二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

村の名前   辻原 登

2010年01月07日 | 小説(国内)
藺草の栽培地をもとめて、中国湖南省の僻地へ入っていった日本人商社マンが経験する、謎と恐怖に満ちた物語。
ご自身の体験を下敷きにしているのだろうか? 
中国の風景や、中国人たちは、うまく描き分けてあるという印象をうけた。「桃源郷」神話を利用しながら、カフカ的な迷宮世界を作り出すことに成功しかかっている。それが評価され、1990年上半期の芥川賞を受賞。そのあとも活躍されて、読売文学賞、谷崎賞、川端康成文学賞など、文壇での評価の高い小説家である。

しかし、わたしはあまりおもしろくなかった。アクセルをふかすべきところで、しばしばブレーキを踏んでいる。幻想を描くなら、もっと徹底的にやるべきであろう。共産党支配下の現代の中国社会の奥に、中国の神話的な古層をあぶり出そうというもくろみは、それほどうまくいってはいない。古層を体現する女との情交も、中途半端。
作者が知識人的で、合理的近代的精神の持ち主なのである。そのしっぽが、泉鏡花に化けそこねた原因ではないか?

作者が幻想世界を心底信じずして、どうして読者を説得できるだろう。
採用された文体も、もう一工夫欲しかったところ。
川のほとりで待っている女に逢いにいくシーンなど、ほんとうに惜しいと思う。
村人にすすめられ犬を食う、食わないを踏み絵として使っている。しかし、このあたりは、変身譚のイメージをふくらませて、むしろ幻獣などを配するくらいの覚悟があっていい。
まあ、これは、むろんわたしの勝手な思い入れ。物足りないというか、なんだかとても歯がゆかった。しかし、丸谷才一さんのように、高得点をあたえる評者もいるだろう。

この作品といっしょに、今日じつはもう一作、芥川賞作品を買ってきた。
綿谷りさ「蹴りたい背中」である。こっちはどうかな?
十九歳の若書きだが、わたしのような年齢で読んで愉しめる作品になっているだろうか。奥付を見ると、かなりの部数が売れたことがわかる。


評価:★★★

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 文壇アイドル論   斎藤美奈子 | トップ | レヴィ=ストロース講義(現代... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説(国内)」カテゴリの最新記事