二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「ロマン派の交響曲『未完成』から『悲愴』まで」金聖響+玉木正之(講談社現代新書)

2010年08月29日 | 音楽(クラシック関連)
このお二人による同新書の共著は「ベートーヴェンの交響曲」につづいて二冊目。これもまずまずおもしろかった。音楽評論家が書いた本とは、ひと味も、ふた味も違っている。
語るのは、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者、金聖響さん、インタビュアーが、スポーツライターとして世に出た玉木正之さんという、この風変わりな組み合わせ。
ちょっとくだけた、初心者向きの交響曲談義なのである。
ロマン派とひとくちにいっても、相当数の作曲家がいる。そこから、シューベルト、ベルリオーズ、メンデルスゾーン、シューマン、ブラームス、チャイコフスキーの6人に的をしぼって、お話はすすんでいく。クラシック・ファンなら、だれでも知っているポピュラーな名曲に、評論家ではなく、現代の指揮者=演奏家として、金さんは光をあてているのだ。

すべて19世紀に起こった出来事。
それを確かめるため、「未完成から悲愴まで」という交響曲年表がついている。この年表は、1797年シューベルトの誕生にはじまり、1903年で終わっている。
「おや?」と思う方が多いだろうが、19世紀の偉大なるシンフォニスト(交響曲作者)としては、ブルックナーとマーラーが抜けている。この二人は、「ロマン派」という範疇には収まりきらないからだろうが、その理由はなぜか判然としないまま。
本書において、作曲家の中心にはブラームスが存在し、ブラームスについて、もっとも熱く語られている。ひとつも失敗作を書かなかった作曲家で、交響曲以外に、協奏曲、室内楽、ピアノやヴァイオリン、チェロの傑作を数多く残していると、金さんは断言する。それは、アンサンブル金沢と、ブラームスの交響曲全曲(といっても4曲)のCD化に取り組んでいることと関係がある。
ベートーヴェンとブラームスは、交響曲の歴史において、あきらかに別格なのだ、といわぬばかり。その通りなのだろうと、わたしは納得している。
楽団の運営において、ファンの層の厚さにおいて、コンサート・ホールでは、この二人のBは、だれが考えても、他の「ロマン派の作曲家」を圧倒している。

しかし、ロマン派といっただけでは、なんにことかよくわからない。ブラームスはしばしば新古典派と称されるし、チャイコフスキーは、国民楽派に入れられることがある。
金さんは、そういった「音楽史」上の常識を、いったん頭から追い払って、無心に「私と私たちが創り出す音楽を聴いてほしい」と訴える。
19世紀は、大作曲家の時代、20世紀は大演奏家の時代とよくいわれる。だが、金さんは、あきらかに、フルトヴェングラーやカラヤンがやった交響曲とは、違った方向を目指しているのが、読みすすむにつれてわかってくる。
19世紀には、楽団の編成はせいぜい4、50人。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンは、指揮者をはさんで左右に分かれていた。古楽器にも関心が深い・・・といったようなことである。

自分がCDを何枚所有しているか数えたことはないけれども、おおざっぱにいって、200枚か、250枚はあるだろう。
だが、そのなかに、日本の楽団が演奏した曲は1枚もない(=_=)
指揮者では小沢征爾がいるとはいえ、楽団はボストン、ベルリン、パリ管など。だから、金さんがリリースしているCDは、これまで聴いたことがない。さっきamazonで調べてみたら、どんなCDが発売になっているのかがわかった。だけど「さて、では買ってきいてみるか」という風にはなかなかならないのである。
演奏会へ出かけるならともかく、CDを買うなら、ヨーロッパの指揮者とオケの「名盤」を買う・・・。わたしだけでなく、これはクラシック・ファンの常識だろう。かといって、徹底したヨーロッパ文化の崇拝者かというと、そうでもないのではなかろうか。
本書では、こういった日本のクラシック事情についてもふれられている。

20世紀も70年代になるあたりから、カラヤンなどを最後として「巨匠」といわれる存在が、姿を消してきている。ギュンター・ヴァントがいるではないかといわれるが、あれは例外。金さんは、まさにそういった現代において「クラシック音楽を演奏し、それを聴くとはどういうことか?」について、問いを投げかける。わたしのような読者が、それを正しく受け止められたかどうかは別問題としても。
そして、本書を読んだあと・・・そうだ、シューマンを忘れていたじゃないか――という一事に不意に思いあたった(^^;) 1番「春」と3番「ライン」ばかり有名で、2番と4番はめったに聴かれないし、CDを見かけるチャンスが少ない。
・・・そうだ、シューマンを聴こう。それが本書を読みおえたわたしの読後最大の関心事となったようだ。
一冊の本が、つぎの本を、音楽を、絵画をつれてやってくる!


評価:★★★☆(3.5)

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