(いずれも創元推理文庫版。文字はやや小さいが登場人物一覧がある)
■コナン・ドイル「緋色の研究」深町眞理子訳(創元推理文庫・新訳版 2010年刊)
本編は、よく知られているように、二部構成となっている。
第1部 元陸軍軍医、医学博士 ジョン・H・ワトソンによる回想録より
第2部 聖徒の国
第1部はこれまでくり返し読んできたので、だいたい頭に入っている。だけど、第2部は、以前読んだとき、あまりおもしろくなかったので、ほぼ忘れていた。ストーリーの展開が鋳型にはまっていると思えた。冒険と復讐のよくあるお話なのである。
まあシャーロック・ホームズのデビュー作だから読むけど、そうでなければすっ飛ばしてしまうだろう(*´ω`)
<シャーロック・ホームズの特異点>
1.文学の知識―皆無
2.哲学の知識―皆無
3.天文学の知識―皆無
4.政治についての知識―僅少
5.植物学の知識―一様でない。ベラドンナ、阿片、その他の毒物一般には通じているが、実地の栽培法についてはまったく無知。
6.地質学の知識―実用的、ただし限界もある。一目見て、それぞれ異なる土壌を見わけることができる。散歩から帰って、ズボンについた泥っぱねを示し、それぞれの色や粘度からロンドンのどの地域で付着したものかを指摘してみせたこともある。
7.化学の知識―深い。
8.解剖学の知識―的確、ただし系統的ではない。
9.通俗的な読み物についての知識―該博。今世紀に発生した煽情的な事件に関しては、そのすべてについて、細部まで詳しく知るもののようである。
10.ヴァイオリンをたくみに奏する。
11.棒術、拳闘、剣術にすぐれる。
12. 英国の法律について、豊かな実用的知識をそなえる。
同居人のワトスンがあげてみせたこれらの“特異点”は、シャーロック・ホームズなる登場人物に対し、興味をかきたててやまない。性格や嗜好が極端に偏っている。
ハンドルネームをシャーロックとしたのは、わたしの敬愛がなせる技であ~る(^^;;)
じつに興味深い、奥行きの深いキャラクターだといえる。
このシャーロック・ホームズのシリーズは、今世紀になっても、古典として読み継がれている。
その人気は、ミステリの中でおそらくはアガサ・クリスティーと双璧だろう。わたしはシャーロキアンではないが、彼は若いころのわたしの読書の中心に、でんと居座っていた。
文庫だけに限っていえば、
新潮文庫版
角川文庫版
光文社文庫版
創元推理文庫のみならず、この3社のものが、必ずといっていいほど書店の棚に置いてある。新潮社と光文社のものはわたしも全巻ストックがあるし、単行本でもちらほら所有している。
くどいかも知れないが、本編の内容をざっとおさらいしてみる。
《異国への従軍から病み衰えて帰国した元軍医のワトスン。下宿を探していたところ、同居人を探している男を紹介され、共同生活を送ることになった。下宿先はベイカー街221番地B、相手の名はシャーロック・ホームズ―。永遠の名コンビとなるふたりが初めて手がけるのは、アメリカ人旅行者の奇怪な殺人事件。その背後にひろがる、長く哀しい物語とは。ホームズ初登場の記念碑的長編。》BOOKデータベースより
ところが第2部はうろ覚え。
「そうか、こういう復讐の物語だったのか」
「緋色の研究」は、1887年の初版当時、あまり人気が出なかったようである。大ブレイクしたのは「シャーロック・ホームズの冒険」に収められた短篇を発表しはじめてから。
短篇の切れ味鋭いストーリーテリングの巧妙さは、多くの読者から愛され、いまでも絶大な人気を誇る。
「緋色の研究」 1887年
「シャーロック・ホームズの冒険」 1892年
ミステリの先駆者はもちろんエドガー・アラン・ポーである。それをさらに万人好まれるエンターテインメントとして磨きをかけ、口溶けのよいものにしたのはコナン・ドイルの手柄。
「シャーロック・ホームズの思い出(回想)」 1894年
「シャーロック・ホームズの帰還」 1905年
「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」 1917年
「シャーロック・ホームズの事件簿」 1927年
「シャーロック・ホームズの帰還」から「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」までのあいだが、12年も離れている。「シャーロック・ホームズの事件簿」はさらに10年後。
だが、ドイルはチャレンジャー教授シリーズ(有名なのは「失われた世界」)、ジェラール准将シリーズその他、恐怖小説、海洋小説、スポーツ小説、歴史小説など、現在ではあまり読まれなくなった小説をつぎからつぎと書いていたのだ(゚ω、゚)
