のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

里依子 25

2009-10-21 | 小説 忍路(おしょろ)
 私があまりに黙りこくって沈んでいることに彼女たちは興味を持ったらしく、少しづつ私から何かを聞き出そうとした。私は生返事をするばかりであったが、二人の質問は控え目で質素に感じられたためにそれが疎ましいとは思わなかった。  酒が入ってくると次第に心がほぐれ、彼女たちの柔らかい語り口に引き込まれて私は今しがた目にしてきた千歳川のことを話し始めるのだった。  他に客もないので私たちはそうしてたわいない . . . 本文を読む
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里依子 24

2009-10-20 | 小説 忍路(おしょろ)
私は思い余って外に出た。まだ夕食をとっていなかった。暮落ちた街角に立って私は自分の未練と知りながら、初日里依子が私を連れて行った居酒屋を探そうと思い立った。しかし里依子にばかり意識が集中していたのだろう、周りの記憶がほとんど無くて私は夜の千歳の街をあてもなく歩き回るばかりだった。  そんな自分を惨めったらしく思いながら、それでももう一度里依子に会えるかもしれないと考えてしまう自分をどうするこ . . . 本文を読む
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里依子 23

2009-10-19 | 小説 忍路(おしょろ)
 北国の街のかりそめの部屋で  ああ あなたは今頃  私のことなど忘れているに違いない  つい今しがた  微かに触れあった肩から  ほのかな温もりが私の心に沁みとおり  暗い底からキューキューと泣くのだ。  静かにしていると  その泣き声が一段と大きくなって  私は思わず立ち上がる。  するとその足もとから  何をすることもない自分に  また気付いたりして。  所在なく落ち着かない私の心に、ふ . . . 本文を読む
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里依子 22

2009-10-18 | 小説 忍路(おしょろ)
こうして詩句を連ねているうちに私の気持ちはいくらか楽になってきた。走り書きして、読み返してみれば同じことを繰り返すだけのつまらないものに思えたが、それでもそれは崩れそうな自分の気持ちを離れた目で見せてくれたのだ。  自分が主人公のドラマを見ているような気分と言ったらいいだろうか、そんな醒めた目で見て、私は幾分後半の詩句よりも前半の詩句の方がいいと思った。後半の詩句はどこか無理をしていて、自分 . . . 本文を読む
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里依子 21

2009-10-17 | 小説 忍路(おしょろ)
 溶け始めた北国の雪の  身を切る水をなみなみとのせ  千歳川は女のように身をくねらせる。  白と黒の激しい対比が心にしみては  暗緑の川面の  丸く突き出た対岸から  うすい夕日を受けて白々と波が息づくようだ。  絶えず囁き 絶えず静まり  ああ 私の心をあやしくとらえ  とらえては立ち去って行くけがれなき水たちよ  お前は黙々と  どこに行こうとするのだろう。  その胎内には力強い魚影がかす . . . 本文を読む
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里依子 20

2009-10-16 | 小説 忍路(おしょろ)
 雪解けのぬかるんだ街を  一直線に貫く道を  重いおもい心が歩いてゆく  今しがた別れた人を振り返りもせず  ああ私は何をそのように急ぐのだろう  急いで 急いで  崩れゆく自分を一歩一歩青ざめた道に敷きつめていくように  明日を持たないもののように。  やがて  千歳川が私に近づき  この清らかな流れに そのせせらぎに  私は次第に心奪われていくようだ。  大きくしなった体躯はいかにも厳しく . . . 本文を読む
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里依子 19

2009-10-15 | 小説 忍路(おしょろ)
   私はどうしても自分の気持ちを表現できなくて胸のつかえを取ることが出来なかった。そしてこの私の気持ちは、こんな小さなペンの細い線では捉えきれないのだと思った。  それが自分に都合のいい逃避であることは誰よりもよく知ってはいたが、それでも私は抱きかかえるほどの筆がほしいと考えた。私はその巨大な筆を千歳川の流れに浸して、真黒な墨をたっぷりとその穂に含ませ、思いの果てるまでこの雪原に描線を描いてみた . . . 本文を読む
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里依子 18

2009-10-14 | 小説 忍路(おしょろ)
   長い間私は橋の上にいた。通りかかる車はみな私を不思議そうに見やって通り過ぎた。他に人影はなかた。この時間に私の姿は奇異に思えるのだろう、辺りは寂として暗闇が圧力のように覆いかぶさってきた。せせらぎだけが私と共にあって、そっと囁くように聞こえている。  その囁きが忘れかけていた里依子への想いを呼び起こし、またそれが大きな胸のつかえとなって私を苦しめ始めた。  急に気温が下がり始めているようだっ . . . 本文を読む
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里依子 17

2009-10-13 | 小説 忍路(おしょろ)
その橋は『烏柵舞橋』という名が付いており、同じ名前のバスストップもその橋のたもとにあった。  私はそれをどう読むのか分からなかった。誰か人が通りかかったら訊ねてみようと一瞬思ったが、口をきくのが疎ましく、会話が辛い事のように思えて結局その呼び名を知らぬまま佇んでいた。  私は橋の中央の欄干にもたれて川の流れを上から眺めた。その流れをさらに上流へと追って行けば、その視野に尽きる彼方の山並に今太 . . . 本文を読む
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里依子 16

2009-10-12 | 小説 忍路(おしょろ)
太陽はいつしか西端に傾き、弱々しい日差しに変わっていた。潤んだ太陽の下には頭を平坦に切り落とされたような林がどこまでも続いていて、灰色に煙っていた。そして私の背後には千歳川が流れている。  私はとにかく日が暮れるまで歩いて行こうと決心していた。千歳川を遡りながら支笏湖に向かう国道には民家が思い出したように点在するだけで、夕暮れがふと心ぼそさを持ってきた。  もう民家も尽きるかと思われる頃にま . . . 本文を読む
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