
「おとべ温泉いこいの湯」は前回取り上げた「光林荘」に隣接している日帰り入浴施設であり、「光林荘」に宿泊すると1回だけ無料で利用することができるので、帳場で無料券をもらって実際に利用してみることにしました。「光林荘」には露天風呂がないため、露天を希望するお客さんには「いこいの湯」を案内しているようです。


「光林荘」から「いこいの湯」へはまるで倉庫のような通路を通っていきます。なお浴場内にボディーソープやシャンプー類は用意されていないので、必要でしたら帳場で貸してくれます(もちろん宿泊客限定)。


あたかも役場の出張所のような小さな受付で係員のおばちゃんに入浴券を手渡します。なお一般利用の場合は券売機で支払います。玄関からまっすぐ伸びる廊下の右手にはお座敷の食堂が開かれてましたが、私が利用した日は食堂が休業中で、単なる休憩所と化していました。

建物の外観も館内も白を貴重とした明るく綺麗な建物。館内の一部エリアはミニミニ美術館みたいな空間となっており、文化の薫りが辺りを包みます。


そのミニミニ美術館的空間には江戸後期や明治期の磁器などが展示されていました。私は骨董の器関係に全く疎いのですが、その筋の方が見られたら「いい仕事してますねぇ」なんて唸っちゃうような品なのかもしれませんね。尤もこの温泉の利用者で美術品に関心が有る方はどれだけいらっしゃるのか相当怪しく、私が展示ケースの前を通ろうとすると、風呂あがりの爺ちゃん婆ちゃんが美しい染付磁器には一瞥もくれずに、噴き出る汗をタオルで拭いながら持病についてお喋りしていました。
この展示スペースで通路は男女両浴室へと分かれており、右手を進んだ奥の浴室に男湯の暖簾がかかっていましたが、男女は入れ替え制だったりするのでしょうか。

利用者が多いにもかかわらず脱衣室は清潔に保たれており、使い勝手もまずまず。


公的施設らしく室内にはベビーベッドが置かれているのですが、実際に使われる機会が少ないのか、ベッドの上にはサウナ用の黄色いタオルが積まれていました。利用者の殆どは子育て終了間近かもう子供が独立しちゃっているような中高年の方ばかりですから、ベビーベッドが本来の使われ方をされないのは仕方がないのでしょうね。


浴室は白いタイル貼りで清潔感があり、広々しており天井も高くてとっても開放的です。この浴室で感心するのが洗い場ゾーンと入浴ゾーンをしっかり区分していることでして、湯船にシャワーの飛沫や泡が飛んでくることもなく、また湯船に浸かりながら誰かが体を洗っている光景を見ずに済みます。
洗い場にはシャワー付き水栓が15基設置されています。ここの水栓はボタンを押すオートストップ式ですが、温度や流量の調整はできず、お湯だけが出るものタイプです。江差の「みどりヶ丘の湯っこ」と同じタイプですが、江差はカランから源泉が出てくるのに対し、こちらでは真湯が出てきます。「光林荘」の記事でも述べましたが、乙部温泉のお湯は赤茶色に濁っているので掛け湯には不適ですし、もしシャワーへ引湯したとしても配管内がすぐにスケールで詰まっちゃいますから、真湯にするほは至極当然です。この他サウナや立ったまま使うシャワーも設けられており、他の温浴施設と同様、こちらでもサウナは大人気でした。


内湯は縦長の長方形で、真ん中に据えられたオブジェを境に、脱衣室側が一般的な深さ、窓側がちょっと浅くて座湯するには丁度良い深さとなっていました。ちなみに浅い方の湯船で私が縁の出っ張りに後頭部を載せて仰向けになったら、うまい具合にジャストフィットし、安定して全身浴することができました。
オブジェの他、壁には数点の絵画(主に地元名勝の風景画)がかかっており、上述した脱衣所前の空間のみならず、浴室内もアートな空間になっているのでした。温泉とアートの融合がこの施設のコンセプトなのかもしれません。

浴槽の真ん中に据えられたカリントウのお化けみたいなオブジェは地元出身の芸術家が制作した作品なんだそうでして、このオブジェから熱い源泉が浴槽へ供給されています。でもここから供給されるお湯の量は浴槽の容量に対してそれほど多くないので、おそらく浴槽内には別の湯口が存在するのではないかと推測しますが、お湯が強く濁っているので詳しくは確認できませんでした。なお、浴槽の手前側面には細長く口を開いた給湯口がありますが、現在は使われていないようです。
お湯は「光林荘」と同じ源泉を用いており、赤みを帯びた橙色に強く濁り、透明度は20~25cm程度で浴槽の底は全く見えません。味覚面では甘塩味、芒硝味、そして金気味やホウ酸味が感じられ、芒硝臭や金気臭が湯面から放たれていました。お隣の「光林荘」と同様に加水以外の加温循環は実施されていない掛け流しの湯使いですが、濁り方はこちらのほうが強く、酸化が進んでるのか金気もはっきりと現れており、実際に入浴して体感してみたところ鮮度的には「光林荘」の方が優れているように感じられました。といっても極端な差が開いているわけじゃありませんから、こちらでも充分に鮮度感を堪能できるはずです。また分析表には「硫化水素泉」と表記されていましたが、蓄膿気味な私の鈍い鼻で嗅いでみたところ、湯口にて硫化水素泉というよりも油っぽい匂いがあったような無かったような…。泉質的に温熱効果の高いお湯である上、湯船はやや熱めの温度でしたから、下手に粘って長湯すると逆上せること必至です。


露天風呂は裏手の山に面して設けられており、4人サイズの四角い浴槽がひとつ据えられています。こちらも放流式の湯使いですが、外気の影響かあるいは投入量に左右されるのか、内湯のお湯のほうがシャキっと冴えており、露天へやってくるお客さんはあまり湯船に浸かろうとせず、むしろその傍に立ってひたすらクールダウンをしている傾向にありました。熱くて火照りやすい性質のお湯ですから、入浴中のクールダウンは欠かせません。


露天風呂の傍らには足ツボを刺激するプレートが4枚敷設されていました。それぞれ反射区に対応する内蔵別に分かれており、たとえば腎臓のツボを刺激したければ左のプレートを、胃や腸への効果を期待したければ右から2番めのプレートを踏むようになっています。ここへやってくる手前数十メートルには「健康遊歩道 素足のこみち」と称する町営の公園があり、その園内では文字通り足つぼを刺激する突起が通路状に敷かれていますので、乙部町は足つぼ健康法にご熱心なのでしょう。ちなみにこの露天風呂の足つぼ刺激エリアにて、私はなぜか生殖器のツボのプレートを懸命に踏んでおりました。あぁ男の哀れな本能…。
乙部町館浦源泉2号井
ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉 74.5℃ pH7.2 320L/min(動力揚湯) 溶存物質5.794g/kg 成分総計5.839g/kg
Na+:1808mg(94.20mval%),
Cl-:956.6mg(32.51mval%), SO4--:2205mg(55.31mval%), HCO3--:604.3mg(11.93mval%),
H2SiO3:66.6mg, HBO2:35.1mg, CO2:44.7mg,
温度調整のため加水
北海道爾志郡乙部町字館浦515-3 地図
0139-62-3264
11:00~21:00 無休
400円
貴重品用ロッカー・ドライヤーあり、シャンプー類なし
私の好み:★★