二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

旅情というものの普遍性  ~岡本かの子「東海道五十三次」を読む

2024年09月04日 | 小説(国内)
困ったことではあるが、老化現象が頭や体を衰えさせ、この1-2年、何百ページもある長篇小説が読めなくなってしまった。いずれはこうなるとはかんがえていた。しかし、老化のペースは、予想より4-5年はやくやってきた(´ω`*)
何度となく書いてはいるが、晩酌をやめれば、多少は持ち直すかな、わからんけど。
・・・というわけで、短篇小説のありがたさが、ぐ~んと身に沁みてくる(笑)。
アルコールを断てばいいとは、漫然とは思っている。

そこそこ読みはしても、レビューのようなものを書くのが、億劫になっている。そちらも老化だろうが。
近代文学のうち、女性作家では、岡本かの子、林芙美子、幸田文等が、30代のころから好きでいくらか読んできた。今回は新潮文庫の「老妓抄」をチョイスした。
以前この「老妓抄」から、表題の「老妓抄」「鮨」「家霊」を読み、岡本かの子の短篇に感心しまくった記憶がある。
そしていま読みたいのが「東海道五十三次」、「金魚撩乱」(糸へんではなく手へん)、「食魔」の3篇。
3つのうち、「東海道五十三次」だけ読み了えたので、感想を書いておこう。

《鉄道の隧道(すいどう)が通っていて、折柄、通りかかった汽車に一度現代の煙を吐きかけられた以後は、全く時代とは絶縁された峠の旧道である。左右から木立の茂った山の崖裾の間をくねって通って行く道は、ときどき梢の葉の密閉を受け、行手が小暗くなる。そういうところへ来ると空気はひやりとして、右側に趨(はし)っている瀬川の音が急に音を高めて来る。何とも知れない鳥の声が、瀬戸物の破片を擦り合すような鋭い叫声を立てている。》83ページ

「何とも知れない鳥の声が、瀬戸物の破片を擦り合すような鋭い叫声を」という比喩はうまいなあ。ことばに対する感性はなみなみならぬものがある。

《「この東海道というものは山や川や海がうまく配置され、それに宿々がいい工合(ぐあい)な距離に在って、景色からいっても旅の面白味からいっても滅多に無い道筋だと思うのですが、しかしそれより自分は五十三次が出来た慶長頃から、つまり二百七十年ばかりの間に幾百万人の通った人間が、旅というもので甞(な)める寂しみや幾らかの気散じや、そういったものが街道の土にも松並木にも宿々の家にも浸み込んでいるものがある。その味が自分たちのような、情味に脆もろい性質の人間を痺(しび)らせるのだろうと思いますよ」》87ページ

東海道にこんなふうに関心をいだくのは、ちょっとめずらしいのではないか? 少しも古めかしさがない。普遍性というか、新時代の旅情ともいうべきである。
国木田独歩が味としては似た味のものを書いていたかもしれない(^ε^)

《財を築き、今なお生命力に溢れる老妓は、出入りの電気器具屋の青年に目をかけ、生活を保証し、好きな発明を続けさせようとする。童女のようなあどけなさと老女の妄執を描き、屈指の名短編と称される表題作。不遇の彫金師の果たそうとして果たすことができなかった夢への無念の叫び「家霊」。女性の性の歎き、没落する旧家の悲哀、生の呻きを追求した著者の円熟期作品9編を収める。》新潮文庫 BOOKデータベース

このデータベースでは「東海道五十三次」にはふれていない。
さて、書き写すのはめんどうじゃなあ・・・と思っていたら、青空文庫がカバーしてくれていた。(引用は青空文庫)
かの子は晩年のわずか4年余で、あらかたの小説を制作したというのだからすごい(゚o゚; しかも岡本太郎の母親だし。

これまでの作家で旅情を書いた人物は大勢いるだろうが、彼女のように書いた人はいない。“主人”や“作楽井”(さくらい)、小松技師など、一読忘れがたい登場人物である。
「鮨」など食にまつわる話も、かの子にはいろいろある。リアルでこってりした文章は、この女性作家特有のもの。
ほかにも、「河明かり」「越年」など“読むべき作品”があるように思える。



蔵書をあれやこれやひっくり返していたら、ポプラ社の百年文庫が何冊か出てきた。文字が大きめなのが、老眼鏡にはありがたい。
このあいだも岩波文庫の「ルーマニア日記」(復刊フェア 高橋健二訳)をクルマの座席で読んでいたが、旧漢字・旧仮名と、文字表記の小ささでめげてしまった(^^;;)
ポプラ社百年文庫は「庭」のタイトルで、かの子の「金魚撩乱」(ほかは梅崎春生「庭の眺め」、スタインベック「白いウズラ」)がある。

太宰治の「東京八景」を読みはじめているけれど、こちらのちくま文庫・・・も捨てがたいにゃ。


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