典型的な「警世の書」で、いままで読んだ養老先生の著書のなかではいちばんおもしろかった。「世の中、間違がっとる。このままじゃ、日本は滅びてしまいますぞ!」そういったテーマが最後まで一貫していて、わたし自身共感を覚えたからだ。文章は「しゃべりことば」である。たいへんわかりやすく、独特のリズムがある。
解剖学が専門の養老先生は、マスコミでも売れっ子で、TVに出演し、脳化社会への警告、教育論、あるいは最新の脳科学の成果について、いろいろ発言なさっていた。また趣味の昆虫採集についても、よく知られている。
新潮選書「バカの壁」がヒットし、ベストセラーになった。ひきづいて出した本も売れ、ちょっとした養老孟司ブームが巻き起こった観があったが、わたしはよくは知らない。「バカの壁」は読んでみたが、繰り返しが多く、論点がややぼやけてしまっていて、高い評価は与えられないなあ、と思ったのを覚えている。
警世の書。ひねったいい方をすれば「横町のご隠居」なのである。ご本人もいうように、学校以外の仕事環境をまったく知らない人であるが「世間知らず」というのではない。それどころか、現代社会の盲点を、鋭く衝いて意識変革をせまっている。一方たいへんな読書家で、ミステリから哲学書、専門の脳科学にいたるまで、一家言を持っている。活躍の舞台が広いだけに、この人のおもしろさを要約するのはけっこうむずかしい。昔はこういった「頑固じじい」がいて、その存在感たるやすごいものがあったが、いまや滅亡に瀕しているのだろう。残念なことといわざるをえない。
・戦後の日本では自然はひたすら壊されてきました。たとえば建設省や農水省は川を人工河川に、海岸を人工海岸に変え、森をけずって道路を通し、田んぼの側溝をコンクリートにしてきました。いわゆる自然破壊です。
・戦後日本は短くいえば都市化しました。戦後の日本社会に起こったことは、本質的にはそれだけだといってもいいくらいです。そこでは皆さんは自然を「ないこと」にしています。
・いまの子どもは、はやく大人になれといわれているといってもいい。意識の世界は大人が作る世界です。その世界の中にさっさと入れと、子どもはいわれている。いつまでもお乳を飲んでいる間合いじゃない。
・都会には人間の作ったものしか置いてない。
・都市の存在は、田舎が前提になっています。田舎がなければ、だれが米を作り、野菜を作るのですか。だから日本が全部都市化してくると、どこかが田舎になる。その田舎が中国であり、ベトナムであり、タイであり、インドであり、インドネシアなんですよ。それがグローバル化の本当の意味であり、南北問題といわれるものなんです。
養老先生は、だれもがうすうす気がついていながら、はっきり認めようとしなかった問題に踏み込んでいる。バブルの崩壊後、わが日本が下降線をたどっているのは誰の眼にもあきらかなはず。少子高齢化、教育現場の荒廃、食料自給率の極端な低下、エネルギー事情の悪化、年金制度の破綻、犯罪と自殺の増加。日本の社会はこれからどうなっていくのか? 未来に対し、悲観的になってしまうのは、養老先生やわたしばかりではあるまい。
そこでご隠居の登場である。「もっと思い切った、厳しい指摘」がほしかった。ガ~ンと食らわせなければ、いまの日本、な~んにも変わりはしない。
養老孟司「養老孟司の<逆さメガネ>」PHP新書>☆☆☆
解剖学が専門の養老先生は、マスコミでも売れっ子で、TVに出演し、脳化社会への警告、教育論、あるいは最新の脳科学の成果について、いろいろ発言なさっていた。また趣味の昆虫採集についても、よく知られている。
新潮選書「バカの壁」がヒットし、ベストセラーになった。ひきづいて出した本も売れ、ちょっとした養老孟司ブームが巻き起こった観があったが、わたしはよくは知らない。「バカの壁」は読んでみたが、繰り返しが多く、論点がややぼやけてしまっていて、高い評価は与えられないなあ、と思ったのを覚えている。
警世の書。ひねったいい方をすれば「横町のご隠居」なのである。ご本人もいうように、学校以外の仕事環境をまったく知らない人であるが「世間知らず」というのではない。それどころか、現代社会の盲点を、鋭く衝いて意識変革をせまっている。一方たいへんな読書家で、ミステリから哲学書、専門の脳科学にいたるまで、一家言を持っている。活躍の舞台が広いだけに、この人のおもしろさを要約するのはけっこうむずかしい。昔はこういった「頑固じじい」がいて、その存在感たるやすごいものがあったが、いまや滅亡に瀕しているのだろう。残念なことといわざるをえない。
・戦後の日本では自然はひたすら壊されてきました。たとえば建設省や農水省は川を人工河川に、海岸を人工海岸に変え、森をけずって道路を通し、田んぼの側溝をコンクリートにしてきました。いわゆる自然破壊です。
・戦後日本は短くいえば都市化しました。戦後の日本社会に起こったことは、本質的にはそれだけだといってもいいくらいです。そこでは皆さんは自然を「ないこと」にしています。
・いまの子どもは、はやく大人になれといわれているといってもいい。意識の世界は大人が作る世界です。その世界の中にさっさと入れと、子どもはいわれている。いつまでもお乳を飲んでいる間合いじゃない。
・都会には人間の作ったものしか置いてない。
・都市の存在は、田舎が前提になっています。田舎がなければ、だれが米を作り、野菜を作るのですか。だから日本が全部都市化してくると、どこかが田舎になる。その田舎が中国であり、ベトナムであり、タイであり、インドであり、インドネシアなんですよ。それがグローバル化の本当の意味であり、南北問題といわれるものなんです。
養老先生は、だれもがうすうす気がついていながら、はっきり認めようとしなかった問題に踏み込んでいる。バブルの崩壊後、わが日本が下降線をたどっているのは誰の眼にもあきらかなはず。少子高齢化、教育現場の荒廃、食料自給率の極端な低下、エネルギー事情の悪化、年金制度の破綻、犯罪と自殺の増加。日本の社会はこれからどうなっていくのか? 未来に対し、悲観的になってしまうのは、養老先生やわたしばかりではあるまい。
そこでご隠居の登場である。「もっと思い切った、厳しい指摘」がほしかった。ガ~ンと食らわせなければ、いまの日本、な~んにも変わりはしない。
養老孟司「養老孟司の<逆さメガネ>」PHP新書>☆☆☆
こちらの方が内容が良いのね。
しかし、私は司馬遼太郎が好きです。
彼は、ずっと以前に、現代日本人に渇を入れてます。
レスが遅れてすいませ~ん。
司馬さんはわたしも好きですよ。
文庫で出ている小説、3分の1くらいは読んでいるはず。
でも、なぜか「竜馬」「坂の上」は途中で挫折。
あとできっと読みたくなると思います。
エッセイや対談集もおもしろいですね