温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

ひとっ風呂浴びに3日登山 高天原温泉 その2(太郎平から薬師沢小屋)

2013年11月18日 | 富山県
「ひとっ風呂浴びに3日登山 高天原温泉 その1(折立から太郎平まで)」の続編です。

今回は7回に分けて記事をアップしています。


 
【11:25 太郎平小屋(2330m)を出発】
コンビニのおにぎりを頬張り、ゆっくり休んでから出発。



小屋の左脇を通って裏手へ抜けると、100mほどで二手に分岐する。右は黒部五郎岳方面へ、左は薬師沢方面へ。ここは左を選択。


 
分岐の先は小さな高層湿原となっていて、池塘の向こうには明日登る雲ノ平、そしてその奥に水晶岳が聳えていた。しばらくは平坦な木道を進む。


 
振り返ると薬師岳が優美な裾を広げている。その手前で赤い小さな屋根を戴いているのが、さっきまでいた太郎平小屋だ。小屋で働いているスタッフさんは武骨で屈強な山男ばかりだが、こうして見る小屋自体はとても女性的で可愛らしいじゃないか。そう思いながら、小屋の水源となっている沢を越える。


 
いまからこのパノラマの真ん中に見える薬師沢の谷へ下りて、奥へ奥へと向かう。そして翌日には谷の奥に屹立している雲ノ平をのぼる。登って下りて、また登る…を繰り返すわけだ。非効率だけど仕方ない。路傍にはもうすぐ開きそうなリンドウの蕾がいくつも見られた。


 
この登山道は本当によく手入れされており、関係各位の努力には感心させられる。例えば、谷へ下ってゆく箇所の路肩は、木材で固く土留めされており、棕櫚の網で両サイドがしっかり保護されていた。


 
また、深くえぐれた箇所もあるのだが、しっかりとしたステップが随所に設けられており、スリップする心配をせずに急な坂を下ることができた。



ひたすら下りが続き、下ることに飽きはじめてきたころ、太郎平から約35分で右手に清らかに澄み切った沢が見え…


 
【12:05 中俣】
谷底に下りきって、薬師沢の源流部に当たる中俣という沢を渡る。橋の下がちょうど他の沢との合流部になっていた。ここから先は起伏が緩やかになり、土の道と木道が交互に現れながら、沢に沿って東進することになる。


 
【12:13 薬師沢にかかる橋】
ちょっと長い橋で薬師沢の右岸へ渡る。沢の水は驚くほど綺麗だ。普段の私のセコくて黒い腹も、この沢に入って身を清めれば浄化されるだろうか。そう思うと、この清冽な沢が腹立たしくなった。


 
橋を渡って100mほどでハシゴを登る。ここから薬師沢小屋までは、地図上では沢沿いのルートとして描かれているが、実際には沢を高巻いたところを、いくつかのアップダウンを繰り返しながら進むことになる。


 
【12:20 清水が美味い水場とベンチ】
太郎平から薬師沢までのルート上にはたくさんの水場があり、また休憩用のベンチも何箇所か用意されている。どんな山を歩く場合でも、水場の位置及び飲み水の確保は非常に大きな問題となるが、このルートは水に全く苦労せずに済むのが嬉しい。太郎平小屋ではチップ式で給水できるが、このルートを選択するなら、ちょっと我慢してここで汲んだ方が遥かに良い。しかもこのベンチ前にある水場の清水は、キリリと冷えて口当たりが軽く、最高に美味いのだ。往路では水を飲むだけに留めたが、復路ではこの水でお湯を沸かしてご飯を作るつもりだ。


 
笹原の中に生える針葉樹が、雲ひとつ無い青空へ、天高く伸びている、まるで北欧の風景画のような景色の中、木道は奥へ奥へと続いている。どれだけ歩いても汗はほとんどかかない。熱くも寒くもなく、爽快この上ない。足取りが軽くなり、思わず口笛を吹いてしまう。東京で迫り来る仕事の納期に肝を冷やしている同士よ、癖のある客からイチャモンをつけられて胃を痛めている同士よ、みんなには悪いが、俺は今天国にいる。一人で思う存分、清らかな空気を吸い込んでいる。恨んでくれるな。


