会社からクルマで5、6分の敷島公園の松林の中に、この「歸郷」の詩碑がある。いまでは訪れる人は少ないが、たまに拓本をとりにくる者があるとみえて、詩碑の表面は、いつも黒々と墨に染まっている。「月に吠える」で、清新極まりない口語自由詩の先駆者となった朔太郎は、生活にも、詩作にもいきづまって、やがて「氷島」へと、後退していく。しかし、むろん故郷は彼にとっては「安息の地」たりえず、暗い詩魂をかかえて、利根川べりをさまよい、一群の「郷土望景詩」などを書くようになる。いまでは、新幹線で高崎~東京間は1時間。上野駅までなら、45分である。
ところがこの時代、上野駅から高崎駅までは、3時間はかかっただろう。
だからこそ《まだ上州の山は見えずや》の一句が重みをもってくる。
こちらでは、赤城、榛名、妙義の山々を「上毛三山」と呼びならわしている。そのほかに、西には名山・浅間山があり、上越国境には、谷川連邦が顔をのぞかせる。前橋は朔太郎の町。
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