みどりの一期一会

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性犯罪と裁判員制度~被害者守る司法体制を

2009-09-10 14:09:39 | ほん/新聞/ニュース
昨日の中日新聞【特報】に、青森地裁で審理された性犯罪の
裁判員裁判の記事が大きく載りました。

この裁判は、新聞各社の社説などにも取り上げられていて、
関心があって記事を集めているのですが、各社の記事を読むと、問題点が整理できます。

中日の記事は、webにないので、本紙をアップして紹介します。

【特報】性犯罪の裁判員法廷
露骨描写「ショック」 被害者守る司法体制を


厳罰化「感情より刑法改正」 背景に"分かりやすい裁判"
(2009.9.9 中日新聞)



毎日新聞「記者の目」にも、傍聴した記者の署名入り記事が出ています。

記者の目:性犯罪審理の裁判員裁判 「裁判員」選択権は被害者に/宮城
毎日新聞 2009年9月9日 地方版

  ◇国民の偏見取り除くチャンス 被害者の保護、最大限配慮を
 全国で初めて性犯罪を審理する裁判員裁判が2~4日、青森地裁で開かれ、仙台支局の裁判担当として取材にあたった。被害者のプライバシー保護が注目されたが、傍聴人に実名や住所を伏せるなどの配慮がなされていた。検察官が法廷で詳細な犯行内容を読み上げることに対し、「性犯罪は裁判員裁判の対象から外すべきだ」との声がある。だが、取材を通し、裁判員が入ることで国民の性犯罪に対する偏見をなくすことにつながるとの思いを強くしている。
 性犯罪は被害者の精神的苦痛が甚大で、市民である裁判員に犯行の詳細や名前が知られてしまうことで「二次被害を生む」との批判がある。今回の裁判では、まず青森地検が被害者に裁判員候補者の名簿を見せ、知り合いがいないかなどを確認。地裁も裁判員選任手続きの場では被害者の名前や犯行の詳細は伏せ、被害者の居住地に住んでいないかなどを質問した。
 また、被害者の意見陳述は、被告や傍聴人に顔が見えないよう、別室からモニター中継した。被害者の顔は裁判官や裁判員がモニターで見ることができ、法廷には被害者の声が流れた。この配慮は当然であり、今後も最大限努力されるべきだ。
 一方、検察官が法廷で読み上げた被害者の供述調書には、被告が犯したとされる強盗強姦(ごうかん)の犯行内容が詳細に記されていた。裁判員が見るモニターには、犯行状況を再現した写真も映し出された。裁判員を務めた男性の1人が「心が苦しくなった」と語るほど、せい惨な現場が再現された。
 これまでの刑事裁判では、裁判官が膨大な調書を読み込めばいいため、法廷では検察官が要旨のみ読み上げればよかった。だが、裁判員制度では、裁判員の負担を減らすためにできる限り法廷で読み上げることが原則で、検察官が詳細な調書を読み上げるのは必要なことでもある。
 被害者保護と「法廷で見て聞いて分かる裁判」のバランスをどう取るのか。傍聴して感じたのは、裁判員に被害者の顔を見せる必要はあったのか、声を機械で変えるべきではないかという点だ。犯行内容も被害感情に配慮し詳細な部分は伏せてもよかった。
 「性犯罪事件に対する過去の判決の例を見て、軽いと思った」
 裁判員を務めた男性は、判決後の会見で率直な感想を述べた。もし、裁判官だけで審理したなら、求刑の懲役15年よりも判決は軽くなったかもしれない。被害者の感情を最大限くみ取り、性犯罪を絶対に許さないという当たり前の市民感覚が、求刑通りの判決を導き出したと思う。
 性犯罪は非常にデリケートな事件だ。だがタブー視してはいけない。被害者は悩んだ末、「裁判員に思いを伝えることで少しでも刑が重くなるなら」と、勇気を持って意見陳述に臨んだ。だが、精神的な負担に感じる被害者もいるだろう。だからこそ、裁判員を入れるか入れないかは被害者が決める制度にしてもいい。法曹三者や報道に携わる私たちは、被害者の思いを尊重するべく、試行錯誤していくしかない。【鈴木一也】



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この裁判について、毎日新聞は詳細な記事を、連日、精力的に載せています。

