夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『彼らが本気で編むときは、』

2017年03月07日 | 映画(か行)
『彼らが本気で編むときは、』
監督:荻上直子
出演:生田斗真,桐谷健太,柿原りんか,ミムラ,小池栄子,門脇麦,柏原収史,
   込江海翔,江口のりこ,高橋楓翔,品川徹,りりィ,田中美佐子他

どーして飲み過ぎてしまうのか。
学習力なく飲み過ぎた土曜日、翌日の日曜日はほんとにヘロヘロ。
それでも目覚まし時計が鳴る前に起き上がり、
大阪ステーションシティシネマで2本ハシゴ。
睡魔に襲われることはありませんでした。面白かったから。

荻上直子監督の作品は不思議な空気感があります。
『バーバー吉野』(2003)、『かもめ食堂』(2005)、『めがね』(2007)、『レンタネコ』(2011)。
たいていゆるゆると時間の流れる作品で、キャストもそんな感じ。
だから、本作のキャストを聞いたときは驚きました。
荻上監督らしからぬ普通さとでも言いましょうか。
だけど、こんな役に生田斗真をキャスティングしようとは誰も思いつかないだろうから、
その点では普通とは言えないかも。生田くんの新境地。

小学5年生のトモ(柿原りんか)は、母親のヒロミ(ミムラ)と二人暮らし。
しかしヒロミがトモに与える食事といえばコンビニのおにぎりばかり。
家事もろくにせず、夜中に吐くほど酒を飲んで帰宅する有様。

ある日、男ができたヒロミは、トモを置いて家を出て行ってしまう。
以前にも同じことがあり、男に振られれば帰ってくるはず。
仕方なくトモは、叔父のマキオ(桐谷健太)の勤務先である書店を訪ねる。
マキオの仕事が終わるのを待って、ふたりで帰る道すがら、
一緒に暮らしている女性がいるとマキオはトモに打ち明ける。
「ちょっと変わった人だから、先に言っておいたほうがいいと思って」と。

マキオの家に着き、トモを迎え出たのはリンコ(生田斗真)。
女物の服を着て、胸のふくらみはあるけれど男性にしか見えない人。
リンコは男性として生まれ、性別適合手術を受けて女性となったトランスジェンダーだった。
戸惑うトモにリンコは優しく声をかけ、ごちそうでもてなしてくれる。
「ちゃんとしたごはん」にトモの表情も自然にゆるむ。

翌日は学校を休んで自宅に荷物を取りに行くというトモに、
お弁当まで持たせてくれるリンコ。食べるのがもったいないようなキャラ弁。
ゲームの片付け等うるさく言われながらも、髪を可愛く結んでくれるリンコ。
実の母親から受けたことのなかった愛情を感じ、
マキオとリンコとトモ、3人の生活に家庭のぬくもりをおぼえる。

しかし、リンコと買い物に出れば、頻繁に周囲の偏見にさらされる。
実際、トモもこうしてリンコに出会うまでは、強い偏見を持っていた。
幼なじみで同性の上級生に恋心を抱くカイ(込江海翔)は、同級生からホモとからかわれている。
同類だと思われたくないトモは、学校では話しかけるなとカイに伝えていたのだから。

自分の息子の性的指向を知らないカイの母親ナオミ(小池栄子)は、
リンコとトモが一緒にいるのを見て不快感をあらわにする。
そんなナオミにリンコのことを悪く言われたトモは激怒、警察沙汰になる。

何を言われても怒っちゃ駄目。耐えるの。そうトモを諭すリンコは、
悔しいことがあるときは編み物をして心を落ち着かせるのだと言い……。

大阪出身のくせして、大阪弁をしゃべらすと妙なイントネーションになる桐谷くん。
彼は終始標準語のほうが違和感ないみたい。
リンコのことも姪っ子のトモのことも大切にする、
誠実で温かい心の持ち主であるマキオ役が非常に似合っていました。

生田くんがよかったのは言わずもがな、トモ役の柿原りんかちゃんが素晴らしい。
ただの可愛い子役じゃなくて、ドスを効かせた声を出すときなんか最高です。
彼女の心にあらわれる変化を本当にうまく表しています。

出番はそれほど多くないけれど、リンコの母親フミコ役の田中美佐子も◎。
もしも自分の息子が同性愛者だったら。性同一性障害だったら。
母親の大きな大きな愛情をフミコから感じます。
フミコの年下の恋人ヨシオに柏原収史。介護士であるリンコの同僚の佑香に門脇麦
とにかくこの辺りの人たちみんな、器がデカい。
男だ女だって、そんなのどっちでもええやん。そんな感じです。

マキオとヒロミの母親で、認知症を患うサユリ役にりりィ
これが彼女の遺作となりました。ご冥福をお祈りします。

リンコが何を編んでいるのかは見てのお楽しみということで。

煩悩を、こんなふうにパーッと放てたら。

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