温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

斜里温泉 港温泉山本旅館

2012年12月11日 | 北海道
※残念ながら2014年に閉館しました。


ディープな温泉民宿として一部の方々から支持を集めている斜里町の「港温泉山本旅館」で立ち寄り入浴してまいりました。拙ブログを立ち上げた頃に斜里温泉「湯元館」を取り上げたことがありますが、地図で「山本旅館」の場所を調べるとその「湯元館」の近くにあることがわかったので、実際に行けば何とかなるだろうと高をくくって詳細な位置を確認せずに現地へ向かったところ、碁盤の目のように整然と区画整理されたエリアであるものの、「湯元館」の奥へ進むと道路は非舗装となり、本当にこの路地で良いのか、行き止まりの私道ではないのか、と聊か不安に駆られてしまうような心細い路地を進んでゆくと、その先の空き地にポツンとこの小さな看板が立っていました。


 
看板こそ立っているものの、本当にここで温泉に入れるのか疑わしく思えるほど、ひっそりとした民家然の佇まいであり、また館内は暗くて営業しているか否か判然としなかったため、駐車場に車をとめてみたものの、訪問するかするまいか躊躇してしまいました。



玄関の扉には「日本鉄道振興会 民宿友の会 優良指定店」と記されている消えかかったステッカーが貼ってあります。日本鉄道振興会? 私は初めてこの組織名を目にしたのですが、ググっても検索されないところから判断するに、国鉄時代に存在した古い互助会みたいなものなのでしょうか。


 
玄関の引き戸を開けるとセンサーが反応してチャイムが鳴り響き、しばらくするとつげ義春か水木一郎の作品に登場しそうな翳のある風体のご主人らしき男性が現れ、私が初訪問だとわかると、その方は私を浴室まで案内してくださいました。館内は昼間だというのに真っ暗なのですが、廊下から客室を覗いてみると、窓から光が降り注いでいる明るい室内は、大変失礼ながら予想に反して綺麗で整頓されており、布団はきちんと畳まれた上で準備され、テレビにはブラウン管式ながらデジアナ変換の装置が取り付けられていました。



浴室は男女別の内湯が一室ずつです。全体的に湿っぽい脱衣室には棚と長椅子があるばかりですが、シャンプー類などいろんなものが雑然と置かれており、天井は内装材が剥がれちゃったのかビニールで覆われいました。この室内に入ると、宿の方は「シャンプーはこれを使ってください」と棚の上を指差しました。このシャンプーは客用だったんですね。



脱衣室には2つの戸があるのですが、宿の方は奥の方の戸を開け、入浴方法についても説明してくれました。曰く「シャワーを使うときは(浴槽の湯口の)バルブを締めてください」とのこと。なるほど、洗い場のシャワー付き水栓を見てみますと、浴槽用の給湯配管と同じ配管にシャワーは接続されており、湯量もそんなに多いわけじゃないので、浴槽側を開けっ放しにしていると、シャワーの圧力が弱くなっちゃうわけですね。



脱衣して浴室に入って気づいたのですが、浴槽を挟んだ反対側にも洗い場が設置されており、その洗い場は脱衣室の手前側の戸から入るようになっているのでした。つまり浴槽を挟んでシンメトリな構造になっているんですね。私が案内された奥側の洗い場はシャワー水栓が比較的新しく、水栓周りにも補修された形跡が見られますが、反対側の(手前側の)洗い場はシャワーがひとつしか無く、壁のタイルも建築当時からのものがそのまま残っているので、おそらく使い勝手を考えて客には改修済の方を使ってもらっているのでしょう。



それにしても、こちらのお風呂は相当草臥れているんですね。壁にもカビらしきシミで薄汚れており、天井はかしいで波を打っており、湯船の真上に位置している湯気抜き木枠もボロボロです。こりゃマニア垂涎の雰囲気に間違いありません。


 
パイプから湯船へ源泉が注がれていますが、浴槽の源泉投入口まわりのタイルはすっかり剥離しており、地肌がむき出しになっています。浴槽のサイズは4人ほどでしょうか。湯使いは完全掛け流しなのですが、床は湯船のオーバーフローがずっと流れっぱなしになっているため、タイルの表面は茶色く着色しており、清掃がよろしくないのか、或いは泉質的に仕方がないのか、床がヌルヌルしてとても滑りやすく、何度もコケそうになってしまいました。また、浴槽縁のタイルには細かなトゲトゲが発生しており、湯船から上がってそこに腰掛けようとすると、お尻にチクチクとした痛みが走りました。あちこちに細かなトラップが仕掛けられているこのお風呂にいると、ドリフの「もしも~」シリーズのコントで当惑している長さんになったような気分に陥ります。でもこんなお風呂に限ってお湯のクオリティはえてして良い傾向にあり、もはやこの方程式は温泉巡りをしている人間にとっては必定の理でもあり、決して「だめだこりゃ」という結果にはならないのが面白いところです。

浴槽のお湯はオロナミンCを水で薄めたような淡い黄色の透明で、薄い塩味と清涼感のあるほろ苦みが感じられ、明瞭なミシン油臭やガス臭、そして化石海水的な有機的な匂いを嗅ぎ取ることができました。また重曹が多いためか、泡付きこそありませんが、自分の肌にうっとりしてしまうほどツルスベ浴感がはっきりしており、食塩泉らしい保温効果も良好です。

ちなみにこちらの温泉は「港温泉」と称していますが、どうやら「湯元館」からの引湯らしく、つまり両者は同じ温泉を用いていることになります。斜里温泉はモール系のお湯であると言われており、私も以前「湯元館」ではそのように感じましたが、今回この山本旅館のお湯に入ってみたところ、モール泉というよりは油系の知覚を伴った重曹食塩泉ではないかと実感しました。いや、単に私が風邪気味で鼻が若干詰まっていたため、知覚が鈍感だっただけかもしれませんが…。いずれにせよ、とても良い浴感のお湯であることには間違いありません。



B級感、いやC級感漂うお風呂から上がって、玄関から外へ出ると、正面には斜里岳が頂上から両裾まで隠れることなく聳えており、麓の平野を吹き抜ける風が額の汗を優しく拭ってくれたのでした。


ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 55.0℃ pH8.1 500L/min(掘削自噴) 溶存物質2190mg/kg 成分総計2191mg/kg
(昭和51年6月7日分析)
Na+:510.0mg(86.41mval%), Al+++:14.09mg(6.10mval%),
Cl-:204.1mg(22.43mval%), HCO3-:1208mg(77.09mval%),
H2SiO3:174.3mg, H2S:1.003mg

知床斜里駅より徒歩20分(1.7km)
北海道斜里郡斜里町西町15-13  地図
0152-23-1165

6:00~21:00
200円
シャンプー類無し

私の好み:★★
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする