夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ビッグ・アイズ』

2015年02月19日 | 映画(は行)
『ビッグ・アイズ』(原題:Big Eyes)
監督:ティム・バートン
出演:エイミー・アダムス,クリストフ・ヴァルツ,ダニー・ヒューストン,ジョン・ポリト,
   クリステン・リッター,ジェイソン・シュワルツマン,テレンス・スタンプ他

観てから1週間以上経ってしまいましたが、建国記念日も都合良くレディースデー。
意外に早く終映しそうで、劇場では観られないかと思っていた本作。
これがラストチャンス、なんとか観ることができました。

1960年代、モダンアート界でブームを巻き起こした“ビッグ・アイズ”。
画家の名前は知らずとも、誰もが一度は見たことがありそうなこの絵に、
こんな一大スキャンダルがあったとは全然知りませんでした。
いつも素敵なファンタジーを見せてくれるティム・バートン監督なのに、
今回はファンタジー色いっさいなし。
でも色合いはやっぱりバートン監督作品なのでした。

1958年、横暴な亭主と離婚する決意を固めたマーガレットは、
幼い娘ジェーンを連れて家を飛び出す。
仕事経験のない女性が離婚することなど、まずあり得なかった時代のこと。
前途多難なのは目に見えていたが、マーガレットは懸命に就職活動。
さらには、生活の足しにするために似顔絵描きを始める。

サンフランシスコのノースビーチ、同様に自分で描いた絵を売る人多数。
なかなか上手い具合に自分を売り込めないマーガレットに、
フランスの風景画を売るウォルター・キーンという男性が声をかけてくる。
パリに滞在していたというウォルターの話は楽しく、マーガレットはたちまち虜に。
ウォルターから結婚を申し込まれて即座にOKする。

あるとき、マーガレットの描く、瞳の大きな子どもの絵が思いがけず話題に。
ウォルターの売り込みがきっかけではあったが、
署名が“KEANE”なのをいいことに、なんと彼はその絵をすべて自分が描いたと偽っていた。
マーガレットは強く抗議するが、ウォルターになんとなく言いくるめられてしまう。
娘のジェーンにすら嘘をつくこととなったまま、10年が経過するのだが……。

最初から最後までイライラし通し。
しかしこれは映画に対するイライラではなく、映画の出来が良いからこそ来るイライラ。
クリストフ・ヴァルツ演じるウォルターのなんと軽薄なこと。
こんな手八丁口八丁に乗る世間も軽い。
ずるずると言いなりになるエイミー・アダムス演じるマーガレットを一喝したくなります。
男性が支配する社会、コピーが氾濫する世界、どれもこれも興味深い。

ウォルターはすでに亡くなっていますが、
マーガレットは健在で、90歳目前の今も絵を描きつづけているとのこと。
エンドロールの彼女の穏やかな笑顔にホッとしました。

ティム・バートン監督作品の常連、ジョニー・デップのヒゲ男と本作、
どちらを観に行くか迷っての本作でしたが、
この選択に誤りはなかったと思われます。

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『パーソナル・ソング』

2015年02月17日 | 映画(は行)
『パーソナル・ソング』(原題:Alive Inside)
監督:マイケル・ロサト=ベネット

梅田で『さよなら歌舞伎町』を観たあと、十三の第七藝術劇場へ。
年会費1万円を払うと8枚もらえる招待券で観るつもりが、
この日は上映終了後に大谷昭宏氏のトークショーがあるとかで、
イベント開催日につき招待券は使えませんと言われてしもた。
トークショーは聴かずに帰らないといけないけれど、映画だけは観ることに。

“パーソナル・ソング”、すなわち、「その人の好きな歌」。
治療法がないと言われる認知症に、音楽が有効である。
そんな音楽療法を提唱するソーシャルワーカー、ダン・コーエン氏の活動に密着。
症状が改善した患者や関係者に取材したドキュメンタリーです。

アメリカの認知症患者は500万人。
ダンはある介護施設の認知症患者にiPodで音楽を聴かせます。
すると、多くの患者の症状が劇的に改善。

ほんまかいなと若干疑いの目を持ちながら見ました。
劇的な効果を狙って撮られたところもあるでしょうから、
すべての人に有効かどうかはわかりませんが、
話を聴いてみると、なるほどと思わずにはいられません。

人間の脳のうち、音楽が記憶される部分というのは、
認知症による影響を比較的受けにくい部分なのだそうです。
80歳や90歳という年齢になり、日がな一日どこを見つめているのか、
何を考えているのかわからなかった老人が、
青春時代に聴いた歌に触れて、当時の様子をありありと思い出す。
歩行器に頼っていた人が歩行器を放して踊り出す。凄いことです。

確かに、音楽を聴いて掘り起こされる記憶は多そうです。
あの歌を聴いていた頃、あんなことをした、こんなことをした。
自分のことを振り返ってみても、音楽とともに思い出す光景はたくさん。

いくら有効だとわかっても、国からは助成金がなかなか出ません。
医師が1000ドルの薬を処方することには誰も何の疑問も持たないが、
40ドルの音楽機器を提供することには疑問を持たれるのだと。
最初は0.2%に満たない施設にしか提供されなかったiPodですが、
症状の改善がYouTubeにアップされたことから、
試してみたいと願う人びとの声が大きくなり、
ずいぶん多くの施設に提供されるようになったそうです。

私の“パーソナル・ソング”は何だろう。
そんなことを考えるのも楽しい。
簡単に試すことができるこの治療法、もっと取り入れられるといいなぁ。

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『さよなら歌舞伎町』

2015年02月15日 | 映画(さ行)
『さよなら歌舞伎町』
監督:廣木隆一
出演:染谷将太,前田敦子,イ・ウンウ,ロイ,樋井明日香,我妻三輪子,忍成修吾,
   大森南朋,田口トモロヲ,村上淳,河井青葉,宮崎吐夢,松重豊,南果歩他

私にはまったくムリだった『100回泣くこと』(2014)をはじめとして、
廣木隆一監督はこのところお涙頂戴路線に走りすぎている感が。
もういいですという気になりかけていましたが、
実は私、ラブホを舞台にした映画が大好きなんです。
しかも群像劇と来ればやっぱり観たくて、先週の日曜日にテアトル梅田へ。

徹(染谷将太)は歌舞伎町のラブホテルで店長として働いているが、
同棲中のデビューを目指すミュージシャン・沙耶(前田敦子)には、
お台場の一流ホテルに勤務していると嘘をついたまま。
徹以外の従業員も客も、ラブホにやってくるのはそれなりにワケあり。
そんなラブホを舞台にした一日。

韓国人のヘナ(イ・ウンウ)は、母親とブティックを開くのが夢。
デリヘル嬢をして金を貯め、明日には韓国へ帰る予定。
韓国料理店に勤める恋人のチョンス(ロイ)にはデリヘルのことを隠しているため、
ホステスとはそんなに儲かるものなのかと思い込んでいたチョンスは、
今になって偶然ヘナの本当の仕事を知ってしまう。

ラブホの清掃員、里美(南果歩)は、ある事件の犯人・康夫(松重豊)を匿いつづけ、
ようやく時効を迎えるところまで来た。
今日一日、たった一日を乗り切れば、息を潜めた生活に終止符を打てる。
康夫には絶対にアパートの部屋から出ないように言い聞かせ、里美は出勤する。

主にこの3組について描かれていますが、ほかにも客いろいろ。
フロア貸切のAV撮影の中に、徹が自分の妹(樋井明日香)を見つけたり、
沙耶がどこぞのプロダクションの偉いさん(大森南朋)と来店したり。
恋人が目の前で枕営業しようとしているのに、それを止められない徹。
家出娘(我妻三輪子)をデリヘルに売り飛ばすつもりで声をかけるチンピラ(忍成修吾)。
ダブル不倫中の刑事カップル(宮崎吐夢&河井青葉)。
ヘナにすっかり惚れ込んでしまったデリヘルの客(村上淳)などなど。
デリヘルのオーナー役・田口トモロヲの穏やかさにも癒やされます。

