免停のためクルマにも乗れず財布の中はカラッピーでぼくは七キロの道をとぼとぼ歩いた。カメラはもっていなかった。すりへったスニーカーと 安物のジーパン。風のない おだやかな秋の午後だった。捨てるに捨てられない夢が少しおくれてついてくる。役にたたない 老いた牛のように。
虚無というのではないがなにか手につかんだものを毀したいという衝動を
ぐっとこらえながら ため息をつきつき歩いていた。あれから何年たったのだろう。いまぼくはモーツァルトの弦楽五重奏曲のかたわらにいる。
第4番ト短調 K.516が聞こえている。
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いちばん最初に、メンデルスゾーンの交響曲第3番イ短調を聴いたのはいつだろう。三十代のなかばころ、事務員から住宅業界に転職し、深夜11時12時まで仕事づくめだったきびしい日々が、3年半ほどつづいたことがある。以前より収入がアップしたので、オーディオなるものを買って、LPからCDに移行し、5、60枚のCDをあつめて、ヒマがあるときなど、聴いてすごしたものだが、そのCDの90%はクラシック音楽だった。その中に、廉価版のメンデルスゾーン、第3番第4番のカップリングがあった。演奏はクレンペラー&フィルハーモニア管。だから、推測では、この音楽に魅せられてから、おおよそ25年がたっている。“スコットランド”は、わたしを、ある種の幸福感で満たす。あこがれと、憂愁の音楽とでもいえばいいのか?
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