社説:性犯罪公判 スティグマを消そう
毎日新聞 2009年9月5日 東京朝刊

 「ドアを閉める音や廊下を歩く音を聞くだけで心臓がドクドクしたり、ブルブル震えたり、涙がひとりでに出てくる」「道を歩いていると誰かにあとをつけられている気がして不安になる。また同じ事件に遭わないか心配で、何度も後ろを振り返ったり、怖くなってコンビニに入ったりしたことは数え切れない」
 青森地裁で開かれた裁判員裁判で強盗強姦(ごうかん)の被害にあった女性2人はそう証言した。性犯罪は裁判員裁判の約2割を占めるが、被害者のプライバシー保護の観点から市民が審理することには異論も強かった。しかし、性被害者の生々しい苦しみを裁判員が受け止めた意義は小さくない。判決は求刑通り懲役15年が言い渡された。性犯罪の実相を知り、被害者への理不尽な偏見を一掃する機会にしたい。
 今回、青森地検は裁判員の候補者名簿を被害者に見せて知人がいないかを事前に確認し、裁判所も裁判員選任手続きで事件の概要を説明する際、被害者の実名を伏せ、住所も詳しくは述べなかった。公判でも事件現場の写真や図を示す際には傍聴席から見ることのできる大型ディスプレーの電源を切った。被害者の意見陳述では精神的負担を軽くするためビデオリンク方式が採用され、傍聴人と被告には音声しか聞こえないようにした。
 ただ、6人の裁判員のうち男性が5人を占めたこと、検察による供述調書の朗読で性的暴行の状況が詳細だったことなどから、被害を届け出るのをためらう人が増えるのではとの懸念も指摘された。
 一方、裁判員からの質問は、検察があまり踏み込まなかった動機の核心部分を突くなど、改めてプロが独占していた司法の領域に市民の目が入ることの大切さを感じさせた。
 性被害をめぐっては「恥ずべきもの」「被害者にも落ち度があるのでは」などいわれのない非難や誤解が根強く、多くの被害者が泣き寝入りを強いられている。心身に重い後遺症を引きずり、世間の偏見から逃れるようにして生きている人も多い。恥ずべきは被害者ではない。性犯罪の卑劣さや悪質さについてもっと共通認識を深めなければなるまい。プライバシーには十分に配慮しなければならないが、安易にタブー視して目をそらし続けている限り、性被害のスティグマ(不名誉な烙印(らくいん))を消し去ることはできない。
 性被害者の肉声がこれだけ広く国民に伝わったことはこれまでなかったのではないか。まだ3件目だが、裁判員裁判は単に法廷内の改革にとどまらず、捜査や報道や国民の意識の変革へと広がっていく可能性があることを改めて感じる。

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裁判員裁判:性犯罪・初参加公判判決 会見の4人、複雑な胸中吐露 /青森
毎日新聞 2009年9月5日

 ◇「頭の中事件が駆け巡った」 充実感あるとエールも
 性犯罪事件で全国初となる裁判員裁判は4日、青森地裁での審理が終わった。全国から注目されるなか、被害者女性のプライバシーに配慮しながら四つの事件を短期間で審理した6人の裁判員たち。4人が地裁での会見に応じ、安堵(あんど)の表情を浮かべながらも複雑な胸中を語った。【宍戸護、後藤豪、坂本太郎】

 ■判決前夜
 青森市の牧師、渋谷友光さん(45)は判決前日の3日夜、家族といつもの生活をしながら、裁判のためにできなかった仕事を片付けていた。だが「頭の中は事件が駆け巡っていた」という。
 今回、唯一の女性裁判員だった60代の主婦は、家に帰ると仕事が山ほどあり、事件のことは考えないようにしていたという。しかし「夜中に目が覚め、被害者の気持ちを考えさせられた」と話した。
 29歳の男性は前夜、家族と過ごしたが、1人になると事件のことが浮かび、夜遅くまで起きていた。44歳の男性は、普段通りに妻と子供とで過ごし、なるべく裁判を家に持ち込まないように努めた。しかしテレビをつけると裁判のニュースが流れ、思い出してしまったという。

