二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

悲しみの向こう側(ポエムNO.3-67)

2020年05月28日 | 俳句・短歌・詩集
   
 (深谷市 2015年11月撮影)



「一曲歌っておわりにしましょう」ときみがいう。
「うん そうだね。もうおわりにしよう」
カラオケBOXをあとにし
夕方から降り出した雨に濡れ クルマまで100mほど歩いた。

あの日 あのとき。
あぶり出しのように滲んでは消えていく。
なつかしさでいっぱいにふくらんだポケットに手を突っ込んでは
カサコソ音がする枯葉のようなものにふれる。

愛車をUターンさせて
あの街角まで戻れるといいな。
かぼちゃ大王みたいな仮面をつけて
また踊ろうよくるくると あのライヴハウスで。

ステップを踏む足を何度も踏んづけては
顔をしかめているきみに謝ってばかりいたね。
人生がこんなに暮れやすい秋の一日でできているなんて
だれも教えてはくれなかった。

黄ばんでほつれかけた記憶の織物。
そのやわらかな手ざわり。
あの街角まで戻れるといいな。
ぼくの指がさぐりあてたこの悲しみの 

向こう側へ。

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