二草庵摘録

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「世界史序説 ──アジア史から一望する」岡本隆司(ちくま新書 2018年刊)レビュー

2019年02月06日 | 歴史・民俗・人類学
2018年に刊行されたばかりなので、世界史の最新の研究成果が盛り込まれているとかんがえて購入。
著者岡本隆司さんは1965年生まれ、京都府立大学の教授である。わたしより一回りも若いから、その点でも「最新の研究成果」による叙述を期待しないわけにはいかない。

しかし、結論をさきにいえば、評価は高くない。
発想にひらめきを感ずるところがあり、おもしろくないわけではないのだが、思考の枠のオリジナリティーに疑問符がつく。
大上段にふりかぶった概説書だし、新書264ページの軽装なので、まあ、仕方ないといえば、仕方ないのか(ノ_・)。
いかにも大学の先生らしく、たくさん本を読んでおられるのだろう。巻末には、日本語で読める範囲の「文献一覧」も付いている。誠実さもよくつたわってくるが、生意気なことをいわせていただけば、要するに“先学”からの受け売りだ。

こういった大所・高所から見下ろした世界史で大抵の人がまず思い浮かべるのは、梅棹忠夫さんの名著「文明の生態史観」であろう。
本書の中でも、梅棹地図が大きな役割をはたしている。
アジア史、中国史(東洋史学)が専門のようで、内藤湖南(1866~1934年)、宮崎市定(1901~1995年)の衣鉢を現代に受け継ぐ研究者である。
その人が、大風呂敷を広げて「新しい世界史像」を追求したのが本書。

ネット上に置かれた本書の紹介文を引用しよう。
《遊牧・農耕・交易。この三つの要素が交叉する場所で世界史は誕生した。遊牧と農耕の境界で交易が興り、シルクロードが現れる。やがて軍事力が機動性を高め、遠隔地を結ぶ商業金融が発達し、技術革新が生じ、生産力を拡大して、ついにモンゴル帝国の出現にいたった。そして、大航海時代が幕を開け、西欧とインドが表舞台に登場すると…。こうした視座から歴史を俯瞰するとき、「ギリシア・ローマ文明」「ヨーロッパの奇跡」「大分岐」「日本の近代化」はどのように位置づけられるのか?ユーラシア全域と海洋世界を視野にいれ、古代から現代までを一望。西洋中心的な歴史観を覆し、「世界史の構造」を大胆かつ明快に語るあらたな通史、ここに誕生! 》

いかにも画期的な内容が盛り込まれた最新成果による叙述だと、読者は誤解する(笑)。
その一人こそ、かくいうわたしである。
だけど、最後まで読んでみると、どうも先学にもたれかかったパッチワークのように見える。
最近よく耳にする“西洋中心史観からの脱却”に対する一試論ということになる。
《現代のあらゆる学問は、すべて西欧に起源する。ということは、そもそもキリスト教・カトリックと不可分に関わりを有していた。われわれはついそれを忘れがちではあるまいか。最たるものが歴史学である。
自然科学が占星術や錬金術から生まれたのと同様、歴史学も聖書・神話と不可分のものだった。いわゆる「世界史」はもともと、キリスト教の「普遍史」に由来している。》(本書10ページ)

杉山正明さんらが本格的に展開した、ユーラシアにおけるモンゴル帝国の出現が、“世界史”の画期である、との立場にたっている。それに、ウォーラーステインの世界システム論が接ぎ木されているような印象を、わたしは受けた。
だが、グローバル化の波は19世紀から幾度となく襲いかかって、21世紀の現在、東洋史学はもちろん、西洋史学も、それだけでは“世界”を語れなくなってしまった。
著者の岡本隆司さんは、そこで本書で“序説”を書いて、さらに研究をすすめていく途上にあるのだろう。

文体には独特なクセがあり、途中からそれが気になって仕方なかった。
こういう鳥瞰図は、滅多なことでは成功しない。
最近の目覚ましい成果といえば、115万部を突破したというジャレド・ダイヤモンドの「銃・病原菌・鉄」である。
ジャレド・ダイヤモンドはその後も「文明崩壊」や「昨日までの世界」をつぎつぎ刊行し、多くの読者を獲得した。

わたしは「文明の生態史観」や「銃・病原菌・鉄」とまではいかないにしても、何か創意ある観点が含まれているのではないかと期待した。しかし、本書に関しては力不足といわざるをえない。
また、ハウスホーファーらが提唱した「地政学」にはまったくふれられていない。これは少々片手落ちだと、わたしには思われた。
《国家は国力に相応の資源を得るための生存圏(レーベンスラウム)を必要とする》(ハウスホーファー)
こういったキーワードは、21世紀の現在、世界史についてかんがえるときの重要極まりないキーワードだと思うのだが・・・。



評価:☆☆☆

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