めいすいの写真日記

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モーツァルト「ドン・ジョバンニ」 と 朝ドラ「エール」

2020-05-15 | オペラ・バレエ

オペラ史上最強のアンチヒロイン、疾走するフェロモン、ドン・ジョヴァンニの没落を優雅にして劇的な音楽で描くモーツァルトの代表作

 伝説のプレーボーイとして名高いドン・ジョヴァンニの没落を描く、モーツァルトの傑作オペラである「ドン・ジョバンニ」。夜這いしようとし、女性ドンナ・アンナに騒がれ、彼女の父親である騎士長を刺殺してしまったドン・ジョヴァンニ。懲りない彼は、その後も女性をあさり続けるが、騎士長の亡霊が出現してから運命が変わっていく。
 2,065人もの女性を誘惑した貴族ドン・ジョヴァンニのオペラであると同時に、彼を糾弾する女性たちのオペラでもある。追い詰められる男と追い詰める女性たちというように、いつのまにか主役が交代しているように見えるのは、モーツァルトの魔術に他ならない。

朝ドラ「エール」音 が東京帝国音楽学校で受ける授業の黒板 (NHK1)

ところで、5月12日の朝ドラの「エール」で、主人公古山祐二(古関裕而がモデル)の妻 音 が東京帝国音楽学校(現在の東京芸術大学)で受ける授業で、教師より「ドン・ジョバンニはモーツァルトの歌劇集の中で最大の作品であると認められます」と紹介されました。そして大学の三年生のスターと音のライバル?夏目千鶴子が指名されて、ジョバンニとツェルリーナの二重唱「手を取り合って」を歌うシーンがありました。時は昭和8年4月。個人的にはモーツァルトの最大の作品は「魔笛」か「フィガロの結婚」だと思っていますが、再度「ドン・ジョバンニ」をおさらいするきっかけになりました。

 演出 マイケル・グランデージ
 ファビオ・ルイージ  指揮 メトロボリタン管弦楽団・合唱団  
 ドン・ジョヴァンニ ・・・  マリウシュ・クヴィエチェン     
 レポレッロ ・・・ ルカ・ビザローニ     
 ドンナ・アンナ ・・・ マリーナ・リベッカ     
 ドンナ・エルヴィーラ ・・・ バルバラ・フリットリ     
 ドン・オッターヴィオ ... ラモン・ヴァルガス     
 ツェルリーナ ... モイツァ・エルドマン     
 マゼット ・・・  ジョンシュア・ブルーム   
 騎士長 ・・・ ステファン・コツァン   

  MET上演日 2011年10月29日 WOWOW放送 2013.4.24 

  (第1幕のあらすじ)

 騎士長の家。公職の騎士ドン・ジョバンニがドンナ・アンナのもとに忍び込むが、アンナに騒がれ、駆けつけた父の騎士長を殺してしまう。彼女の許嫁ドン・オッターヴィオが復讐を誓う。ジョバンニの従者レポレッロは、主人が捨てた女ドンナ・エルヴィーラをアリア「カタログの歌」で言いくるめる。
広場でマゼットと踊るツェルリーナを見かけたジョヴァンニは、彼女に食手を動かすが、昔の恋人エルヴィーラがもまたもや現れてジョヴァン二をなじる。そのやりとりから、アンナは、彼こそ父を殺した男と気づく。自邸でジョヴァンニは宴を開き、仮面姿のアンナたちを招き入れる。ツェルリーナをものにしようとした彼は、失敗しレポレッロに罪を擦り付ける。一同に詰め寄られた二人は、その場を逃げ出す。

レポレッロがエルビーラに向かって歌う有名な「カタログの歌」。前半は国別のリスト・アップ、後半は様々な女性のモチーフを好色に歌い上げる。

 ドン・ジョバンニとツェルリーナの二重唱「手を取り合って」。稀代の女たらしが村娘を誘惑する過程を歌う「誘惑の二重唱」はこのオペラの白眉となっている。

 ドンジョバンニが歌う「シャンパンの歌」、「酔いが覚めないうちにパーティだ。広場に娘がいたら、その娘も連れてこい。メヌエットでも、ドイツ舞踊でも好きなだけ踊らせてやるのだ。その間にいろいろな女と楽しむぞ。」とエネルギッシュにテンポ良く歌う。いかにもドン・ジョバンニらしい面が出ている。

ドン・ジョバンニが主催する舞踏会。多くの招待客が一堂に会して、舞踏会を盛り上げ、「自由 万歳!」と歌い上げる。。当時は劇場を訪れた観客も一緒になって「自由 万歳!」と歌っていたといいます。社会道徳や階級社会を無視して生きるドン・ジョバンニの精神に共感し、自由を謳歌したいという気持ちがあったのでしょう。