ドイル傑作集と銘打たれた短篇集が新潮文庫に3冊、創元推理文庫に4冊あることはある。
ところで、創元推理文庫の「四人の署名」の巻末で紀田順一郎さんが「怪奇小説として見たホームズ・シリーズ」という解説を書いている。
《ドイルが歴史小説を本命とし、推理小説は重視していなかったことはよく知られている。SFやホラー系の作品も、推理小説よりは上位に考えていた形跡がある。十九世紀後半から二十世紀前半にかけて多数輩出した物語作家に伍して、一作ごとに独創性の高い境地を拓いていった彼にとって、ホームズとワトソンのキャラクターを中心に構成した物語も、いったん定型化してしまうと、作家としては必要以上にマンネリ性が意識され、執筆作業そのものが苦痛となったことが考えられる。》(「四人の署名」246ページ)
生意気をいわせていただくなら、紀田さんのこの意見は、一見識といってよい。
今回読み返して、伝奇小説的要素が想像以上に強いことを感じざるを得なかった。モルモン教徒を実際よりはるかに神秘的な教団として描いているのは、ドイルにとって、必要な味つけだったからである。
ホームズ・シリーズはそういった背景から生み出されたものである。いずれにせよ、ここに“はじまりの光景”がある。一二歩遅れて「シャーロック・ホームズの冒険」が始動する。短篇集が彼を、ミステリ(当時は推理小説)の巨匠に育てていったのである。だが、ご存じのように、伝奇小説的なテイストはあとまで残って、「バスカヴィル家の犬」へとつながってゆく。
若いころにはそこまでは読者として見えていなかったということになる。
世界中に多くのファンを擁する、これほど有名な“古典”となると、わたし個人が評価したからってほとんど意味がないとは思うけどね(;^ω^)
昔元気だったころは、ロンドンのベイカー街221番地Bへ、ぜひともいってみたいとかんがえたことがあった。
パスティーシュ等にいろいろな形で登場する、ベイカーストリート・イレギラーズ(Baker Street Irregulars)はこんなふうに登場するんだったなあ。
・・・そうか、ほぼ忘れていたよん。
評価:☆☆☆☆
※ Wikipediaに非常に詳しい紹介記事があるので、一応Linkを貼り付けておこう。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%AB
■コナン・ドイル「緋色の研究」深町眞理子訳(創元推理文庫・新訳版 2010年刊)
本編は、よく知られているように、二部構成となっている。
第1部 元陸軍軍医、医学博士 ジョン・H・ワトソンによる回想録より
第2部 聖徒の国
第1部はこれまでくり返し読んできたので、だいたい頭に入っている。だけど、第2部は、以前読んだとき、あまりおもしろくなかったので、ほぼ忘れていた。ストーリーの展開が鋳型にはまっていると思えた。冒険と復讐のよくあるお話なのである。
まあシャーロック・ホームズのデビュー作だから読むけど、そうでなければすっ飛ばしてしまうだろう(*´ω`)
<シャーロック・ホームズの特異点>
1.文学の知識―皆無
2.哲学の知識―皆無
3.天文学の知識―皆無
4.政治についての知識―僅少
5.植物学の知識―一様でない。ベラドンナ、阿片、その他の毒物一般には通じているが、実地の栽培法についてはまったく無知。
6.地質学の知識―実用的、ただし限界もある。一目見て、それぞれ異なる土壌を見わけることができる。散歩から帰って、ズボンについた泥っぱねを示し、それぞれの色や粘度からロンドンのどの地域で付着したものかを指摘してみせたこともある。
7.化学の知識―深い。
8.解剖学の知識―的確、ただし系統的ではない。
9.通俗的な読み物についての知識―該博。今世紀に発生した煽情的な事件に関しては、そのすべてについて、細部まで詳しく知るもののようである。
10.ヴァイオリンをたくみに奏する。
11.棒術、拳闘、剣術にすぐれる。
12. 英国の法律について、豊かな実用的知識をそなえる。
同居人のワトスンがあげてみせたこれらの“特異点”は、シャーロック・ホームズなる登場人物に対し、興味をかきたててやまない。性格や嗜好が極端に偏っている。
ハンドルネームをシャーロックとしたのは、わたしの敬愛がなせる技であ~る(^^;;)
じつに興味深い、奥行きの深いキャラクターだといえる。
このシャーロック・ホームズのシリーズは、今世紀になっても、古典として読み継がれている。
その人気は、ミステリの中でおそらくはアガサ・クリスティーと双璧だろう。わたしはシャーロキアンではないが、彼は若いころのわたしの読書の中心に、でんと居座っていた。
文庫だけに限っていえば、
