二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

聖(さとし)の青春

2008年10月20日 | ドキュメンタリー・ルポルタージュ・旅行記
久しぶりにレビューを書いたので、upしておこう・・・。

興味のおもむくままいろいろな本を並行して読む、
という悪い癖があるので、ときとぎれではあったが、
10間日ほどかけて読み了えることができた。
マイミクのVINさんが高い評価をあたえていたので、
それがきったけで手にとったのだ。なーんだ、浪花節かぁ、とはじめはばかにしていた。

将棋は多少は囓ったことがあるが、もう20年も昔の話。
そのころの仕事場にTさんというアマの有段者がいて、鍛えられたのだ。
10回対戦して10回、あっというまに負けた。
1年かかって、1対4くらいに勝負できるようになり、
数年でほぼ対等にたたかえるところまでいった。
いくつかの定石をおぼえ、詰め将棋で終盤感覚をみがき、「将棋世界」を定期購読して、それなりの研鑽をつんだからだろう。
少し強くなって、将棋がますますおもしろくなった。

村山聖。・・・NHK杯戦でその対戦の姿を数回見ている。
得意な風貌であったから、その静かな居ずまいが記憶に残っている。
本書で忘れることのできない印象をあたえる、師匠森信雄の対戦風景も、おぼろげながら思い出すことができる。
筆者は「将棋世界」の編集長をつとめた人なので、棋士たちの日常生活にまで立ち入って、たいへん具体的に、その人間くさいエピソードをていねいに拾い集めている。
奨励会という苛酷な「勝負」の世界も、やや単調な響きを奏でているうらみはあるものの、よく書ききっている、と思う。

本文中にも、また巻末にも、村山という男の会心譜が掲載されていて、わたし程度の実力者にも、その読みの正確さ、天才的なひらめきの指し手がわかるようになっている。
将棋指しは、棋譜という形で棋戦のありさまを、逐一記録にとどめていく。
いくつもの棋譜を丹念に読んでいくことで、村山将棋の全貌をつかむことができるだろう。
わずか29歳で、A級在籍のまま、ガンで亡くなった関西の天才棋士。
将棋に賭けるその執念のすさまじさと、「難病をかかえて生きる悲しみ」と、それをささえ続けた人々の物語で、まっとうすぎるほどまっとうなノンフィクションであり、鎮魂歌ともなっている。

読みすすむにつれ、「おれはこれを書かずには死ねない」といったような著者大崎さんの情熱がつたわってくるところがじつにいいなあ。貴重な時代の証言ともなっている。
将棋に負ける・・・、それは息の根を止められるにもひとしい勝負の一局なのである。
プロ棋士は、そういったある種「戦場」に近い場所で生きている人々なのである。
村山は29年の生涯を彼の流儀で生ききった、と書いてあり、しばし胸が熱くなった。わたしも、同感である。

■写真:アカシジミ(2008年7月)

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