二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

花の精

2010年07月11日 | Blog & Photo



  ――この写真にそえて



そのあたりはいついっても
ひっそりかんとしていた
人の気配はない
だけど だれかが
だれかがいる

いろいろな花が咲いている
だから 見渡す世界はとてもにぎやか
音楽はもちろん なんの物音も聞こえないのに

そこに だれかがいる
こっちを見ている
黙っている

少年のようでも 少女のようでもある
親指ほどのサイズの小人は 光の椅子にすわっている



「きみはだれ」
「・・・・」
「花の精?」
相手は無言でうなずく

そいつが なにかの拍子にひょいとどこかへかくれてしまう
どこへいったんだろう
ぼくは高い空を流れていく雲を見上げる

花の精は空を飛んでいる
光の粒にまじって
死者の魂のように 半透明の羽虫のように
近づいては遠ざかり
また近づいてはとおざかり



黄色から白へ
色のトーンカーブに沿って花の精は花弁の坂を舞い降りる
「疲れたよ きみのそばへいきたい」
「・・・・」
「だめ?」

相手はうなずく
見ると うす茶色のとんがり帽子を手にもっている
「どこからきたの」
とたずねると 空を指さす

ぼくにはなにも見えないが
そこになにかが ・・・・たぶん 見えない神様がいる
死んだ人や犬や猫をひきつれて
地上のありさまを じっと眺めている



「死んだら ぼくのそばへくる?」
突然 花の精がつぶやいたような気がした
「うん」とぼくはうなずく
「いってもいいの」
ほそい三日月の眉がぴくんと動いて
うっすらと笑ったようだ

「静かだね」
「静かだね」
「きみはどこにでもいるし どこにもいないんだね」
「わたしはどこにでもいるし どこにもいない」

自分と押し問答しているうちに眠くなった
4月の芝生
微風が音もなく 肌をそよがせてわたっていく

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