新潮文庫版
角川文庫版
光文社文庫版
創元推理文庫のみならず、この3社のものが、必ずといっていいほど書店の棚に置いてある。新潮社と光文社のものはわたしも全巻ストックがあるし、単行本でもちらほら所有している。
くどいかも知れないが、本編の内容をざっとおさらいしてみる。
《異国への従軍から病み衰えて帰国した元軍医のワトスン。下宿を探していたところ、同居人を探している男を紹介され、共同生活を送ることになった。下宿先はベイカー街221番地B、相手の名はシャーロック・ホームズ―。永遠の名コンビとなるふたりが初めて手がけるのは、アメリカ人旅行者の奇怪な殺人事件。その背後にひろがる、長く哀しい物語とは。ホームズ初登場の記念碑的長編。》BOOKデータベースより
ところが第2部はうろ覚え。
「そうか、こういう復讐の物語だったのか」
「緋色の研究」は、1887年の初版当時、あまり人気が出なかったようである。大ブレイクしたのは「シャーロック・ホームズの冒険」に収められた短篇を発表しはじめてから。
短篇の切れ味鋭いストーリーテリングの巧妙さは、多くの読者から愛され、いまでも絶大な人気を誇る。
「緋色の研究」 1887年
「シャーロック・ホームズの冒険」 1892年
ミステリの先駆者はもちろんエドガー・アラン・ポーである。それをさらに万人好まれるエンターテインメントとして磨きをかけ、口溶けのよいものにしたのはコナン・ドイルの手柄。
「シャーロック・ホームズの思い出(回想)」 1894年
「シャーロック・ホームズの帰還」 1905年
「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」 1917年
「シャーロック・ホームズの事件簿」 1927年
「シャーロック・ホームズの帰還」から「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」までのあいだが、12年も離れている。「シャーロック・ホームズの事件簿」はさらに10年後。
だが、ドイルはチャレンジャー教授シリーズ(有名なのは「失われた世界」)、ジェラール准将シリーズその他、恐怖小説、海洋小説、スポーツ小説、歴史小説など、現在ではあまり読まれなくなった小説をつぎからつぎと書いていたのだ(゚ω、゚)
ドイル傑作集と銘打たれた短篇集が新潮文庫に3冊、創元推理文庫に4冊あることはある。
ところで、創元推理文庫の「四人の署名」の巻末で紀田順一郎さんが「怪奇小説として見たホームズ・シリーズ」という解説を書いている。
《ドイルが歴史小説を本命とし、推理小説は重視していなかったことはよく知られている。SFやホラー系の作品も、推理小説よりは上位に考えていた形跡がある。十九世紀後半から二十世紀前半にかけて多数輩出した物語作家に伍して、一作ごとに独創性の高い境地を拓いていった彼にとって、ホームズとワトソンのキャラクターを中心に構成した物語も、いったん定型化してしまうと、作家としては必要以上にマンネリ性が意識され、執筆作業そのものが苦痛となったことが考えられる。》(「四人の署名」246ページ)
生意気をいわせていただくなら、紀田さんのこの意見は、一見識といってよい。
今回読み返して、伝奇小説的要素が想像以上に強いことを感じざるを得なかった。モルモン教徒を実際よりはるかに神秘的な教団として描いているのは、ドイルにとって、必要な味つけだったからである。
ホームズ・シリーズはそういった背景から生み出されたものである。いずれにせよ、ここに“はじまりの光景”がある。一二歩遅れて「シャーロック・ホームズの冒険」が始動する。短篇集が彼を、ミステリ(当時は推理小説)の巨匠に育てていったのである。だが、ご存じのように、伝奇小説的なテイストはあとまで残って、「バスカヴィル家の犬」へとつながってゆく。
若いころにはそこまでは読者として見えていなかったということになる。
世界中に多くのファンを擁する、これほど有名な“古典”となると、わたし個人が評価したからってほとんど意味がないとは思うけどね(;^ω^)
昔元気だったころは、ロンドンのベイカー街221番地Bへ、ぜひともいってみたいとかんがえたことがあった。
パスティーシュ等にいろいろな形で登場する、ベイカーストリート・イレギラーズ(Baker Street Irregulars)はこんなふうに登場するんだったなあ。
・・・そうか、ほぼ忘れていたよん。
評価:☆☆☆☆
※ Wikipediaに非常に詳しい紹介記事があるので、一応Linkを貼り付けておこう。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%AB