二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「この国の仇」 福田和也(光文社)

2010年04月04日 | エッセイ(国内)
平成10年の刊行なので、もうずいぶん古い本になってしまった。
福田和也さんは、知る人ぞ知る保守論客の一人。
1993年に「日本の家郷」で三島由紀夫賞を受賞しているので、
はじめは文芸評論家として出発している。
しかし、その後かなりの本を出しているけれど、文芸批評というより、
こういった「論説」本が多いように思える。

本書は3つの章に分かれている。
1.「こどもの人権」というまやかしの大合唱を討つ」
2.「自由・人権・民主主義」という正義面の大合唱を討つ
3.「地球市民」という善意の大合唱を討つ

正論とか、世論というものは、マスコミがつくり出すのだろうが、
まことに厄介な一面をもっている。
福田さんは、そういった正論に対し、真っ向から噛みついて、
その美辞麗句のウラに隠された虚妄、虚偽を暴き出す。
まるで「噛み癖」のある犬のようだ、といっては失礼だろうな^^;

本書は力のこもった本格的な論考ではなく、
どちらかといえば、「床屋談義」のレベルに仕上げてある。
むろん、意図的にこういった本にしたのだろう。
ページの大半はむろん、一見「もっともらしい」正論、世論にゆさぶりをかけ、
ポピュリズムのもっている軽佻浮薄ぶりをやっつけていることに、ついやされている。

たとえば「第1章」の小見出し。
「こどもの権利を守れ」――で何を守ろうというのか
「いじめをなくせ」――るわけがない
「男女平等」――をだれが本気で実現したいものか
「ナイフの販売自粛」――は姑息、こどもにナイフを持たせろ
「個性尊重」で個性ある――で個性ある人格が育ったためしはない

・・・というふうに、論議がすすんでいく。
文章はインタビュー記事のような話しことばだし、論旨は非常に明快。
しかし、こういった政治的・社会的な論説は、古びるのがとてもはやいし、
10年たったら、読むにたえないものに化けてしまうことが多い。
本書が刊行されて十年。光文社ではすでに品切れとしているようである。
絶版にしてしまうのは、惜しいといえば惜しいけれど、
この種の本の宿命である。
わたしとしては、昭和史を検証したいという思いから手にした一冊。戦前vs戦後で、
日本の国家は、表面上まるで別物のように変貌をとげた。
しかし、ほんとうにそうなのか?

グローバル化のきびしい大波のなかで国家として衰亡の道をたどるのか、その試練をこえて、日本の「再生」はあるのか? 結論はいましばらく持ち越しとしておこう。


評価:★★★

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