山の斜面が崩れて岩石がごろごろしている場所をガレ場といいますが、特に火山帯の噴煙地に見られるガレ場はその荒涼たる様から地獄とも呼ばれます。信州の地獄谷、阿蘇の地獄温泉、別府の地獄めぐり、宮城県の荒湯地獄、秋田県の川原毛地獄など、地獄は各地に点在しており、箱根の大涌谷もかつては地獄谷と呼ばれていました。こうした地獄の総本山ともいえるのが、日本三大霊山のひとつで、いたこで有名な「恐山」でしょう。
火山岩に覆われた禿げ山のあちらこちらに石が積まれ卒塔婆が立てられ、背筋が凍るようなおどろおどろしい光景が広がる一方で、カルデラ湖である宇曽利湖が静かに水をたたえ白い砂の美しい極楽浜がその周囲を取り囲み、まさにここが此岸と彼岸の境界なのだと思わせる見事なまでのコントラストを造り出しています。恐山を開山したのは最澄のお弟子さんの円仁(慈覚大師)ですが、よくぞこの地に辿り着いて開山したものだと感心させられます。
さてこの恐山の境内には入山料さえ払えば入湯し放題の温泉浴場が4つあります。古滝の湯(男性限定)、冷抜の湯(女性限定)、薬師の湯、花染め湯です。このうち薬師の湯に入湯してきました。恐山自体が火山の噴煙地なので、境内の至る所でふつふつと音を立てながら温泉が湧いているのです。
山門を潜ると正面に地蔵殿が鎮座していますが、この山門と地蔵殿の間の左側に古滝の湯と冷抜の湯が、右側に薬師の湯がそれぞれ設けられています。いずれもアウシュビッツ(ビルケナウ)のバラックを思わせる木造の掘っ立て小屋で、砂利の敷かれた敷地にぽつんと建っており、中に入っても外観から受ける想像通りを裏切らない簡素な造りとなっています。
しかしお湯が素晴らしい。源泉からそのまま流れてくる薄っすら青白く濁ったお湯がふたつに分かれた浴槽に注がれ、木造の浴槽は析出物で青白く染まっています。成分表示はありませんが、おそらく酸性硫黄泉のお湯で硫黄の匂いが強く、酸っぱみとともに苦味も感じられます。硫黄の温泉が好きな方にはたまらないお湯です。やや熱めなので入ったり出たりを繰り返しながらのんびり湯浴みをするのがよいでしょう。湯屋のまわりは地獄ですが、お風呂だけは極楽でした。
地蔵殿 写真右に「薬師の湯」が、左に「冷抜の湯」がそれぞれ見切れています
シンプルなつくりがかえって味わい深い浴槽
地獄から望む宇曽利湖と極楽浜
成分表示なし
JR大湊線・下北駅より下北交通バス恐山行で40分
下北交通ホームページ
青森県むつ市田名部字宇曽利山3-2
0175-22-3825(恐山寺務所)
下北ナビ
5月1日~10月31日開山(それ以外は閉山)
6:00~18:00
入山料500円
私の好み:★★★