1月18日(日)、新国立劇場へワーグナー作曲の「さまよえるオランダ人」を見に行きました。
昨年10月から指揮者の飯守泰治郎が新国立劇場の音楽総監督になりました。彼はバイロイトで長く音楽助手をつとめていたので、ワーグナーを得意としています。
彼は、東京シティーフィルハーモニーで指揮をしていた頃、4~5回演奏会に行ったことがありますが、演奏の始まる前に、話手とともに、対話形式でピアノを弾きながら、楽曲の解説をしてくれるのが楽しみでした。今回のオペラも新国立劇場のホームページでピアノによる解説をしています。
そうしたこともあり、今後は新国立劇場で行われるワーグナーのオペラ作品は、欠かさず見に行こうと思っています。
「さまよえるオランダ人」はワーグナーの四作目のオペラですが、ワーグナーにとっては、グランドオペラではない、神話・伝説を題材にした、人間性の深い部分を表現しようとする作品で、ワーグナーが自己の作風を確立した記念すべき第一作となっています。
このオペラをみるにあたり、小澤征爾が指揮したウィーン国立歌劇場の「さまよえるオランダ人」をNHKテレビから録画したものを、何回か見てから、新国立劇場では、どのように演奏され、表現されるのだろうかと思って見ました。
演出はマティアス・フォン・シュテークマンという人。
管弦楽は飯盛泰治郎指揮の東京交響楽団。合唱は新国立歌劇場合唱団。
演奏は、生演奏ということもあり、歯切れが良く聞きやすいものでした。また、指揮も間を上手く取って、各々のシーンを盛り上げていました。
期待に応えてくれる大変良い演奏だと思いました。
演出もウィーン国立歌劇場のものは、簡素化した箇所が多く、特に第二幕では、糸車がなく、壁には「さまよえるオランダ人」の絵が飾られていないなど、どうして?と思いましたが、シュテークマンの演出では、そのあたりがしっかりと作られていて、良かったと思います。
特に、最後のシーンはウィーン国立歌劇場のものは、火の中にゼンタが飛び込むという演出でしたが、シュテークマンの演出では、船の上から海に飛び込むという形が良く分かるようになっていて好感が持てました。
出演者は、ゼンタがリカルダ・メルベート(ソプラノ)、エリックがダイニエル・キルヒ(テノール)、マリーが竹本節子(メゾソプラノ)、舵手が望月鉄也(テノール)、さまよえるオランダ人がトーマス・ヨハネス・マイヤー(バリトン)となっていました。
(序曲)
単独で演奏会で取り上げられることがありますが、このオペラ全体を俯瞰できるような構成で聴き応えがあります。嵐の場面の打ち寄せる大波、船の帆に風が吹きすさぶ様、必死に叫ぶ水夫達、などの自然描写やオランダ人のテーマ、救済(ゼンダの愛)の動機などが散りばめられていて、見事です。私は2階席の前列で聞いていたので、とても良い音で聞こえてきました。
ゼンダは壁に掛かった「さまよえるオランダ人」の絵に夢中
(第二幕)
さまよえるオランダ人を救いたいというゼンダのバラードは、ソプラノのリカルダ・メルベートが熱唱します。
メルバートの美しい声の聴きどころでした。
(第三幕)
ノルウェイ人水夫たちの愉快で健康的な歌と、オランダ人水夫たちの恐ろしい不吉な歌。この男声合唱の戦いと嵐を表す最強音の演奏が、大きな山場で、迫力満点の音楽です。
個人的には、テノールのエリックの声が伸びやかで、ゼンダへの思いを切々と歌うので「ゼンダよ、暗いオランダ人に愛を捧げるのではなく、エリックの愛に応えるのが一般的だよ」と言いたくなりますが、それだけ、オランダ人の追い詰められた暗さと若者の愛の明るさが対比でき、このオペラの内容に深みを増しているといえるでしょう。
女性が愛を捧げて犠牲となり、男性が救われる「救済」はワーグナー作品のシンボルであり、彼ライフテーマが、このオペラには貫き通されています。