無類のモール泉好きである私は、あの芳醇な薫りとツルツルな浴感に包まれたくなり、小清水町の濤沸湖畔に佇む温泉民宿「原生亭」へ立ち寄り、魅惑のモール泉をじっくり堪能してきました。鄙びた感じの建物を目にして早くも期待に胸が膨らみます。
目の前には濤沸湖岸の葦原が広がっています。風が吹く度にサラサラと音を立てる葦原の景色はとても美しく、湖岸に佇んでいると、風がそよいで葦を揺らす音と小鳥の囀り以外は何も耳に入ってきません。
駐車場の片隅に立つポールにはなぜか黄色い旗が翻っていました。北海道で黄色い旗といえば「幸福の黄色いハンカチ」ですが、後日調べた所、小清水の原生花園もその舞台になっていたんですね。とはいえ、この旗と映画が関係しているかどうかはわかりません。
私が入館すると同時に宿のご主人が帳場から現れたので、この方に料金を直接支払いました。この時はてっきり偶然ご主人が私の訪問タイミングと同時に出てきたのかと思っていたのですが、湯上り後にロビーあたりで飲料で喉を潤しながら一休みしていると、私のみならず、他のお客さんについても玄関を入ると同じタイミングでご主人が登場していたので、もしかしたら客の動向をどこかでチェックしながら接客しているのかもしれません。
玄関前のロビーには蜂の巣や昆虫標本がガラスケースに収められて展示されています。この時は先客のお年寄りの影響なのか、館内には膏薬の匂いが立ち込めていました。
廊下を進んで浴室へ。お風呂は男女別の内湯が一室ずつで、露天風呂はありません。
宿泊施設というより共同浴場と表現したくなるほどシンプルな感じの脱衣室には、カゴが収められた棚の他、洗面台が1台設置されており、湯上りの涼むことができるよう団扇も用意されていました。なおロビーと同じくこちらでも膏薬の臭いがプンプンしていたので、男湯を利用したお爺ちゃんが相当の数の湿布を貼っていたのかもしれません。
浴室の大きさに対してカメラの広角が足りておらず、室内の一部しか撮れていないことを予めお断りさせていただきますが、それだけこじんまりしてる浴室でして、モルタルの上に白いペンキが塗られた室内には、4~5人サイズの四角い浴槽がひとつ据えられ、その手前の左右にシャワー付き混合水栓が2箇所ずつ(計4基)設置されています。温泉風情を楽しむというより日々の汗や垢を落とすことを目的としているような、実用的な構造の浴室であります。窓は浴槽真上の壁面には小窓がひとつのみで、換気扇は回っていましたが湯気が篭り気味でした。
タイル貼りの浴槽にはいかにもモール泉らしい琥珀色のお湯が張られており、しかもその表面には白い泡が浮いているではありませんか。もうこの光景を目にしただけでうれしさの余り失禁しそうです。湯面下の浴槽内中央側面にて塩ビパイプが垂直に取り付けられており、その下方から源泉が吐出しています。湯使いは放流式であり、浴槽縁から惜しげもなくお湯が溢れ出ています。
琥珀色のお湯は透明ではありますが、色合いが濃いために浴槽の底の方は目視できず、しかも槽自体も一般的なものより若干深く造られており、温泉の性質上とても滑りやすいので、湯船に入るときは手摺りに掴まって登山の3点支持をするような格好で、慎重に己が体を沈めてゆきました。
温泉分析表には腐植質10.8mgと記されていますが、この数字が示す通り、モール泉ならではの非常に芳しい香りが鼻孔をくすぐり、清涼感のある重曹味とともに油のような匂いや味も感じられ、繰り返し自分の肌をさすりたくなるほど強いツルスベ浴感が全身を覆います。浴槽に設置されている温度計の針は44℃を指しており、そんな熱めの湯加減であるためあまり長湯できませんが、それでも体が茹で上がってしまうほど、いつまでも何度でも入りたくなる極上の薫りと浴感を堪能できるお湯であります。
湯面に白く浮かぶほどの気泡は入浴中の肌にも激しく付着し、湯船に浸かると全身は忽ち泡だらけになりました。薫りや浴感もさることながら、この泡付きにも感動してしまい、熱い湯船にのぼせた私は意識が朦朧としてしまいましたが、それでもこのお湯から離れるのが惜しく、全身を真っ赤にしながら体力の限界までひたすら入り続けてしまうほど、このお湯の虜になってしまいました。
お風呂から上がると空が紅色に染まっており、濤沸湖の向こうに広がる台地へ沈む真っ赤な夕陽を眺めながら、葦原の上を吹く風に体を当てて、ヘロヘロに茹だった体をクールダウンさせたのでした。
ナトリウム-炭酸水素・塩化物温泉 47.4℃ pH8.2 260L/min(動力揚湯) 溶存物質1.669g/kg 成分総計1.681g/kg
Na+:412.0mg(94.74mval%),
Cl-:161.4mg(24.88mval%), HCO3-:819.9mg(73.44mval%),
H2SiO3:210.9mg, 腐植質10.8mg,
釧網本線・浜小清水駅より徒歩25分(2.0km)
北海道斜里郡小清水町浜小清水137-1 地図
0152-64-2065
13:00~21:00
300円
石鹸あり、他の備品類なし
私の好み:★★★