温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

川湯温泉 御園ホテル 別館ラルゴ

2012年12月01日 | 北海道
※「御園ホテル 別館ラルゴ」は現在休業中

 
9月下旬の某日、川湯温泉の温泉宿の中でもちょっと異色な存在である「御園ホテル」別館の「ラルゴ」で宿泊しました。
こちらのお宿は素泊まりオンリーであらゆるサービスがセルフとなっているのですが、お湯や居心地の良さが各所で高い評価を得ており、一度泊まってみたかったのです。川湯へは今までも何度か訪れているため、事前にあまり調べないまま出かけてしまい、現地に行けばすぐに見つけることが出来るだろうと高をくくっていたのですが、入口は木々に覆われて目立ちにくく、しかも到着したのはすっかり日が暮れて暗くなってしまった後だったため、迷って何度か前を通り過ぎてしまいました。


 
元々は拓銀の保養所だったらしく、建物の外観はやや草臥れていますが、周囲の環境に合わせたシックで且つ重厚な佇まいです。
玄関の扉は閉まっていることがあり、その際には扉のノブに掛かっているプレートに書かれている電話番号へ連絡して、鍵を開けていただくことになります。私が訪れた時には、予約時に到着時間を連絡していましたので、ラルゴを管理運営している根津さんが法被を纏って出迎えてくださいました。


 
館内はとっても綺麗です。特に広々とした1階のラウンジは、さりげなく置かれている調度品がかなり凝った趣味だったり、根津さんの蔵書の一部やジャズコレクションが並べられていたりと、センスの高さが感じられます。
後述しますが今回の宿泊ではここで過ごした時間が忘れられない想い出となりました。



お部屋は8畳の和室。広いお部屋を独り占め。さすがに大手銀行の保養所だっただけあってお部屋の建付けは素晴らしく、安宿にありがちなガタピシなんて微塵もありません。布団こそセルフで敷きますが、テレビや冷蔵庫は備え付けられているので、居住性はとっても良好です。


 
共用スペースに用意されている電子レンジやポットなどは自由に使え、コーヒーもフリーでいただけます。無線LANもあるのでネット環境も問題なし。



共用の洗面室には洗濯機も備え付けられています。



さてさてお風呂へ向かいましょう。1階から廊下を進み、階段を下りた先が浴室でした。お風呂は男女別の内湯のみですが、この日の宿泊客は私一人だけでしたから、両方入っちゃいました。まずは男湯から。


 
脱衣所も浴室もこじんまり。浴室内には四角い3人サイズの浴槽がひとつ据えられ、洗い場にはシャワー付き混合水栓が2基。川湯温泉といえば強酸性ですから浴槽などには大抵木製製品か樹脂コーティング済の製品が用いられること多いようですが、こちらのお風呂ではごく一般的なタイル貼りです。一見何の変哲もないただの内湯のように見えますが、そこに注がれているお湯は尋常じゃないんですね。


 
塩ビの湯口から自家源泉のお湯が落とされており、底にはたくさんの沈殿が溜まっています。川湯温泉の多くの施設では湯の花を予め濾した上で浴槽へと供給していますが、こちらでは湯の花を濾し取ること無くそのまんまお湯と一緒に湯船へ落としています。以前はどの宿のお風呂でも湯の花がたくさん舞っていたそうですが、現在ではほとんどが濾し取るようになってしまい、このように沢山の湯の花にめぐり会えるお風呂はとても貴重なんだそうです。根津さんも「沈殿を見て清掃不行き届きと勘違いするお客さんが多い」と困惑していらっしゃいました。当然ながら湯使いは完全掛け流しです。