  (第2幕のあらすじ) 主従は衣服を取り替えて行動し、マゼットは、従者姿のドン・ドョバンニにひどく痛めつけられる。人々に囲まれたレポレッロ、正体を明かして逃げ出す。墓地内の騎士長の石像に、「晩餐に招きたい」とドン・ジョバンニが声をかける。
 夕食を取る彼の前にその石像が姿を現わす。悔い改めぬジョヴァンニは、業火に引きずり込まれてしまう。レポレッロが悪者の最後を語り、一同が頷いて幕となる。

「窓辺に出て来ておくれ」ジョバンニのカンツォネッタ。レオポレッロに扮したジョバンニがマンドリンを手に、窓辺に立つエルヴィーラの侍女に向けて甘美な求愛の歌を歌う。
 「ドン・ジョバンニのセレナード」して良く知られている。かたちだけでもマンドリンを手に歌ってほしかった。

第2幕の最終盤、ドン・ジョバンニは炎の渦巻く穴の中に落ちていく。

 ジョバンニ以外の登場人物が勢揃いして、各自の今後の身の振り方を語り、「悪人の末期はこの通り」と歌って幕になる。

  (感想)
 始まりは、ニ短調の劇的な序曲となるが、このトーンが、このオペラの全体を支配することになるため、最初から緊迫した気持ちになる。
 全般を通して、音楽は舞踏会などの優雅な調べと結末での劇的な旋律などモーツアルトらしく、多様性に満ち、奥が深いドラマチックな内容となっている。

 登場人物もそれぞれに個性に富み、人物の性格描写も優れていて、オペラの傑作と呼ぶにふさわしい。私は、このオペラを3つの男女のカップルの行動から見ることにしていた。

 一つは、田舎娘のツェルリーナと間の抜けたマゼットのカップル。
 ツェルリーナは一見、純情可憐のようでいて、マゼットに遠慮するそぶりを見せながら、百戦錬磨の色男ジョバンニを誘惑する雰囲気がある「小悪魔的女性」である。アリア「手に手を取り合って」はジョバンニとツェルリーナの美しい二重唱であるがそうした感じを抱かざるを得ない。マゼットはツェルリーナの浮気心に対して毅然とした態度でいるようなのだが、アリア「ぶって、ぶって、大好きなマゼット」などとツェルリーナに歌われるとコロリと手玉に取られてしまう。モーツァルトは、こうした女性を生き生きと描いている。おそらくモーツァルト自身が、好んだ女性だったのであろう。

 二つ目が、ドンナ・アンナとドン・オッターヴィオのカップル。
 父親をジョバンニに突然に殺されてしまったため、父親離れが出来なくなってしまったアンナは、オッターヴィオを愛することが出来なくなってしまい、「復讐を」と言い続けることになります。アンナはジョバンニに暴行されそうになるのを拒絶したのですが、恋人まで拒絶することになってしまいました。それだけに、オッタービィオのアリア「彼女の安らぎこそが」は甘美で叙情的で胸を打ちます。また、このオペラではオッターヴィオを除き、男性歌手はバスかバリトンなので、テノールのラモン・ヴァルガスの歌声はとりわけ美しく響きました。

 三つ目はドンナ・エルヴィーラとドン・ジョバンニ。本当はカップルとは呼べないのですが、ドンナ・エルヴィーラは三日間ドン・ジョバンニの妻でした。「捨てられた女」のエルヴィーラはドン・ジョバンニをひどい男と思いつつ、忘れることが出来ない女性として描かれています。これは、現代にも通じる女性であり、恨んだり、愛したり、邪魔をしたり、庇ったりするのは現実を見るようです。
 こうした、カップルのそれぞれが綾になり進行するのは、なかなか見応えがあります。

 一方、ジョバンニの好色ぶりは流石です。二重唱のアリア「手に手を取り合って」(前出)やマンドリンで歌われるアリア「さあ、窓辺においで」は、ドン・ジョバンニのセレナードとも呼ばれていて、素晴らしい恋の歌になっています。これらの曲は、モテ男はこのように女性を誘惑するのだとモーツァルトが教えてくれているのようなものです。
 
 しかし、第2幕の後半になると墓場のシーンやドン・ジョバンニの館に騎士長の石像が登場する場面などから再び劇的となり、一気に結末へと至ります。
 このオペラは、まさに光と影、明と暗が交錯し、オペラ・ブッファ(喜劇)と言われながら、文豪ゲーテがデモーニッシュ(魔神的)と呼んだような魅力に溢れていて、十分に楽しむことが出来ました。

 MET首席指揮者F・ルイージの情熱的な指揮のもとで優雅にして劇的な音楽が流れます。レチタティーヴォ(叙唱)も指揮台のすぐ前にチェンバロを置き自ら弾きます。舞台を見ながらなので流れを止めることのない演奏となり素晴らしい。

 また、マイケル・グランデージの演出はトラディショナルで、舞台・美術・衣装は合格点といえます。ドン・ジョバンニの館での舞踏会なども、良く雰囲気が出ていました。
 
 なお、METの「ドン・ジョバンニ」は同じ演出で2011年版と2016年版がありますが、ドン・ジョヴァンニを演じるマリウシュ・クヴィエチェンが若くて力強く演技している2011年版を使用しました。



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