曇、16度、92%
「小村雪岱」という日本画家を知ったのは、2010年出版の「芸術新潮」二月号でした。 大正後期から昭和初期にかけて「日本画」そのものよりも「本の装幀」「舞台装置原画」の制作者として名の通った人だったようです。
「日本画」に見る日本女性は世代を反映しています。それ以上に描く画家の心が反映していると思います。「小村雪岱」が描く日本女性はとても身近に感じることが出来ます。美しいけれどすぐ側に居そうなそんな日本女性です。「おお、美人」ではないのです。それでいて小柄な日本女性の身体のしなやかさや着物のシャンとした後ろ姿が描き込まれています。
日本を永く離れていましたから、「小村雪岱」の展覧会に巡り合うことがないまま10年以上が過ぎました。年明けて、「三井記念美術館」での催しに「小村雪岱」の字を見たときは大喜びしました。コロナのことが心配でやっと重い腰を上げて観に行きました。「三井記念美術館」は日本橋一帯の再開発で新しく出来た美術館です。
完全予約、時間指定があります。しかも雨ですが会期も残すところ僅かとあって入り口から並びました。新しい美術館、大き過ぎない落ち着いた造りです。会場に入ると人の多さは気にならないほど作品に没頭しました。
この10年、グラビアなどで「小村雪岱」の絵を見つけると切り抜いてあります。写真で見るそれと実際軸に仕立てられた絵を見るとでは大違いです。江戸時代の「鈴木春信」の女性像に似ているとよく書かれています。この展示会では「鈴木春信」の絵も出品されています。見比べると確かに似ています。「小村雪岱」の描く女性の方がひとまわり華奢です。そして女性の目線が優しさを持っています。「泉鏡花」の本の装丁に至っては布地に書かれた絵の具合が心に染み渡ります。手に取れないのが残念です。「舞台装置原画」と聞くととてつもなく大きなものを想像していましたが、B5サイズほどの大きさに緻密に描き込まれた数々でした。
数少ない展示だろうと思っていましたが140点にも上る出品でした。個人の所有物もありますが大半は京都「清水三年坂美術館」からの出品でした。「小村雪岱」が書く文章も当時高い評価を受けています。 五十歳前に亡くなっていますが、各方面でいいものを残された「小村雪岱」です。「資生堂」のデザイン室に勤めていたこともあり、その時代には「香水瓶」のデザインも手掛けています。この「香水瓶」を見られるかと思いましたが、残念、出品されていませんでした。
「小村雪岱」に何故こんなに惹かれるのか?小柄で華奢な女性像、それ以上に色遣いの妙だと気付いたのは会場を出る頃でした。独特な淡いそれでいてモダンな色遣いです。この会場でまだ時間をと思うのですが、次の時間指定の美術展の入場時間が迫っています。長年見たかった「小村雪岱」の絵の余韻をしっかりと胸に雨の中を次に急ぎました。
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