それぞれの挿話はかなり魅力的。
家出娘の話だけは、お涙頂戴路線に走る最近の廣木監督色が出てやや興醒めでしたが、
あとはもともとピンク映画出身である監督の本領発揮といったところ。
徹の妹が話す「素人を起用したロードムービーで、ハメ撮りで有名な監督」とは
カンパニー松尾のことでしょうか。興味津々。

ラブホのフロント裏も興味深く、とても楽しめました。
ラストシーン間際に前田あっちゃんが歌う『月のあかり』はインパクト不足。
歌ってもいいけど、そこに桑名正博兄さんの歌声をかぶせてほしかったような。

廣木監督、できれば今後もこっちの路線でお願いできないでしょうか。
たのんます。

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『映画 深夜食堂』

2015年02月13日 | 映画(さ行)
『映画 深夜食堂』
監督:松岡錠司
出演:小林薫,高岡早紀,柄本時生,多部未華子,余貴美子,
   筒井道隆,菊池亜希子,田中裕子,オダギリジョー他

レディースデーに3本ハシゴの3本目、前述の『繕い裁つ人』の5分後に。

原作は安倍夜郎の同名漫画、TVドラマ化された深夜番組も大人気に。
全部は観ていませんが、ぽちぽちちょこちょこ観ています。
まったく観たことのない人も楽しめると思いますが、
常連さんの食べているものの由来がTV版を観ていればわかったりして、
楽しさ倍増とは言わずとも微増するかもしれません。

開店は午前0時、閉店は午前7時。
新宿・花園界隈の路地裏にあるその「めしや」を、人は“深夜食堂”と呼ぶ。
メニューはビールと酒と焼酎、それから、豚汁定食のみ。
だけど、寡黙なマスター(小林薫)に気軽にリクエストすれば、
出来るものはなんでも作ってくれる。

常連客はこんな面々。
新宿2丁目でゲイバーを営むオカマの小寿々(綾田俊樹)。
ストリップ劇場「新宿ニューアート」の常連、忠さん(不破万作)。
その「新宿ニューアート」のストリッパー、マリリン(安藤玉恵)。
ヤクザの竜さん(松重豊)とその弟分・ゲン(山中崇)。
人の好いフリーカメラマンの小道(宇野祥平)と、
かつて小道が想いを寄せていた大阪出身のかすみ(谷村美月)。
いつもお茶漬けを注文するOL3人組(須藤理彩&小林麻子&吉本菜穂子)。
刑事の野口(光石研)と夏木(篠原ゆき子)、などなど。

ある日、誰が忘れていったのか、店に骨壺が。
マスターは途方に暮れ、常連たちもどうしたものかと考える。
そんなこんなのうちに挟まれる話がいくつか。

ひとつめの話は『ナポリタン』。
パトロンだった社長が急逝、愛人生活を終えざるをなくなったたまこ(高岡早紀)。
そんなたまこの好物、ナポリタンをつくってマスターは差し出す。
そこへふらっとやってきたはじめ(柄本時生)とたまこは意気投合。
見た目はまるで釣り合わないふたりに、他の常連客らは「わからんもんだなぁ」。
しばらくは仲良くやっているように見えたのだが……。

ふたつめの話は『とろろ御飯』。
新潟から上京したみちる(多部未華子)は訳あって無一文に。
空腹に耐えられず、飛び込んだ深夜食堂で無銭飲食。
後日謝罪に訪れたみちるは意外にも料理の腕があり、
マスターの温情で住み込みで働くことになるのだが……。

みっつめの話は『カレーライス』。
福島の被災地でボランティア活動をしている薫(足立サヤ)といずみ(菊池亜希子)。
しかし、被災者の謙三(筒井道隆)からいずみが突然プロポーズされドン引き。
被災地に顔を出しづらくなっていたら、いずみを追って謙三が上京する。
あまりのしつこさにいずみはほとほと困り果て……。

