかと思いましたが、「鰻」では匂いが強すぎていけません。小どんぶりを持つ手にしんみりと温かさが伝わりました。
今でも初めて食べた「蒸し寿司」がどこの駅前だったのかとその匂いと光景だけを夢見ます。昭和の日本の寂れた駅前、「蒸し寿司」の幟と匂いだけが私の中に眠っています。