ほんとうはなんといっていいのかわからないけれど
生きていくことに少し
疲れちまってさ。
なにもかも投げやりになっていた。
だれも叱ってくれる人はいなかった。
皆あきれ果てたというように
遠くからぼくの様子をうかがっていた。
それはひどくはずかしい記憶・・・のひとつ。
ぼくは単に傲慢な人間になりかけていたんだ。
それを戒めてくれたのは
えーと だれだったかしら。
空海?
そんなに偉い有名人じゃなかったな。
めったに人が入ってこない路地の奥で暮らしている人さ。
キーキーとやたら錆びた音の出るポンプをこいで水をくみ上げ
それを頭からザブッとかぶる。
またかぶる。
「おじいちゃん なにしてるの」
「おまえにはまだわからん。
いいから向こうへいって さきに寝ていろ」
ぼくは祖父のそばをはなれ
牛小屋の隣りの藁のベッドで寝た。
そのときの記憶が
ぼくを立ち直らせたんだ きっと。
記憶の奥ふかく はるかなさきの暗がり。
四十代のぼくは傲慢だった。
十年たったら やっぱりあのころ自分は傲慢だった
・・・とまた後悔するんだろうか。
とすればぼくは
十年おきに過去へと引き戻され
十年おきに違った電車で再出発していることになる。
ただし ぼくが乗り込む電車には
どれも行先は決まっていない。
「さよなら これまでの十年」
あの菜の花を こんどはどこの鉄橋から眺めるんだろう。
生きていくことに少し
疲れちまってさ。
なにもかも投げやりになっていた。
だれも叱ってくれる人はいなかった。
皆あきれ果てたというように
遠くからぼくの様子をうかがっていた。
それはひどくはずかしい記憶・・・のひとつ。
ぼくは単に傲慢な人間になりかけていたんだ。
それを戒めてくれたのは
えーと だれだったかしら。
空海?
そんなに偉い有名人じゃなかったな。
めったに人が入ってこない路地の奥で暮らしている人さ。
キーキーとやたら錆びた音の出るポンプをこいで水をくみ上げ
それを頭からザブッとかぶる。
またかぶる。
「おじいちゃん なにしてるの」
「おまえにはまだわからん。
いいから向こうへいって さきに寝ていろ」
ぼくは祖父のそばをはなれ
牛小屋の隣りの藁のベッドで寝た。
そのときの記憶が
ぼくを立ち直らせたんだ きっと。
記憶の奥ふかく はるかなさきの暗がり。
四十代のぼくは傲慢だった。
十年たったら やっぱりあのころ自分は傲慢だった
・・・とまた後悔するんだろうか。
とすればぼくは
十年おきに過去へと引き戻され
十年おきに違った電車で再出発していることになる。
ただし ぼくが乗り込む電車には
どれも行先は決まっていない。
「さよなら これまでの十年」
あの菜の花を こんどはどこの鉄橋から眺めるんだろう。