 
【12:35 左俣】
長い橋で左俣という比較的川幅の広い沢を横断する。この橋は一部の橋桁が傾斜しており、雨の日はちょっとスリリングかもしれない。


 
なだらかな区間が多く、ベンチも随所に設置されている。実に歩きやすいルートだ。


 
 
【12:45~50 丸太橋で崖をクリア】
このルートは橋以外に危険箇所があまり無いのだが、強いて言えば、太郎平から1時間20分後の地点で遭遇したこの丸太の足場の前後だろうか。ここでは沢を高巻くため、一旦急登した後に、崖を即席の足場のような丸太橋で越え、水が流れ込んで道が沢と化している泥濘の坂を登ってゆくのだ。悪天候時にはちょっと手こずるかもしれないが、この時は特に問題なく、足場みたいなところにもちゃんとロープが渡してあるので、たやすくクリアできてしまった。


 
木道でいくつもの細い名も無き沢を渡ってゆく。こうした幾つもの細流が集まって薬師沢は徐々に川幅を広めてゆき、そして黒部川へと合流してゆくのだろう。


 
繰り返すが、本当に美しい景色だ。日本じゃないみたい。


 
【13:15/23 カベッケヶ原】
絵画のような景色を単に歩いて通過するだけでは勿体無いから、このカベッケヶ原と称する場所のベンチでちょっと腰掛けてみた。


 
カベッケヶ原を経つと、いままで続いてきた爽快な高原は終焉となり、やせ気味の尾根を下りてゆくと、屋根いっぱいに布団を載せて天日干ししている小屋が目に入った。


 
【13:30 薬師沢小屋】
折立から(休憩を含めて)6時間20分で本日の目的地である薬師沢小屋に到着。のんびり来たつもりだが、早すぎたのか、小屋の中へ声を掛けても反応が全くない。仕方ないので小屋前のベンチで30分ほど腰掛けていたら、大東新道の方から女性スタッフの方が現れ、ようやく受付が可能となった。私は事前に予約をしておいたのだが、その御蔭か、客室では一番隅っこを確保することができた。


 
小屋の目の前で黒部川と薬師沢が合流する。この辺りの黒部川は最上流部に当たり、川の中では大きなイワナが6匹ほど泰然自若に泳いでいた。なおこの辺りに棲息しているイワナは放流されたものらしい。というのも、ここから下流には大小の滝が連続しているため、天然物のイワナはここまで遡上できないらしいのだ。だから、もし太公望が釣り上げたとしても、リリースしてあげないと、せっかく放流した関係者の苦労が報われない。


 
宿泊料金はこの表の通り。私は2食と明日のお弁当をお願いしたので9,800円をお支払い。
小屋は全体的に傾いているらしく、帳場横の錘がレッドゾーンに達すると危ないらしい。
トイレはバイオトイレが採用されており、ちょっと狭いが臭いとは無縁で快適だ。


 
2階の客室へ上がる階段は「最後の急登」と称されている通り、本当に戦前の民家のような急傾斜であった。



いわゆるカイコ部屋と称されるスタイル。布団一組につき枕が2個用意されていたので、最混雑時にはそれこそ布団一枚で2人といったような修羅場が展開されるのだろうが、この日はガラガラだったので、その正反対となる、布団2枚で一人という、実にゆとりのあるスペースが確保できた。


 
木のぬくもりが伝わる食堂。夕食は17:30から。手の込んだお料理が提供され、美味しくいただいたのだが、この晩に小屋の食事を摂ったのは私を含めて2人だけで、他の宿泊客(計10人ほど)はそれぞれ自炊していた(自炊室もある)。薬師沢ではテントが張れないため、やむを得ず小屋泊にしている登山者が多いらしく、せめて食事は自分で作りたいのだろう。

日が暮れると急に冷え込んでいたので、フリースを着込んで寒さを凌いだ。食後はウッドデッキに出て黒部渓谷の清流を眺めながら、自分でお湯を沸かしてコーヒーを淹れ、同じく山小屋で宿泊する登山者のみなさんと喋りながら、一期一会のひと時を過ごした。

その3へ続く
コメント
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