たまたま時間が合っただけで、劇場で観るほどでもないと思っていましたが、
繁華街の雰囲気や料理が大画面で観ると楽しくて。
交番勤務のおまわりさん役でオダギリジョー
マスター旧知の名店の女将役に余貴美子、いずれも○。
傑作だったのは最後の最後に登場する田中裕子で、
その迫力とすっとぼけた様子に大笑い。劇場が沸いていました。

『カレーライス』にはボランティアの在り方を考えさせられます。
東京の生活から逃げたくて行った福島。
被災者に優しくする自分に満足していたのかもしれません。
そんなボランティアと接するうち、「この人なら何でも受け入れてくれる」と思い込む被災者もいる。
とても難しい。

みちるの姿に『みをつくし料理帖』を思い出しました。
食は、人の天なり。

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『繕い裁つ人』

2015年02月11日 | 映画(た行)
『繕い裁つ人』
監督:三島有紀子
出演:中谷美紀,三浦貴大,片桐はいり,黒木華,杉咲花,中尾ミエ,伊武雅刀,余貴美子他

有休を取ったレディースデーに3本ハシゴの2本目。
前述の『エクソダス:神と王』を観たあと、
1階の成城石井に買い物に行き、戻ってきてちょうど良い時間。

同じ高校の卒業生であると知ってから、応援したい三島有紀子監督。
だけど、なんだかのめり込ない。
しかも、三島監督の作品には「嫌い」と言ってはいけない何かがあるようで、
そこがまたちょっと苦手だったりします。

同監督が脚本を担当した『二流小説家 シリアリスト』(2013)ならば、
駄作だと言っても冷たい目で見られたりしないと思うんですけど
(私的には楽しめたので、駄作だなんて言いませんが)、
『しあわせのパン』(2011)も『ぶどうのなみだ』(2014)も本作も、
とっても文句を言いづらい雰囲気。言うと悪人みたいで。(^^;

神戸の街を見渡す坂の上に建つ小さな仕立て屋“南洋裁店”。
初代店主の祖母から志そのままに店を引き継いだ二代目の市江(中谷美紀)は、
着る人に寄り添う、客にとって一生ものの服をつくることに拘っている。
神戸大丸に勤める藤井(三浦貴大)はそんな市江の服に惚れ込み、
ブランド化を提案するが、「顔の見えない人の服などつくれない」と市江は一蹴。
何度店へ足を運ぼうとも、まるで頑固じじいの市江からは相手にされず、
市江の母親(余貴美子)が出してくれる団子を食べて帰るだけ。

それでも藤井は足繁く市江のもとへと通い、市江の行くところどこへでもついてゆく。
市江が服を置くことを許している唯一の店“ナイーフ”のオーナー(片桐はいり)や、
市江の恩師(中尾ミエ)とも知り合いになり、信頼も得るが、市江の気持ちは一向に変わらず……。

嫌いなわけではないのです、三島監督の作品。
こういうのを自然体というのでしょうか。
しかしたとえば、本作で気に入らなかったのは、とことん標準語。
神戸が舞台なのに徹底して標準語、しかも上品な。
あえて全員に標準語でしゃべらせていることから、
現実感の希薄なメルヘンとして捉えればいいのかもしれませんが、
そのわりに女子高生がしゃべるのは「着れる」なんて「ら抜き」言葉だし、
オッサンが阪神の法被姿で騒いでいるシーンがあったり。
リアルとファンタジーのどっちに持っていきたいのかわからない。
これは同監督のこれまでの作品を観ていても思ったことでした。

でも、仕立て屋の仕事には見入りました。
お直しを引き受けた服の肩幅で客が老いたことを感じるシーンは素晴らしい。
神戸大丸のお直しコーナーの仕事を引き受ける別の仕立て屋(伊武雅刀)に
市江が涙ながらに訴えるシーンは私も涙。
なんだかんだ思いながらもしっかり泣かされている自分が可笑しくて。

次回の監督作のタイトルはなんと『破れたハートを売り物に』。
ど、どうして甲斐バンドの曲と同じなの。
どうやら複数の監督による短編作品集のようだけど、
こんなタイトルを付けられたら、また観にいってしまうやないの。
やっぱり応援してるで~。

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