 ■判決を終え
 一夜開け、評議を経て出た結論は求刑通り懲役15年。裁判員の主婦は判決への感想を話した後、思い出したように「追加で言っていいですか」と切り出し、「被告と同じ環境の人間がたくさんいて、道を外れた人には真の友人がいないように思う。友だちを作れない人はどうしたらいいのか。それが私たち大人の課題ではないかと思う」と提起した。
 44歳の男性は「正直、ほっとしている。人を裁くということにかなり緊張したが、裁判官がみんなでしゃべれる環境を作ってくれた」。29歳の男性は「緊張がまだ取れない。帰ってから整理したい」と疲れた表情で語った。
 渋谷さんは「判決を出すことがこれほど難しいとは。『チームが考えた内容が彼に届いてほしい』との願いで一生懸命やったつもりだ」と話した。渋谷さんは地裁会見後の別の会見で思いがこみ上げて涙した。

 ■次の裁判員へ
 裁判員制度はスタートしたばかりで、今後、各地で裁判が開かれる。これからなっていく裁判員に対し、44歳の男性は「最後までやれば充実感がある」と話し、主婦も「裁判長や裁判官が私たちの視線で話してくれたので緊張しなかった。緊張せずに臨めると思うので頑張ってほしい」とエールを送った。
 29歳の男性は「今は騒がれているが、定着するまで時間がかかる。義務だと考えて責任感を持ってやってくれれば、常識になっていくのでは」との見方を示した。渋谷さんは「本当に重い仕事で、ストレスや精神的な疲れもある。(でも)一つの刑を言い渡すことは社会に対して小さくないメッセージを送られる」と話した。

 ◇地検「試金石になると思う」
 裁判を終え、地検と田嶋靖広被告の弁護人が相次いで会見した。
 地検の吉松悟検事正は「小規模な検察庁にとって初の裁判員裁判で自信はなかったが、リハーサルを繰り返して臨んだ。試金石になると思う」と話した。事件数が多かったため、いかに分かりやすく的確に裁判員に示すかに気を遣ったといい、犯行状況を法廷で詳しく読み上げた点については「手探りだったができる限りプライバシーなどに配慮し、犯行の悪質さを立証しようとした」と意図を語った。公判を担当した田野尻猛主任検事は「裁判員からは内容を理解してポイントを突いた質問があった。2日間、役割をしっかり果たしていただいた」と話し、最後は笑顔だった。

 ◇弁護側「被告の利益では課題」
 竹本真紀・主任弁護士は「性犯罪被害に対して、法律家が考えるより重く処罰すべきだという国民の気持ちが反映された」とし、弁護人の主張を考慮した上での判決で、主張が伝わらなかったとは考えていないとした。また、「裁判員裁判は弁護活動をする上で、事件を深く理解して分かりやすくしようとの意識付けになった」と感想を述べた。
 ただ被告は十和田市に拘留され、接見のために青森市から往復140キロを行き来しなければならなかったといい、「時間も限られ、被告の利益を考えると課題がある。制度を定着させるなら、支部でも裁けるようにするなど検討が必要だ」と提言した。【三股智子、山中章子】

 ◇傍聴人、意見さまざま「市民感覚反映」「刑軽減難しい」
 裁判を傍聴した人からは、被害者の意見陳述がビデオリンク方式で行われたことや判決の重さについてさまざまな意見が出た。

 県弁護士会の猪原健弁護士は判決について、「被害者の気持ちを最大限、すくってあげた結果だ。市民感覚が反映されたと評価してもいいと思う」とコメント。ビデオリンク方式に対しては「被害者は、裁判員に顔を見られて声も法廷に流れた。被害者保護が徹底されていない。傍聴人のいない場所で期日外に話を聴くなどの方法も今後、検討されるべきだ」と批判した。
 一方、一橋大法科大学院2年の松本吉広さん(34)=東京都小平市=は、「もう少し弁護人の意見を勘案した結果が出るかと思った。被害者の話を直接聞いた裁判員には、刑を軽くする判断は難しかったのではないか」と率直な感想を述べた。ビデオリンク方式については「被害者の表情なども重要な資料で、合理性があると思う。被害者のプライバシー保護に関してはそれなりに配慮されていると感じた」と話した。【鈴木一也、三股智子】

