二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「いま生きる『資本論』」佐藤優(新潮文庫)レビュー

2018年01月19日 | 哲学・思想・宗教
ライブ感たっぷりの、わたしのごとき無知なる輩にはたいへん為になる一冊(゚∀゚*)
こんな本を探していた・・・といってもいいような、ね。
担当編集者が描いたと思われるキャッチコピーがうまいので、引用させていただこう。
《ソビエト崩壊後、貨幣代わりに流通したマルボロから「一般的等価物」を語り、大使館にカジノ代をたかる外遊議員が提示したキックバックに「金貸し資本」のありようを見る。『資本論』の主要概念を、浩瀚な資料と自身の社会体験に沿わせ読み解きながら、人間と社会を規定する資本主義の本質に迫る白熱のレクチャー。過労死や薄給のリスクに日々晒される我々の人生と心を守る、知の処方箋。》

本書は新潮社が企画し、募集した受講生を前にした、六回講演(有料)がもとになっている。
その講演記録に書き足し、語句を一部訂正してまとめた本。

「資本論」の入門書としてはピカイチの講義だろう。
「知の処方箋」
わたしもこういう一冊をさがしていた。

1.恋とフェチズム
2.どうせ他人が食べるもの
3.カネはいくらでも欲しい
4.われわれは億万長者になれない
5.いまの価値観を脱ぎ捨てろ
6.直接的人間関係へ

これが全六回のいわばサブタイトル。
ことばは柔らかいが、内容は吟味され、きちんと構築されているので、「資本論」と、現代の資本主義社会を読み解くアイデアが、佐藤優流にたっぷり埋め込まれている。それは非常にアクチュアルなもので、もしこの講義を大学でやるとしたら、聴衆がつめかけ大人気となることだろう。
ただ、こんなアクチュアリティーを身につけている講師や教授が、ほかにいるだろうか?

質疑応答があり、レポートの提出がある。レポートは採点され、コメントまで付せられて戻ってくる。マルクスの「資本論」から見えてくる世界観は、いまを生きるわれわれの現実を暴き出す。「そこまでいっていいのか」と思えるような迫力!
佐藤優のアクティヴな知性は、本書においても他に類を見ないような輝きを放っている。

インテリジェンスの専門家だとかんがえていたけれど、それだけじゃない。肩書は作家を名乗ることが多いようだが、思想家を名乗っても、あまり違和感はないだろう。
マルクスをどう読み解くのかは、宇野弘蔵の経済理論を下敷きに考察されてある。先行する思想家柄谷行人さんの影響も透かし見える。
難解な理論が佐藤さんの強固な歯で噛み砕かれ、初心者の口に入ってくる。現代の名講義といって間違いない(^ー^)

ここでは向坂逸郎さんの「資本論」(岩波文庫)を使用し、受講生と読み合わせを行っているが、マルクスの引用文は決して読みやすくはない。わたしの読解力では半分かそこらしか理解できない。
しかし、半分はわかる・・・というのではわからないということと同じである(^^;)
そこを、相手のレベルにあわせ、読みほぐしていく。しばしば脱線するけど、そこがまたおもしろく、すぐれたライブ感覚の持ち主。

《マネーや株券は人間が作った偶像です》(57ページ)
《国家というものはあくまで社会の外側にあって、社会から収奪していく存在です。ここをきちんと考察しているのが柄谷行人さんですよ。わたしは彼から非常に強く触発されて、NHKブックスから「国家論」という本を出しています》(112ページ)
《商品はまず「他人のための使用価値」でなければ価値たり得ない》(125ページ)
《アメリカ人というのは金持ちを尊敬しますが、イギリス人は金持ちだからといって尊敬はしません》(301ページ)

新自由主義の競争原理のもと、労働力の商品化がさらに徹底されて、労働者の生活に重くのしかかり、あちらこちらで過労死問題まで引き起こしている。それはどこに原因があるのか?
そもそも、労働力の商品化とは何であるのか?
この講義を通奏低音として流れているのは、資本主義社会へ突きつけられた人間的な、きわめて人間的な、痛切な問いである。
「資本論」から見えてくる資本主義のカラクリ。
それを六方向(6回に渡って)から考察し、受講者にも考えてもらう。質疑応答やレポートを書くことで、人びとの理解が、一歩一歩深まっていく。
そのうえ、いつもの流儀ながら、手に取ってみたくなる参考文献がた~くさん紹介されている。この著者のこういうオープンな姿勢には好感がもてる。

向坂さんの「資本論」もそうだが、一般的にこれまでの学術書の翻訳が日本語として悪文なのである。それともわたしの頭が悪いのか(。>д<)
最後に総括があるが、これはまあ、平凡なものである。しかし資本主義のカラクリや、国家論を踏まえたうえで自分の生き方を選択するのと、やみくもに迷走するのとではまるで違った意味がある。
最後まで読みおえて、わたしも拍手を・・・惜しみない拍手を送りたくなった。
佐藤さんに架けてもらった橋を渡って、わたしもいつか「資本論」という巨きな城の内部を探索してみよう。

そろそろ読みやすい「資本論」の新訳が出ないかなあ(^^♪



評価:☆☆☆☆☆

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 資本主義の「競争原理」 | トップ | 冬木立 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

哲学・思想・宗教」カテゴリの最新記事