お湯はほぼ無色透明、強烈に酸っぱく、しょっぱさやミョウバン味も明瞭です。分析表を見る限りでは硫黄の量はさほど多くないのですが、それでも室内には硫化水素の匂いが充満していました。強酸性の温泉によくみられるヌメヌメ感も肌に伝わります。結構熱めの湯加減だったのですが、こんな濃厚な状態のお湯に入れる機会はなかなかありませんから、この時は加水せずに入浴しました。なお最近旅館の廃業や閉鎖が相次いで川湯一帯の温泉使用量が減ったら、全体的に源泉温度が上昇したんだそうです。とてもパンチ力の強いお湯ですから、湯上りもかなり体力を奪われちゃいますから、とても長湯はできず、その代わり回数を重ねて温泉を堪能させていただきました。客がいようといまいと、この強烈なお湯は絶えること無く注がれていました。



次は女湯へ。


 
両浴室は基本的に同じような造りですね。
男湯よりも湯花がたくさん底に沈殿していますが、これは湯の花が沢山あっては私が嫌がるだろうというお宿側の配慮により事前に男湯の湯の花を掬いあげていたため、結果的に女湯のほうにたくさんの湯の花が残ったわけです。私が温泉バカであることを知った根津さんは「なんだぁ、はじめから知ってればそんなこと(湯の花を除去すること)なんてしなかったよ」と残念がっていました。素性を明かさずにただ電話で予約しただけだったので、私もこればかりは後悔しきりです…。


 
夕食は温泉街をふらついた後に「味楽寿司」でいただきました。北海道の温泉街で外食店が揃っているのは、意外にも川湯ぐらいかもしれません。登別も湯の川も定山渓も、宿の数の割には温泉街をそぞろ歩きして楽しめるようなお店が少ないんですよね。店内には常連客である某漁協の組合長さんがいらっしゃり、お店の大将やその組合長さんとともにおしゃべりしながら、篦棒にうまい北海の幸に舌鼓を打ちました。ここのお寿司の味を一度体験しちゃうと、当分の間は東京で寿司を食うのが嫌になります。

食事を終えて宿に戻ると、根津さんが私の帰りを待っており、缶ビールやおつまみを口にしながら、上述のラウンジにてサシで時間を忘れておしゃべり…。いろいろなことが話題の俎上にあがったため、その一つ一つを列挙するわけには行きませんが、根津さんの御人柄がとても魅力的で、会話を楽しむとともに学ぶところも非常に大きく、単に宿泊するだけでなく、ラルゴという宿の名前にぴったりなゆったりとした時間を過ごすことができました。

川湯へ旅行される方には是非「ラルゴ」を利用していただきたい・・・そう思いながら今日までネタを温めていたのですが、私が利用した約1か月後、Takemaさんのサイトの掲示板にて衝撃的な事実を目にしました。御園ホテルが経営不振に陥り、金融機関など債権者への返済が困難となったため、茨城県の企業に運営を全面委託され、これに伴って別館ラルゴは休業となってしまった、という内容です。休業に関してはその後spatravelerさんのブログ「温泉情報」でも報告されていますので、間違いないことなのでしょう。ラウンジでビールを片手に朗らかにおしゃべりしていた根津さんの笑顔の裏には、人知れぬご苦労が隠れていたんですね。また再び「ラルゴ」に泊まれる日が来ることを祈りつつ、捲土重来を期しております。


源泉名:御園ホテル ラルゴ
酸性・含鉄(Ⅱ・Ⅲ)-アルミニウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉 45.8℃ pH1.9 86L/min(自噴) 溶存物質5.197g/kg 成分総計5.317g/kg
H+:12.7mg(16.97mval%), Na+:649.5mg(38.05mval%), Ca++:184.1g(12.38mval%), Al+++:103.6mg(15.52mval%), Fe++:37.7mg(1.82val%), Fe+++:34.7mg(2.51mval%)
Cl-:1285mg(46.16mval%), HSO4-:704.4mg(9.24mval%), SO4--:1661mg(44.03mval%),
H2SiO3:254.8mg, HBO2:52.6mg, H2SO4:22.4mg, CO2:119.4mg, H2S:0.8mg,

(所在地・電話番号は御園ホテル(本館))
北海道川上郡弟子屈町川湯温泉3丁目1-20
015-483-2511

日帰り入浴不可
※2012月11月以降、残念ながら休業中

私の好み:★★★
コメント (2)
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