二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

塩野七生「ルネサンスとは何であったのか」

2008年06月08日 | エッセイ(国内)
「ルネサンスとは何であったのか」(塩野七生著・新潮文庫)を読み終えてから、
もう一週間あまりが経過した。
レビューは読み終えた直後に書くのが、感情移入がスムースにいくので、
いちばん書きやすい。二週間もしたら、いそがしい現代人は関心がほかの本や映画などに移ってしまい、
書かずに終わってしまう。

ここで話が飛ぶが・・・、歴史上の人物ではなく、
「いま生きて活動している人のなかで、最も尊敬するのはだれですか?」
一年ほどまえに、ある知人からそんな質問を受けたことがあった。
「父親とか、小学校時代の先生とかではなく、
知名度があって、その気になれば、だれもが知ることのできる人物」
そういった限定がついていたので、わたしは即答ができなかった。

彼と別れてから、わたしはずっとその質問を考えていた、・・・ように思う。
そして数日後、つぎのような結論に達した。
女性では塩野七生さん、男性では将棋の羽生善治さんだ、と。

羽生さんについては、今季の名人戦の決着がついたあとにでも、
どこかに書いてみるつもりだから、
ここでは「ルネサンスとは何であったのか?」の塩野さんについて、
少し書いておこう。

現存の人物で最も尊敬する女性、塩野七生。
その輝かしい経歴については、ウィキペディアにゆずろう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A1%A9%E9%87%8E%E4%B8%83%E7%94%9F

彼女の著書については「ローマ人の物語」をのぞいて、
ほんの数冊しか読んではいないが、文庫化された著書はすべて持っている。
「ローマ人・・・」は、数年前、全15巻をすべて読んだ。
とくに「パクス・ロマーナ」までは、文庫化を待って、
二度読んでいる。それほどおもしろかった。
わたしの塩野さんに対する印象のすべては、ほぼこの著作につきるといっていい。
その後、五木寛之さんとの対談集「おとな二人の午後」も、
おもしろくて二度読みしている。
http://www.kadokawa.co.jp/bunko/bk_detail.php?pcd=200205000053

「ローマ人・・・」は歴史と文学の双方に相渉る、空前の名著。
政治思想史の本として読んでも、第一級の本だと確信している。
この本も、すらすら読めて、じつにおもしろい。
文庫であるにもかかわらず、図判や写真が多数収録され、
「ルネサンス・ガイドブック」としても読める。
塩野哲学などということばを見かけるが、彼女は、観念論的な議論からは、最も遠い位置にいる。
日本人として、その視野が世界的なレベルに達している人は、それほど多くはないはず。

解説は著者と三浦雅士の対談となっている。
そこで三浦さんは塩野さんと小林秀雄を比較し、後継者のようなことをいっているのが気にかかった。
文体がまるで違うではないか、とわたしなどは思う。
小林は短距離走者で、詩的な短い章句を、アフォリズムのようにたたみかけて、
直感で読者を説得しようとする。それに対し、塩野さんは長距離走者なので、散文的で息の長い、
ゆったりした文体を持っている。しかも、具体的な「読者像」を、
いつも明快に想定して、著書を書いている。
「読者へ」というまえがきは、彼女の愛読者にとっては、
じかに呼びかけられているようで、耳を澄まさずにはいられないだろう。


本書が文庫化されたのは2008年だが、単行本刊行は2001年。この年は「ローマ人の物語」第10巻「すべての道はローマに通ず」が世に出た年でもある。
第1部 フィレンツェで考える
第2部 ローマで考える
第3部 キアンティ地方のグレーヴェにて
第4部 ヴェネツィアで考える
見たい、知りたい、わかりたいという欲望の爆発、それがルネサンスだった、と塩野さんはいう。
< 「なぜ、古代のローマに関心をもったのか」と聞かれることが多い。それに私は「ルネサンスを書いたから」と答える。そうすると、ほぼ90パーセントの人が、「なぜ、ルネサンスに関心をもったのか」と出聞いてくる。・・・フィレンツェ、ローマ、ヴェネツィアと、ルネサンスが花開いた三大都市を順にたどりながら、レオナルド・ダ・ヴインチをはじめ、フリードリッヒ二世やアルド・マヌッツィオなど「ルネサンス」を創った人びとの魅力と時代の本質をわかりやすく説いた、最高の入門書。>

ルネサンスとはひと口にいえば「古代ギリシアの復活」なのである。
キリスト教のドグマに支配された、「長い暗黒の中世」のくびきからの解放であり、
空前絶後の天才たちの輝かしい数世紀であった。

塩野さんに先導されつつ、わたしもゆっくりと、あのルネサンスの果実を心ゆくまで堪能したいと思わずにはいられない。古代ローマ、ルネサンスを語らせたら、この人の右に出る著作家はいないし、今後もしばらく、他の研究者や作家を圧倒しつづけるだろう。
つぎに読むとしたら、やっぱり、もうひとつの代表作「海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年」ということになろうか。



>「ルネサンスとは何であったのか」(塩野七生著・新潮文庫版)☆☆☆☆★

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