二草庵摘録

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吉村昭「羆嵐(くまあらし)」を読む

2021年12月17日 | 吉村昭
■吉村昭「羆嵐(くまあらし)」(昭和57年新潮文庫 原本は昭和52年新潮社)


このところ、吉村昭に入り浸りである。
なぜそうなったかというと、吉村さんがノンフィクション、ドキュメンタリー作品を多く手がけているから。
小説は基本フィクションなのだが、どういうわけか近ごろ2年ばかり、わたし的にフィクション離れが甚だしいということ。だから吉村昭がおもしろくて仕方ないのだ・・・と思える。なぜそうなのかは、突きつめてかんがえたことがなく、よくわからない(;^ω^)

語り手ともいうべき実直な区長が終始登場するが、彼ではなく羆(ひぐま)が本編の主人公で、もう一人の主人公が、アウトサイダーともいうべき、老練な猟師・銀四郎である。あっけなく勝負がついてしまうので、長編とはいえ、249ページ(現行版)しかない。

つぎのような内容である。
《北海道天塩山麓の開拓村を突然恐怖の渦に巻込んだ一頭の羆(ひぐま)の出現! 
日本獣害史上最大の惨事は大正4年12月に起った。冬眠の時期を逸した羆が、わずか2日間に6人の男女を殺害したのである。鮮血に染まる雪、羆を潜める闇、人骨を齧る不気味な音……。自然の猛威の前で、なす術のない人間たちと、ただ一人沈着に羆と対決する老練な猟師の姿を浮彫りにする、ドキュメンタリー長編。》BOOKデータベースより

構造がかなり単純、昔観たパニック映画とよく似ている。
ノンフィクション・ノベルの秀作といってもいいが、少々もの足りないところがあったので、5点満点をつけるのはひかえておく。
人物設定が型通りというか、いかにも“ありそうな”設定なのだ。

この巨大な羆(北海太郎?)は、猛々しい雄で、どうやら人間の女体で味をしめ、餌として二人の女を胃袋に収めてしまう。そのうち一人は臨月の妊婦だったというあたりはグロテスク。胎児をふくめると犠牲者は7人となる。
吉村さんは奇想天外な空想は弄ばないので、実際にこういう事件であったのだ。



こういう本を見つけた(文春文庫)ので、手許に置いてあるが、これを読めば、本書がいっそう興味深いものになるかもしれない。まだ読めていないのだが。
小説の末尾に著者は、
《木村盛武氏(旭川営林局農林技官)の「獣害史最大の惨劇 苫前羆事件」(昭和三十九年)を参考資料に、同氏から懇篤な御教示をいただき、辻亀蔵、池田亀次郎両氏の回想をもとに脱稿した。厚く謝意を申し述べる。》と断っている。
恣意的な想像で書かれたものではない、というわけだ。そこが吉村さんらしいし、迫真場面のリアリティーをしっかり裏打ちしている。

小説としての推進力はかたときも途切れることはない。いわゆる“ジェットコースター”的サスペンスを盛り上げている。そういう意味では成功作。
しかし、一方、明と暗がクッキリ分かれ、インパクトは増したが大味なものになってしまったと思う。
ただ猟師・銀四郎の造形に、作者の腕の冴えをまざまざと感じることはできたので、えらそうにいわせてもらえば、そこを評価しておく(^^♪



評価:☆☆☆☆

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