 ◇性犯罪取り上げ、時期尚早と指摘--ウィメンズ青森
 傍聴してきた青森市の女性保護団体「ウィメンズネット青森」は4日、県庁で会見し、佐藤恵子副理事長らは「性犯罪を裁判員裁判の対象にするには早過ぎる」と裁判に疑問を呈した。
 会見には鹿内文子理事長ら3人が出席。佐藤副理事長は「現段階でのプライバシー保護は最大限、行われていたと思う」と一定の評価をしたが、「犯行状況の詳細な描写や再現写真は必要だったのか。裁判員の男女比のバランスも取れていない」と指摘し、ビデオリンク方式については「ビデオは有効だったが、詳細を語ることで被害者の心の傷がさらに深くなる恐れがある」と指摘した。佐藤副理事長はまた、今後の裁判のあり方について「起訴事実を争う場合、被害者の負担はさらに増す。裁判員裁判の対象から外すケースも考えていい」と述べた。【鈴木久美】
(毎日新聞 2009年9月5日) 


以下は、東北をフォローする河北新報の社説です。


【社説】性犯罪と裁判員制/吟味しなかった訳考えて
河北新報 2009年09月06日日曜日

 新しい制度を設計する段階で、関係者は起こり得るさまざまな事態を想定して検討する。新制度が新たな弊害を生んだのでは元も子もないからだ。
 最高裁、法務・検察当局、日弁連の法曹三者の経験と、刑事法学者の専門的知識も集めて、裁判員制度はスタートしたはずだった。
 その吟味はどうやら不十分ではなかったかと、まだ全国で3件目の青森地裁での審理が問い掛けている。性犯罪を裁判員裁判の対象事件に含めてよかったのか、という問いでもある。
 本格的な検証が必要だ。最高裁は既に有識者懇談会を発足させ、政府の検証機関も近く設置される。3年後の見直しの重要な課題に位置付けてほしい。
 法曹の「経験知」や学者の「専門知」に、この問題がなぜ反映されなかったのだろう。性犯罪被害への理解が、わたしたちの生活の場からの視線も含めて、社会全体にまだ行き渡っていない表れではないか。そんな問題意識も深めたい。
 青森地裁で求刑通り懲役15年の判決が言い渡された被告(22)は2件の強盗強姦(ごうかん)罪などに問われた。裁判員裁判の対象になる性犯罪はこのほか強姦致死傷罪、集団強姦致死傷罪などで、これまでの統計からは対象事件全体の2割に上りそうだ。
 政府の司法制度改革審議会で10年前に始まった制度設計は、裁判員裁判の対象を「刑の上限が死刑または無期懲役」など重大犯罪という枠組みで議論した。5年前の裁判員法成立まで、性犯罪を含めるかどうかが個別の大事なテーマとして意識されることはほとんどなかった。
 被害者の名前、住所を明らかにしないで公判手続きが進められるようになったのは昨年、刑事訴訟法が改正されてから。被害者の情報が裁判員候補者には伝わらないように配慮を求めて、最高裁が各地裁に通知を出したのはことし6月だった。
 被害者保護の対応を促す中心になったのは、「ウィメンズネット青森」など全国各地の女性団体。最高裁をはじめ各地裁への要望を重ねている。
 裁判官だけでなく、裁判員にも被害の実態を詳しく知られてしまう。二次被害の拡大を恐れて、犯人の処罰をあきらめてしまう人もたくさんいる。この訴えは、やはり重い。
 対象からの除外のほか、被害者支援団体などからは、事件の詳細な内容を法廷で公開しないよう求める声が上がっている。
 改善にはなお工夫が要る。犯行の細部にある程度踏み込まなければ、悪質性や残忍さを印象付けるのは難しい。裁判員が刑の重さを判断する上での影響を考えなければならない。
 被告が否認している場合、あえて言い換えれば冤罪(えんざい)の可能性があった場合、検察、弁護側の論争は細部に立ち入らないわけにはいかなくなる。開かれた正当な裁判を受ける権利。被告の立場への目配りも欠かせない。
 遅かったかもしれないが、性犯罪被害者へのまなざしに変化が表れた。定着を急ぐべき変化と受け止めて、制度の改善に反映させていこう。
河北新報 2009年09月06日日曜日



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