――この写真にそえて
1
そのあたりはいついっても
ひっそりかんとしていた
人の気配はない
だけど だれかが
だれかがいる
いろいろな花が咲いている
だから 見渡す世界はとてもにぎやか
音楽はもちろん なんの物音も聞こえないのに
そこに だれかがいる
こっちを見ている
黙っている
少年のようでも 少女のようでもある
親指ほどのサイズの小人は 光の椅子にすわっている
2
「きみはだれ」
「・・・・」
「花の精?」
相手は無言でうなずく
そいつが なにかの拍子にひょいとどこかへかくれてしまう
どこへいったんだろう
ぼくは高い空を流れていく雲を見上げる
花の精は空を飛んでいる
光の粒にまじって
死者の魂のように 半透明の羽虫のように
近づいては遠ざかり
また近づいてはとおざかり
3
黄色から白へ
色のトーンカーブに沿って花の精は花弁の坂を舞い降りる
「疲れたよ きみのそばへいきたい」
「・・・・」
「だめ?」
相手はうなずく
見ると うす茶色のとんがり帽子を手にもっている
「どこからきたの」
とたずねると 空を指さす
ぼくにはなにも見えないが
そこになにかが ・・・・たぶん 見えない神様がいる
死んだ人や犬や猫をひきつれて
地上のありさまを じっと眺めている
4
「死んだら ぼくのそばへくる?」
突然 花の精がつぶやいたような気がした
「うん」とぼくはうなずく
「いってもいいの」
ほそい三日月の眉がぴくんと動いて
うっすらと笑ったようだ
「静かだね」
「静かだね」
「きみはどこにでもいるし どこにもいないんだね」
「わたしはどこにでもいるし どこにもいない」
自分と押し問答しているうちに眠くなった
4月の芝生
微風が音もなく 肌をそよがせてわたっていく