日光湯元のバスターミナル前には、ペンション風の旅館がいくつか建ち並んでいますが、今回記事ではその中でも最も温泉寺にも近い位置にある「万蔵旅館」で日帰り入浴した際の様子を取り上げます。かつてこちらは「山びこ荘」という旅館でしたが、数年前に廃業してしまい、その建物を居抜きのような形で現在のオーナーさんが入手。2016年4月に現在の名称でオープンしたんだそうです。
玄関こそアットホームなペンション風ですが、館内ホール(食堂)は天井が高く、内装も改修されてとっても綺麗。カーペットの上に配置された天然木のテーブルやチェアーなどが、山の宿らしいぬくもりを感じさせてくれます。また大きな窓から陽光が降り注ぐので、明るいのみならず、室内にいながら周囲の山の景色と一体化したるかのような感覚も得られることでしょう。
玄関にいらっしゃった男性の方に日帰り入浴をお願いしますと、快く受け入れてくださいました。
明るいホールの奥にある階段を下った通路の先に、男女別の浴室があります。まだ汚れのない真っ白い壁紙は、内装工事をしたばかりであることを物語っていました。
食堂ホールは綺麗にリニューアルされていましたが、イニシャルコスト削減のためか、脱衣室は目立つところだけ手直しして、他は以前のまま使っているように見受けられました。また壁紙の貼り方が荒かったり、古いコンクリがむき出しだったり、床が若干傾いていたりと、改修工事も詰めが甘いような感を受けます。
なお館内表示によれば、お風呂の温泉は掛け流しですが、熱い時は加水して良いそうです。浴室へのドアには保健所が発行した温泉浴用許可済証のシールが貼られていましたが、そこに記されていた日付は平成28年1月1日。まだ保健所からの許可をもらったばかりなのですね。
浴室は内湯のみ。湯気とイオウ臭に満ちた浴室内の奥にひとつの浴槽が設けられ、(男湯の場合は)右手に洗い場が配置されていました。妙にデッドスペースが多いこの浴室は、全体的に年季が入っており、特に新しさを感じるものはなかったので、以前の旅館時代の設備をそのまま流用しているのでしょう。特に洗い場にはシャワー付きカランが4基並んでいるのですが、いずれも新品ではなく、一部のカランでは金具が劣化しているのか、お湯がシューシューと音を立てながら漏れていました(私の訪問時のことですので、今は直っているかもしれません)。また2方向には窓が設けられていますが、周囲を他の宿によって囲まれているため、窓は全て曇りガラスになっており、それゆえ入浴しながら景色を眺めることはちょっと厳しいかもしれません。なお側壁にはたくさんのルーバーが取り付けられているのですが、これは硫化水素ガス対策かと思われます。
床から立ち上がる形で設置されている浴槽は1.5m×3mほどのタイル張りでおおよそ5〜6人サイズ。壁には「ぬる湯」と彫られた石が埋め込まれているのですが、特に温度差によって仕切られているわけではなく、ひとつの浴槽があるばかりですから、この「ぬる湯」表記は旧施設時代の名残なのでしょう。この表記やカラン、そして全体的に年季が入った浴室など、随所に旧旅館時代の形跡が残っているため、お風呂に入っても新しい宿を実感できる要素があまりないのですが(せっかくオープンまで漕ぎ着けたのに、肝心のお風呂を評価できずに申し訳ございません)、このお風呂で素晴らしいのはお湯が濁っていないことです。日光湯元のお湯ですから、他のお宿と同じく湿原に湧く源泉の混合泉を引いているばずなのですが(お宿のスタッフの方も他の宿と同じお湯だとおっしゃっていました)、他の宿では白濁してしまうのに、こちらの浴槽では美しいターコイズグリーンを呈しながら底面まではっきり見通せるほどの透明度が保たれているのです。白濁は外気との接触や温度低下などによって発生しますので、濁りが強いほどお湯が劣化していると言い換えることもできます。逆に言えば、濁っていないということはそれだけこのお湯の鮮度が良いわけです。もちろん、お湯のコンディションやその時々の気温や気候など様々な要因によって色合いや濁り方は変化し、このお風呂でも白濁が現れることがあるようですが、でもこれだけ濃いグリーンで且つ透明度が高いお湯に入れるお風呂は、当地ではなかなか巡り会えないかと思います(当地でグリーンの透明なお湯に入れるお風呂といえば、他には「民宿若葉荘」が挙げられます)。お湯の色が非常に美しく、また浴槽が角を面取りしたような形状をしているため、お風呂そのものがまるで巨大な宝石のように見えました。
湯口からは熱いお湯が注がれ、翠色の湯中では黒い湯の華が舞っていました。宿のスタッフの方曰く、手元に分析書が無いとのことなので、お湯に関して詳しく調べることはできませんが、お隣のお宿で使われているのは奥日光開発3・4・7号の混合泉ですから、おそらくそれと同じものが引かれていると推測されます。お湯からは鼻の粘膜をツンと刺激する強いイオウ臭が感じられ、お湯を口に含むとイオウ由来のタマゴ味のほか、しっかりとした苦みやエグ味が口腔の粘膜にこびりついてきます。お湯は完全掛け流しで、浴槽縁の切り欠けから溢れ出ており、その流路はイオウのこびりつきで盛り上がっていました。
その一方で、湯船の底面には硫化鉄を含む沈殿が溜まっており、湯船から出た後に自分の足裏を確認したら、案の定、硫化鉄によって薄っすらと黒く染まっていたのですが、全体的に古さが目立つこのお風呂で大量の沈殿を目にしてしまうと、温泉の事情を知らないお客さんの中には「清掃不足では」と誤解してしまう方もいらっしゃるでしょう。またお湯が溢れ出す流路付近でも湯泥のようなものが溜まっていたので、これも同様の誤解を招きかねません。お湯は大変素晴らしいのに、マンパワーなどいろんな面での不足が露呈しているのが実に残念なところです。
でもまだオープンしてから間もなく、コストを削減して努力している箇所も垣間見えますので、今後のブラッシュアップには大いに期待したいところです。また平均的な宿泊単価が比較的高い日光湯元にあって、こちらのお宿は低予算で泊まれる貴重な存在でもありますから、私個人としても是非頑張っていただきたいと思います。
温泉分析書見当たらず
日光駅(東武・JR)から東武バス日光の湯元温泉行で終点下車すぐ
栃木県日光市湯元2553
0288-26-3333
ホームページ
日帰り入浴時間不明
600円
ロッカー見当たらず、シャンプー類あり、ドライヤーはフロント貸出
私の好み:★★
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