二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

日本神話と古代国家  直木孝次郎

2010年01月06日 | 歴史・民俗・人類学
直木孝次郎さんは、中央公論社の『古代国家の成立』(日本の歴史2)を愛読していた。3度ほど読み返しているだろう。初版刊行は1965年だが、中公文庫に収められ、ロングセラーとなっている。むろん現在も、新装版として現役。

中公の「日本の歴史」シリーズは、われわれの年代にとっては、名著以外の何ものでもなかった、といまにして考える・・・。
ウィキベディアを参照すると、直木さんにはじつにたくさんの著書がある。
わたしの日本古代史の知識は、ずっとこの本によるところが大きかった。このシリーズはこの種の本としては例外的に、かなり売れたらしい。ロングセラーとして各編とも、60~70万部を記録したと、何かで読んだ記憶もある。

じつに久しぶりに、直木さんが用意してくれたテーブルについた、というわけである。メニューは講談社学術文庫で「日本神話と古代国家」。
本書は書き下ろしたものではないので、重複もあるが、リベラルな立場からの「古代史のスタンダード」としての役割をいまもはたしている。
津田左右吉の存在がかくも大きなものであったとは、本書を読むまで知らなかった。
紀元節問題(建国記念日)や君が代斉唱をめぐって、世論が沸騰した時期があったことなど、もう忘れ去られようとしている。

わが日本にはじめて権力が誕生するにあたって、どういったいきさつがあったのか?
「古事記」「日本書紀」に語られる神話に対して、どういった理解をもったらいいのか?

残念ながら、文献は非常にかぎられているのだが、著者は神話学的な視点も導入しつつ、
「国づくり神話」からはじまり、アマテラスオオメカミの正体、神武天皇の意味、欠史八代の真相などに迫っていく。冷静で説得力のある古代史論である、と思う。

敗戦までは国家主義に利用され、ほとんどブラックボックスであった記紀神話は、「天皇制」をささえる根拠。悪しき「御用史学」から解放されてまもない時代から、直木さんの研究はスタートしている。

本書に収められた論文のうち、いちばん古いのは1965年、また新しいのは、1988年であるが、著者は丹念に「事実と作為」のもつれた糸を読み解いていく。
近年のめざましい考古学的発掘を取り込みながら、さらに「古代史像」は書き換えられていくのだろうが、この本の価値が減ずることは、まだ当分あるまいと、わたしなどは考える。「奇抜な思いつき」や「偏ったテキストの読み方」からは、できうるかぎり自由な立場に立って、地味な努力を重ねてきた成果が、この1冊に凝縮している。


評価:★★★★★

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