
■山本博文「武士道 日本的思考の根源を見る」(NHK100分de名著2012年刊)レビュー
NHK100分de名著は、いうまでもなく、NHKテレビテキスト。本来はテレビで講義を視聴するものだろうが、わたしはこの番組、見たことはない。
《“忠義“は追従ではない、“名誉”を求める心である。》
ということばが、表紙にも印字されている。
新渡戸稲造の「武士道」は英語で書かれた、俗にいう名著にあたる。名のみ有名だが、最後まできちんと読んだ方は案外少ないはず。
それが名著の宿命。「ああ、あれか」とわたしもすぐピンとくるし、岩波文庫ももっている。しかし、数ページ読んだところで放置したまま。
いまさら引っ張り出してきて読むのは面倒、これをサッと読んで、「読んだことにしておこう」との算段である(=_=)タハ
内容はあくまでテキスト、教科書ふうというか、参考書ふうなのだが、ところどころ近世史の研究者ならではの知見の確かさが披瀝されている。
武士の最高の美徳、名誉について、山本さんはこう語っておられる。
《そもそも武士とは戦闘を職能とする者です。死をおそれていては使い物になりません。そのため、武士社会では、臆病は徹底的に嘲笑され、卑怯は異常なまでに憎まれました。江戸時代初期の大阪の陣(1615年)のころ、武士にとっての理想は「御馬先で討死」、つまり主君の目の前で戦死することで、それがもっとも名誉なこととされていました。武士たちにとって、名誉は命より大切なものだったのです。》(本書46ページ)
いくつか図が挿入され、読者の理解を助けてくれる。
《「武士道」の徳目の構造》(32ページ)や《武士の強い精神性の背景》(73ページ)は、山本さんが本書のために作成した図なのだろうが、なかなか興味深いものがあった。
これまたイラストを見てわかったのだが、切腹の作法にもいろいろこまかな極め事があったのだ。
赤穂浪士のあの事件についても言及されている。山本さんは近世武士社会の研究にかけては、現代における屈指の専門家。
こういう研究者が新渡戸稲造の「武士道」は日本文化論、日本人論の嚆矢であったと評価している。
そのあたりがとてもおもしろく読めた。長年に渡る研究の成果にもとづいているだけに、信頼性は非常に高い一冊。
評価:☆☆☆☆

■山本博文「歴史をつかむ技法」(慎重新書2013年刊)レビュー
初心者、初学者向けの啓蒙的な目的で書かれた一冊。
・この一冊で「日本史の流れ」をわしづかみ!
・単なる「知識」を超えた「歴史的思考力」を鍛える全6章
オビの表紙にこういうキャッチコピーが大きな文字で印刷されている。
またBOOKデータベースでは、
《私たちに欠けているのは、受験などで必要とされた細かな「歴史知識」ではなく、それを活かす「技法」だ。歴史用語の扱い方から歴史学の変遷まで、「歴史的思考力」を磨きあげるための一冊。そもそも「幕府」とは何か?「天皇」の力の源泉とは?歴史小説と歴史学との違いとは?第一線の歴史研究者が、歴史をつかむための入口を最新の研究成果を踏まえて説く。高校生から社会人まで、教養を求めるすべての人へ。》
と紹介されている。
わたしがいま、この時点で山本博文さんをつづけて読むことになったのは、何といっても名著「島津義弘の賭け」の影響による。
近世武家社会への視点を根本から考え直させた本だからだ。
本屋を散歩していてよくお名前を拝見する磯田道史さんも、ご専門はたしか近世史。
一般向けの歴史ジャンルの両エースといったところか( ´ー`)ノ
初心者向けの啓蒙の書という体裁はとっているけど、全日本史の通史という側面ももっている。
そのあたりは概ね納得できる記述であり、バランス感覚がすぐれている。右でも左でもなく、そうかといって、学術的な知識に溺れるところもない。
近代史を専門にしている研究者に比べ、江戸時代を中心に据えた近世史の専門家は余裕が感じられる。
歴史とどうつきあったらいいのか?
