二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「地政学入門 外交戦略の政治学」曽村保信(中公新書 1984年刊)レビュー

2018年05月01日 | 歴史・民俗・人類学
読みはじめたのは羽田正さんの「東インド会社とアジアの海」(講談社・興亡の世界史)の方が早かった。だが、読みおえたのはこちらが先になった。
専門書ではなく、一般向けに書かれた世界史の本としては、どちらも、いまだ第一級の知的レベルをたもっていると思われる。

読みおえてからAmazonでレビュー検索をしてみた。興味深いのはこれが、政治・軍事の図書というより、現代のビジネス戦士の“必読書”として扱われていること。
羽田正さんのさきに挙げた著書の場合と共通するが、日本のグローバル企業が販路拡大、仕入・販売の戦略を練るための基礎理論を提供している・・・と見なしていいだろう。

日本は周囲を海にかこまれた小さな島国。よく「貿易立国」ということばを耳にするし、TPP問題が注目されだしたのは近年のことだが、そういった問題とLINKさせて読むとたいへんおもしろい♪
オビには「強大化するする隣国といかに付き合うか」ということばが躍っている。「隆盛のアジア、没落する日本。いま最も必要な学問」というわけである。
刊行が1984年だから、防衛大学の先生方が、若いころに読んだ本の一冊かもしれない。

ロングセラーとなっているのは、国際情勢を読み解くためのフレームが、ここに提示されているからである。マッキンダー、ハウスホッファー、マハンらの軍事研究が、丁寧にわかりやすく解説されている。
曽村さんの本ははじめて読むのだが、いろいろな意味で“必読書”たる資格を備えている。外務省ご出身の佐藤優さんは、曽村さんというより、マッキンダー、ハウスホッファー、マハンを徹底して学習した形跡がある。
巻末の参考資料に本書があったので、わたしも入門のつもりで手に取ったが、入門書とはいえ、記述された内容のレベルは高い(^^)/

目次を掲げてみよう。
序章   地球儀を片手に
第一章  マッキンダーの発見
第二章  ハウスホッファーの世界
第三章  アメリカの地政学
終章   核宇宙時代の地政学

ちなみに紹介文を引用すると、
《地政学とは地球全体を常に一つの単位と見、その動向をリアル・タイムでつかんで、そこから現在の政策に必要な判断の材料を引き出そうとする学問の謂であり、かなり高度な政策科学の一種である。従来、誤解されがちな観念論でも宿命論でもない。国際政治学が国際関係を静態モデルの連続として、その間の変化を細かくとらえようとするのに対して、地政学は国際関係を常に動態力学的な見地からみようとするものである。》

・・・ということになる。
国際関係論では概念として漠然とし過ぎている。しかし、地政学といわれると、具体的なイメージを掴みやすい。
一冊の本と向かい合ったとき必要となるのは読解力。読解力は日本語力や知力に裏打ちされたものである。そこに経験力もくわわってくる。経験力とはこれまでどんな生き方をしてきたかに直結するものだが、個別性に執着するのではなく、そこから普遍性を見出していかなければならない。

世界地図の中から、日本地図をあらためて問い直す。
それが地政学の基本となる。日本をふくむこの東アジアが、なぜ“極東”と呼ばれているのかがわかっていないと、地政学は読み解けない。
すなわち、日本も、わたし自身も、世界の中心にはいない・・・・ということである。
そういうことに理解がなければ、地政学はよそ事に終るだろうし、地図はジグソーパズルの絵模様に過ぎない。
その意味から、世界地図や近代地理学が戦争や政治の舞台裏にゆるぎなく存在することを、非常に明晰に論述した、秀逸な一冊!




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