
こんな本があったらいいなあ、こういう本が読みたい・・・という漠然とした期待があった。
本書は、その期待に応えてくれた一冊。
半分ほど読んだところで、う~む、これは類書をしのぐ労作だぞと思って、Webの検索をしてみたら、第4回読売・吉野作造賞を受賞していることに気が付いた。ついでに吉野作造賞について調べてみたら、さすが受賞者は錚々たる顔ぶれである。
「イギリス帝国と20世紀(1)パクス・ブリタニカとイギリス帝国」(ミネルヴァ書房, 2004年)「アジアからみたグローバルヒストリー――『長期の18世紀』から『東アジアの経済的再興』へ」(ミネルヴァ書房, 2013年)
このあたりが著者の代表作なのだろう。世界史、グローバルヒストリー研究の専門家とお見受けした。このところ世界史の研究書にはまっているが、角山栄さんの「茶の世界史」、川北稔さんの「イギリス近代史講義」等とならび、高い評価をつけておく。
大英帝国といわず、イギリス帝国といったところに、古色蒼然たるこれまでの世界史の流れから一歩距離をおく姿勢がうかがわれる。
わたしはずいぶんと若いころから「なぜ英語が世界共通言語になったのだろう?」と疑問に思っていた。
その疑問に対する解答が、この本の中身である・・・・といっていいだろう。しかも、要所要所は、具体的なデータがならび、すぐれた説得力をもっている。数字に対する執着は相当なものがある。文体は風通しがよく、データ倒れにはなっていない。俗にいう、人文科学的な発想が、自然と身に付いた人なのだろう。
1956年生まれということにも注目していいだろう。先学の業績を十分踏まえた上で、研究をすすめておられる。
《かつて世界の陸地の約四分の一を領土として支配したイギリス帝国。その圧倒的な影響力は公式の植民地だけにとどまらなかった。本書は近年のグローバルヒストリーの研究成果をふまえ、アジアとの相互関係に注目しつつ、一八世紀から二〇世紀末までの帝国の形成・発展・解体の過程を考察する。今や世界経済の中心はアジア太平洋経済圏にシフトしつつある。そのシステムの基盤を作り上げた帝国の意義を明らかにする試みである。》(本書の内容紹介より)
19世紀、なぜイギリスが覇権国家たりえたのか、これまでいろいろな説がとなえられ、論争もあったようである。秋田さんは、最新のアジア史研究に軸足を置いて考察している。その中でもとくにインド。
広大な国土、人口をかかえたインドに食い入り、領土としたからこそ、パクス・ブリタニカが成立したのである。
《イギリスの影響力は、決して公式・非公式の両帝国だけに限定されていたわけではなかった。十九-二○世紀転換点のイギリスは、現代のアメリカ合衆国と同様に帝国を越えて地球的な規模での圧倒的な経済力と軍事力、文化的影響力を行使したヘゲモニー国家であった。ヘゲモニー国家は世界諸地域に多様な国際公共財を提供してきた。それらは国際秩序における「ゲームのルール」の形成に直結しており、アジア国際秩序を考えるうえでも不可欠の構成要素であった。》(本書256ページ)
「なぜ英語が世界共通言語になったのだろう?」というわたしの素朴な疑問はこうして氷解したのである(^^)/
秋田さんはこうも書いておられる。
《グローバルヒストリーを考えるうえでのキー概念は、この研究領域の第一人者であるイギリスのP・オブライエンが主張するように「比較」と「関係性」である。》(本書258ページ)
付け加えると、比較とは比較史(comprative history)のこと、関係とは関係史(relational history)のこと。
本書はビギナー向けというより、中級者向け(へんな表現だが)なのかも知れない。
わが国における世界史研究の白眉といっていいのではないかとわたしには思えた。
2018年現在において世界史を学ぼうとする読者の必読書であろう。文句なしの五つ星。
評価:☆☆☆☆☆
本書は、その期待に応えてくれた一冊。
半分ほど読んだところで、う~む、これは類書をしのぐ労作だぞと思って、Webの検索をしてみたら、第4回読売・吉野作造賞を受賞していることに気が付いた。ついでに吉野作造賞について調べてみたら、さすが受賞者は錚々たる顔ぶれである。
「イギリス帝国と20世紀(1)パクス・ブリタニカとイギリス帝国」(ミネルヴァ書房, 2004年)「アジアからみたグローバルヒストリー――『長期の18世紀』から『東アジアの経済的再興』へ」(ミネルヴァ書房, 2013年)
このあたりが著者の代表作なのだろう。世界史、グローバルヒストリー研究の専門家とお見受けした。このところ世界史の研究書にはまっているが、角山栄さんの「茶の世界史」、川北稔さんの「イギリス近代史講義」等とならび、高い評価をつけておく。
大英帝国といわず、イギリス帝国といったところに、古色蒼然たるこれまでの世界史の流れから一歩距離をおく姿勢がうかがわれる。
わたしはずいぶんと若いころから「なぜ英語が世界共通言語になったのだろう?」と疑問に思っていた。
その疑問に対する解答が、この本の中身である・・・・といっていいだろう。しかも、要所要所は、具体的なデータがならび、すぐれた説得力をもっている。数字に対する執着は相当なものがある。文体は風通しがよく、データ倒れにはなっていない。俗にいう、人文科学的な発想が、自然と身に付いた人なのだろう。
1956年生まれということにも注目していいだろう。先学の業績を十分踏まえた上で、研究をすすめておられる。
《かつて世界の陸地の約四分の一を領土として支配したイギリス帝国。その圧倒的な影響力は公式の植民地だけにとどまらなかった。本書は近年のグローバルヒストリーの研究成果をふまえ、アジアとの相互関係に注目しつつ、一八世紀から二〇世紀末までの帝国の形成・発展・解体の過程を考察する。今や世界経済の中心はアジア太平洋経済圏にシフトしつつある。そのシステムの基盤を作り上げた帝国の意義を明らかにする試みである。》(本書の内容紹介より)
19世紀、なぜイギリスが覇権国家たりえたのか、これまでいろいろな説がとなえられ、論争もあったようである。秋田さんは、最新のアジア史研究に軸足を置いて考察している。その中でもとくにインド。
広大な国土、人口をかかえたインドに食い入り、領土としたからこそ、パクス・ブリタニカが成立したのである。
《イギリスの影響力は、決して公式・非公式の両帝国だけに限定されていたわけではなかった。十九-二○世紀転換点のイギリスは、現代のアメリカ合衆国と同様に帝国を越えて地球的な規模での圧倒的な経済力と軍事力、文化的影響力を行使したヘゲモニー国家であった。ヘゲモニー国家は世界諸地域に多様な国際公共財を提供してきた。それらは国際秩序における「ゲームのルール」の形成に直結しており、アジア国際秩序を考えるうえでも不可欠の構成要素であった。》(本書256ページ)
「なぜ英語が世界共通言語になったのだろう?」というわたしの素朴な疑問はこうして氷解したのである(^^)/
秋田さんはこうも書いておられる。
《グローバルヒストリーを考えるうえでのキー概念は、この研究領域の第一人者であるイギリスのP・オブライエンが主張するように「比較」と「関係性」である。》(本書258ページ)
付け加えると、比較とは比較史(comprative history)のこと、関係とは関係史(relational history)のこと。
本書はビギナー向けというより、中級者向け(へんな表現だが)なのかも知れない。
わが国における世界史研究の白眉といっていいのではないかとわたしには思えた。
2018年現在において世界史を学ぼうとする読者の必読書であろう。文句なしの五つ星。
評価:☆☆☆☆☆