ざっくりと「日本史」をつかんで「さあ、90分でこの一冊におまかせ」・・・というような本をよく見かける。
初学者や受験生にサブ・テキストとして利用してもらおうとする配慮がある。しかし、「島津義弘の賭け」を書いたほどの実力者、そういった類書の中では、ハイレベルな内容となっているとわたしは見た。
評価:☆☆☆☆
NHK100分de名著は、いうまでもなく、NHKテレビテキスト。本来はテレビで講義を視聴するものだろうが、わたしはこの番組、見たことはない。
《“忠義“は追従ではない、“名誉”を求める心である。》
ということばが、表紙にも印字されている。
新渡戸稲造の「武士道」は英語で書かれた、俗にいう名著にあたる。名のみ有名だが、最後まできちんと読んだ方は案外少ないはず。
それが名著の宿命。「ああ、あれか」とわたしもすぐピンとくるし、岩波文庫ももっている。しかし、数ページ読んだところで放置したまま。
いまさら引っ張り出してきて読むのは面倒、これをサッと読んで、「読んだことにしておこう」との算段である(=_=)タハ
内容はあくまでテキスト、教科書ふうというか、参考書ふうなのだが、ところどころ近世史の研究者ならではの知見の確かさが披瀝されている。
武士の最高の美徳、名誉について、山本さんはこう語っておられる。
《そもそも武士とは戦闘を職能とする者です。死をおそれていては使い物になりません。そのため、武士社会では、臆病は徹底的に嘲笑され、卑怯は異常なまでに憎まれました。江戸時代初期の大阪の陣(1615年)のころ、武士にとっての理想は「御馬先で討死」、つまり主君の目の前で戦死することで、それがもっとも名誉なこととされていました。武士たちにとって、名誉は命より大切なものだったのです。》(本書46ページ)
いくつか図が挿入され、読者の理解を助けてくれる。
《「武士道」の徳目の構造》(32ページ)や《武士の強い精神性の背景》(73ページ)は、山本さんが本書のために作成した図なのだろうが、なかなか興味深いものがあった。
これまたイラストを見てわかったのだが、切腹の作法にもいろいろこまかな極め事があったのだ。
赤穂浪士のあの事件についても言及されている。山本さんは近世武士社会の研究にかけては、現代における屈指の専門家。
こういう研究者が新渡戸稲造の「武士道」は日本文化論、日本人論の嚆矢であったと評価している。
そのあたりがとてもおもしろく読めた。長年に渡る研究の成果にもとづいているだけに、信頼性は非常に高い一冊。
評価:☆☆☆☆

■山本博文「歴史をつかむ技法」(慎重新書2013年刊)レビュー
初心者、初学者向けの啓蒙的な目的で書かれた一冊。
・この一冊で「日本史の流れ」をわしづかみ!
・単なる「知識」を超えた「歴史的思考力」を鍛える全6章
オビの表紙にこういうキャッチコピーが大きな文字で印刷されている。
またBOOKデータベースでは、
《私たちに欠けているのは、受験などで必要とされた細かな「歴史知識」ではなく、それを活かす「技法」だ。歴史用語の扱い方から歴史学の変遷まで、「歴史的思考力」を磨きあげるための一冊。そもそも「幕府」とは何か?「天皇」の力の源泉とは?歴史小説と歴史学との違いとは?第一線の歴史研究者が、歴史をつかむための入口を最新の研究成果を踏まえて説く。高校生から社会人まで、教養を求めるすべての人へ。》
と紹介されている。
わたしがいま、この時点で山本博文さんをつづけて読むことになったのは、何といっても名著「島津義弘の賭け」の影響による。
近世武家社会への視点を根本から考え直させた本だからだ。
本屋を散歩していてよくお名前を拝見する磯田道史さんも、ご専門はたしか近世史。
一般向けの歴史ジャンルの両エースといったところか( ´ー`)ノ
初心者向けの啓蒙の書という体裁はとっているけど、全日本史の通史という側面ももっている。
そのあたりは概ね納得できる記述であり、バランス感覚がすぐれている。右でも左でもなく、そうかといって、学術的な知識に溺れるところもない。
近代史を専門にしている研究者に比べ、江戸時代を中心に据えた近世史の専門家は余裕が感じられる。
歴史とどうつきあったらいいのか?
ざっくりと「日本史」をつかんで「さあ、90分でこの一冊におまかせ」・・・というような本をよく見かける。
初学者や受験生にサブ・テキストとして利用してもらおうとする配慮がある。しかし、「島津義弘の賭け」を書いたほどの実力者、そういった類書の中では、ハイレベルな内容となっているとわたしは見た。
評価:☆☆☆☆