二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

塩野七生のリアリズム ~「海の都の物語」を読む(前編)

2014年11月08日 | 塩野七生
《近隣国と仲良くあるべきだろというのは日本人だけだ。近隣とは常に問題があり、摩擦が起きないという方がおかしい。日本人はこれからも絶対の友好はないものだと思えばいい。しかし近隣国ゆえの突破口はある。それは経済関係がより緊密ということだ》

塩野七生さんが、母国を去って、どれくらいの時が流れたのだろう?
塩野さんの世界観、人生観は、超辛口の酒に似ている。甘さがまったくないとはいわないが、それは必要最小限にとどめ置かれる。ときに「激辛」と評してもいいことばが聞かれ、「この人はほんとうに女性なのか?」という感想を抱くことがある。
同性に対しても、むろん容赦しないし、特別扱いはしていない。すごいな、こんなにものが見えていいのだろうかと、あきれてしまう。

しかし、ユリウス・カエサルへの特別な思い入れなどを読んでいると、惚れた男への熱い感情がキラキラと脈打ち、読者をある思念のほうへいざなうのも事実。
そうか・・・そういうところに、“鉄の女”の弱みがあるのだ。
いや、必ずしも悪い意味ではなく、「可愛げがある、ない」といういい方をすれば、そこに塩野さんの可愛げがあるからである。

「文学者からは、彼女は歴史家だといわれ、歴史家からは、文学者だといわれる。わたしはどちらのサイトからもそういう批判をうけている」
どこかで、そう歎いていらっしゃるのを読んだ記憶がある。
塩野さんに比較したら、司馬遼太郎さんなど、大甘だろう。裏を返せば、司馬さんは小説家に徹し、読者サービスを心得ているが、塩野さんはそうではないということもできる。
歴史
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そして過去を彩った登場人物としての男と女

「ローマ人の物語」をのぞけば、わたしは塩野さんのよき読者とはいえない。
いまから16、7年まえだったと思うが、わたしが「ローマ人の物語」にはまっていると話したら、友人が「『海の都の物語』をぜひお読みなさい」とすすめてくれた。
因みに彼は商家の跡取り息子。
わたしは中公文庫になっていた同書をもってはいたが、はじめの10ページくらいで、何回か挫折を味わっていた。
あのとき読んでおけばよかったという思いが、しきりに去来するが、後悔してもはじまらない。
きっかけは「ローマ亡き後の地中海世界」の文庫化。
「読まなければ・・・いつかは!」
「海の都の物語」は、新潮文庫に版元が移り、全6巻の読みやすい分冊となった。
「ローマ亡き後・・・」の隣りに「海の都・・・」がならんでいたので、それを買い揃え、現在第4巻まで読みすすめている。

本書「海の都の物語」はつぎの14話からなっている。
1.ヴェネチィア誕生
2.海へ!
3.第四次十字軍
4.ヴェニスの商人
5.政治の技術
6.ライヴァル、ジェノヴァ
7.ヴェネツィアの女
8.宿敵トルコ
9.聖地巡礼パック旅行
10.大航海時代への挑戦
11.二大帝国の谷間で
12.地中海最後の砦
13.ヴィヴァルディの世紀
14.ヴェネツィアの死

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