
(深谷市 2015年11月撮影)
「一曲歌っておわりにしましょう」ときみがいう。
「うん そうだね。もうおわりにしよう」
カラオケBOXをあとにし
夕方から降り出した雨に濡れ クルマまで100mほど歩いた。
あの日 あのとき。
あぶり出しのように滲んでは消えていく。
なつかしさでいっぱいにふくらんだポケットに手を突っ込んでは
カサコソ音がする枯葉のようなものにふれる。
愛車をUターンさせて
あの街角まで戻れるといいな。
かぼちゃ大王みたいな仮面をつけて
また踊ろうよくるくると あのライヴハウスで。
ステップを踏む足を何度も踏んづけては
顔をしかめているきみに謝ってばかりいたね。
人生がこんなに暮れやすい秋の一日でできているなんて
だれも教えてはくれなかった。
黄ばんでほつれかけた記憶の織物。
そのやわらかな手ざわり。
あの街角まで戻れるといいな。
ぼくの指がさぐりあてたこの悲しみの
向こう側へ。