二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

虹の橋を渡ってやってくるのは(ポエムNO.2-60)

2015年06月12日 | 俳句・短歌・詩集

虹の橋を渡ってやってくるのは
車輪が五個ある透明なトラック。
通過するトラックのエンジン音だけが
街角に響く。
「ほら またあのトラックがきたね」
と白いマスクの少年が
怯えて指さす。


虹の橋を渡ってやってくるのは
ゆがんだ宝石のような女たち。
アメジストやラピスラズリ
罅われが美しいトルコ石
数万年前の人類の小さな叫びを封じ込めた琥珀。
十カラットの太陽
・・・のような少女の裸身が輝く。


虹の橋を渡ってやってくるのは
七色のたまねぎ。
剥いていくと
最後にはなにもなくなってしまう。
老いた人の頭は思い出がいっぱい
ほらほら その重さに
またつまずいて。


虹の橋を渡ってやってくるのは
ぼろぼろになったある男の半生。
野良犬の履歴書。だからって
ごみ置き場にすてるわけにはいかない。
はじめに生年月日を書く。
つぎに名前は 名前はない?


虹の橋を渡ってやってくるのは
あさってぼくが書こうとしている詩。
書き出しがつぎの数行をつれて
砂塵舞い上がる空にはためく。
手をのばせばことばはつかむことができるか?
できはしない 
ことばはものではないのだから。


虹の橋を渡ってやってくるのは
ひまわりによく似た幻想の花。
その花のふちに腰かけて
老いた数学者と盲目の哲学者が話し込んでいる。
もうずいぶん長いこと そうしている。
隣ではまだ若い絵描きが雨蛙のように鳴いて
やがて雨がやってくる。


虹の橋を渡ってやってくるのは
暮れ方の夕映えの一刷毛。
天空のノクターンがきみやぼくの胸を掻きむしる。
悩みは王のごとく
人びとを支配し
憂い顔の男や女が手をつないで
虹の橋を渡ってやってくる。

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