METオペラ・チャイコフスキー作曲「エフゲニー・オネーギン」を見て感銘を受けました。この優れたオペラについて述べてみようと思います。
2013-14シーズン新演出
(あらすじ)
第1幕 ラーニン家の屋敷
1820年代のロシアの片田舎、地主の娘で恋に憧れる内気な娘タチアーナは文学少女である。
一方、妹のオリガは陽気だが、やや軽薄な娘でレンスキーという詩人の婚約者がいた。ある日レーンスキーが連れてきた友人で都会の放蕩貴族の青年オネーギンが現れる。
彼にタチヤーナは一目惚れして長い恋文を書く。手紙を書くうちに夜は明ける。
手紙は届けられ、オネーギンはやって来るが「私は家庭の幸福には縁の無い人間なのです」とタチアーナは婉曲にあしらわれ、深く傷つく。
第2幕 ラーニン家の屋敷 冬
後日、タチアーナの邸宅で開かれた舞踏会(エコセーズ、ワルツなどが演奏される)でオネーギンは招待され、一度はタチアーナと踊るが、退屈してしまい、その場にいたオリガを誘惑する。軽率なオリガもそれを受けダンスを何度も踊る。
真面目なレーンスキーは二人の行動に我慢が出来ず、次第に二人に対し怒りを募らせ、ついにオネーギンに決闘を申し込む。
そして翌日の朝の決闘・・・レースキーは美しくも切ない辞世のアリア〈今日の日は僕に〉を歌う
オネーギンの弾丸はレーンスキーの命を奪い、オネーギンは放浪の旅に出る。
第3幕 サンクトペテルブルグ
数年後オネーギンは放浪から戻り、ペテルブルグのグレーミン公爵邸の舞踏会(ポロネーズとエコセーズが演奏される)を訪れる。
そこでオネーギンは公爵夫人となったタチヤーナに再会する。
別人のように美しく洗練された彼女に一目惚れして激しく燃え上がる恋を告白する。「なぜ今になって」とタチアーナは動揺を隠せない。
だが、彼女は現在の夫への誓いを思い、決然と彼を退けて、去って行くのだった。
ゲネラル・パウゼ(全楽器の休止)
「この恥辱・・・ 憂鬱よ・・・ 惨めなわが運命よ!」がオネーギンの最後の言葉
演出:デボラ・ワーナー
演奏:メトロポリタン歌劇場管弦楽団 指揮 ワレリー・ゲルギエフ
出演:
アンナ・ネトレプコ(タチヤーナ)、
マリウシュ・クヴィエチェン(エフゲニー・オネーギン)、
ピョートル・ベチャワ(レンスキー)、
オクサナ・ヴォルコヴァ(オリガ)、
アレクセイ・タノヴィッツキー(グレーミン)
上映時間:3時間47分
.MET上演日:2013年10月5日.
言語:ロシア語
( 感想 )
やはり、このオペラはロシアの作曲家チャイコフスキーの作品であることに特色があります。
オペラは、古くからイタリア、フランス、ドイツなどを中心に行われてきました。
現に、チャイコフスキーは、歌劇「カルメン」を見て「この歌劇は、必ずや世界を征服するであろう」と予言し、この時の感動の火を常に胸の中で燃やしながら、この「エフゲニ・オネーギン」(1877年完成・・・ビゼーの死後わずか2年、カルメン完成後3年)を書いたといわれています。
でも、ロシア語で書かれていたため、たいさくでありながら、ロシア以外にはなかなか広がりませんでした。イタリア語、英語、フランス語で翻訳されたものでは良く理解されません。
やはり、ロシア語で歌われなれれば、美しさが伝わらないということです。最近はどの歌劇場にも翻訳の字幕が出るようになったこともあって親しみが増し、作品の良さが分かるようになって人気の演目になりました。
チャイコフスキーのオーケストレーションは、白鳥の湖、眠りの森の美女、栗見割り人形の三大バレエでその舞踊音楽は折り紙付きですが、交響曲や管弦楽曲などで見せる悲劇性や叙情性の溢れる音楽は多くのオペラの中でも優れたものになっています。
またプーシキン原作の韻文小説「エフゲニー・オネーギン」はロシアでは、国民が暗記するほど人気だということです。このストーリーをチャイコフスキー自身が台本化したものですが、プーシキンの人物像よりもチャイコフスキーのオペラの人物像の方が複雑で興味深いとドナルドキーンは高く評価しています。そして、類似するもののないチャイコフスキーの作品の中で最高傑作だと言っています。
特にタチアーナ役のアンナ・ネプレプコは生粋のロシア人、言語だけでなく、ロシアの田舎の文学少女として心の豊かさを十分にかもし出しています。特に第1幕のオネーギンとの出会い、「手紙の場」の歌と演技は見事です。手紙を書いていて夜が明けて来るのは印象的なシーンになります。まさにヒロインとしての役割です。さすが世界の歌姫。
そして、他の出演者、オネーギン、レンスキーにしてもロシア語を上手く歌いこなしています。
第2幕では、レンスキーの悲劇が心を打ちます。ピョートル・ベチャワ演じる清らかなで真面目なレーンスキーのアリアは美しい。アンナ・ネトレプコもレーンスキーのアリアがとても好きだといっているようです。まさにこのオベラの聴きどころでしょう。
第3幕はマリウシュ・クヴィエチェン演じるオネーギンがこれまで脇役として登場していましたが、初めてタイトルロールの役目を果たします。タチアーナへの愛に目覚めるからです。心に熱い炎が燃え。タチヤーナに猛然と恋心を打ち明けますが・・・タチアーナはオネーギンを振り払う。ここでの二重唱も迫力があります。
ここに「オネーギン・コンプレックス」という言葉が生まれます。
そして最後に、世界をリードする指揮の巨匠ワレリー・ゲルギエフ。彼はロシア出身。
チャイコフスキーは最も得意とする演目の一つ。
加えて所属するマイリンスキー劇場でのオペラの筆頭演目でもある「 エフゲニー・オネーギン」を舞踏会シーンや悲劇性や叙情的な部分を名演奏で聞かせてくれました。
やはり、このオペラを真に指揮するにはゲルギエフの他にはいないと言えるでしょう。
内容のある素晴らしいオペラをおおいに楽しむことが出来ました。今後、この大作オペラは、数多く上演されることになるでしょう。