二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

途方もなく大きな音の河

2010年09月02日 | 音楽(クラシック関連)
昨日は水曜日だったが、正午まえから、3時過ぎまで仕事だった。
帰りがけに、以前から気になっていたCDを1枚買って帰った。
ブルックナーの交響曲第7番、4枚目となるCD。

疲れ切って、うつらうつらしながら、エアコンの効いたリビングで、そのCDを聴いて過ごした。
そして、ブルックナーとは、向こう岸が見えないほど途方もなく大きな音の河なのだ・・・昨夜は、それを痛感し、タバコを吸ったり、酔いを覚ますため、氷をたっぷり浮かべた水を飲んだりしながら、しばしことばを失っていた。

先日の日記に書いたように、わたしはこの1ヶ月あまり、わたしにとっての理想のブルックナー第7を探していた。
これまでもっているCDは、以下の通り。

■ カール・シューリヒト指揮 コンセール・コロンヌ・フィル(1956年ライヴ)
■ ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮 スロヴェニア・フィルハーモニー管弦楽団(1984年)
■ ギュンター・ヴァント指揮 ベルリンフィルハーモニー管弦楽団(1999年)

図書館から借りてきて、ヨッフム&シュターツカペレ・ドレスデン盤でも聴いている。
そして昨日は、ヘルベルト・フォン・カラヤン&ウィーン・フィルの1枚を買ってきて、これを聴いた、というわけである。

カラヤンはこのコンサートのあと、3ヶ月ほどで死んでしまったから、よく知られているように、これがラスト・コンサート。
「やっぱり、最後はブルックナーにたどり着いたか」
と、多くの批評家が感慨深げに書いている。

ところが、である。
マタチッチのブルックナー第7番も、この指揮者のラスト・コンサート。
カラヤン&ウィーン・フィルといえば、第一級の演奏家の組合わせ。それと比較し、マタチッチ&スロヴェニア・フィルは、どうひいきめに見ても、B級の組合わせなのである。

さて、・・・わたしはめずらしく、じっくりと聴きこんで、どちらか1枚となれば、「マタチッチ&スロヴェニア・フィルをとりたい」という結論になった。
くっきりと際だった、妥協を許さない音の粒だち。内省的で、楽想のふところが深く、オケに対する手綱さばきがじつに見事なのである。管楽器群の迫力もすごいし、それをささえる弦の分厚さも十分。
かつて、NHKの放送で、この老指揮者の風貌は、何回か見ている。
だけど、あれれ?
ほんとうに、これほどの指揮者だったのか。
第2楽章のアダージョが、ほの暗く苦々しい人生の一こまを、あるいは華やいだ甘美な過去をたぐり寄せる。
少しも悲しくないのに、涙が流れてとまらない。
そして、そして――金管群を先頭に、音が無邪気な生き物のように飛び跳ね、笑顔をみせたかと思うと、渋面に顔をゆがませる、変幻自在なスケルツォの第3楽章。
マタチッチはすべてを手のうちにおさめ、オケを歌わせている。楽想は、天国と地獄のあいだを、荘重にゆれ動き、聴衆のこころをえぐったかと思うと、「さあさあ、諸君、いまこそ、存分に愉しもうではないか」と解き放つ。

わたしは、カラヤン&ウィーンのCDを聴くことで、マタチッチ&スロヴェニア・フィルの魅力に、遅ればせながら気がついたようである。
まさに、そうなのである。
峻烈にして甘美な、振幅のじつに大きな音楽!
マタチッチとは何者なのか?
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%B4%E3%83%AD%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%BF%E3%83%81%E3%83%83%E3%83%81

ここを参照すると、日本へは9回もきて、演奏をしている。
「ああ、あ。そうか。政治犯として、死刑宣告をうけたほどの男じゃないか」
名誉指揮者の称号を贈りはしたものの、日本人のいったいだれが、この指揮者の真の「凄み」を理解したのだろうか。

このCDには、「おまけ」として、第3楽章のリハーサル風景が収録されている。
YouTubeを検索したら、こんな動画もupされていた。
http://www.youtube.com/watch?v=7aAduugHz7A&feature=related
「なんだ、このセイウチのような馬鹿でかいじんさんは」というなかれ(笑)。
この男の表情やぶつくさいっている口もとや、大きな丸い背中や、ひらひらと動きまわる手から、音楽が迸り出ているのが、わかるだろう。作曲者ブルックナーを彷彿とさせるではないか。
旧ユーゴ出身というだけで、B級の評価に甘んじることになったのだとしたら、他人の評価はあてにはならない。

わたしは、ずいぶん迂回して、ブルックナーの第7交響曲に、ようやくたどり着きつつあるようだ。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 甘い、あま~いフルーティー... | トップ | 風の音 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

音楽(クラシック関連)」カテゴリの最新記事