温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

台東県 緑島1泊2日 その3 島を一周

2017年08月08日 | 台湾
※今回記事に温泉は登場しません。あしからず。

前回記事で取り上げた「朝日温泉」が湧く台東県の離島「緑島」は面積約15㎢。台東県道90号線「緑島環島公路」はその名の通り緑島の縁をぐるっと周回している環状道路であり、一周は18.247kmですので、スクーターがあれば容易に一周できますし、体力に自信があれば自転車でも周回可能です。バイク利用の場合は(たとえ中文翻訳を所持していたとしても)125ccの二輪が運転できる免許がないと一般的なスクーターやバイクは運転できませんが、法整備が不完全であるためか、バッテリーで動く電動スクーターならなぜか免許不要で運転できますので、今回は宿泊先で手配してもらった電動スクーターで島を時計回りに一周してみることにしました(電動スクーターに関しては当記事の最後で簡単にご紹介します)。なお前回記事で取り上げた「朝日温泉」は、島を一周する過程で温泉に入ったのでした。

今回記事では南寮の港から時計回りにぐるっと周回します。具体的には以下の順です。
 南寮港→南寮の街→空港→灯台→人権記念公園→柚子湖→朝日温泉→南寮港


●南寮の港や市街

人口約3800人の緑島は3つの村から成り立っています。その中で最も多くの人口を擁しており、且つ商業や行政の中心にもなっているのは、島の西側に位置している港町の南寮。この南寮の南部には漁港のほか、台東の富岡へ向かう船の乗り場があり、私が富岡から乗った船もこの南寮の港に着岸しました。


 
港付近にはおびただしい数のバイクがずらりと並んでいました。観光シーズンには全て貸し出されるのでしょう。


 
港の前には島唯一のガソリンスタンドがあります。ガソリンエンジンで動く一般的なスクーターを借りる場合は、必ずこのスタンドのお世話になるはずです。なおこのスタンドは夜になると閉まってしまうので要注意。ガソリンスタンドの南方で鈍い音を響かせている重厚な施設は火力発電所。島の電気供給を担っているのでしょう。


 
南寮港から環島公路を北上すると、島で最も賑やかなエリアに入ります。道の両側に飲食店や土産物店などが並び、コンビニも2軒営業しています(セブンイレブンとファミリーマートが1軒ずつ)。なお両コンビニとも、各商品の価格に離島への輸送コストを上乗せしているため、台湾の本島で買うより若干高めです(10%程度)。また島のコンビニにはATMがありません。島で現金を引き出したい場合は郵便局を利用することになります。


●南寮の北部と中寮の集落(空港や灯台付近)
 
商店街を抜けた先の左側には一本の小さな滑走路が伸びています。南寮村の北部には空港があり、私がお世話になった空港近くの民宿(左or上画像)もギリギリで南寮村に属しています。


 
緑島の空港に関しては次々回記事で細かく触れます。空港の前には観光案内所があり、自転車のレンタルも行なっているんだそうです。


 
隣村の中寮は、南寮村北部の集落とほとんど一体化しているため、「環島公路」を走っていても、村の境界を跨いだことには気づきません。集落の中には小学校や中学校があり、狭い路地が毛細血管のように張り巡らされています。路地に入って北西の方角へ進んでゆくと・・・


 
緑島灯台にたどり着きました。この白亜の灯台は1939年に建てられ、高さは33mなんだとか。港、空港、そして灯台と、島の交通に関する諸施設はすべて島の東部から北東部に集中しているんですね。施設のみならず、島の人口そのものが台湾本島に近い東側に集まっています。


●島の北部
 
灯台から海岸線に沿って東進すると、やがて「環島公路」に合流しますので、そのまま東へ走ります。途中でスクーターをとめ、磯場に下り立ってみると、磯の海は非常に透明で、海中をたくさんの小魚たちが泳いでいました。観光シーズンにはダイビングやシュノーケリングのお客さんで賑わうらしいのですが、なるほど、こんな綺麗な海なら私も是非とも潜ってみたいものです。


 
緑島は台東から約33kmほど離れた絶海の孤島であるため、その地理的特徴によって「流刑の島」として使われてきた暗い歴史があります。現在も島内には刑務所がありますが、かつて国民党政権が戒厳令を敷いていたころ(戦後から80年代まで)、この島は政治犯を収容する監獄や思想矯正施設が設けられ、一般人の渡航が制限されていました。
島北部の海岸は奇岩の多い風光明媚な景色が続いているのですが、そんな奇岩のひとつである「将軍岩」を臨む場所に芝生の公園が広がっています。円形の大きなモニュメントが印象的なこの公園は「人権記念公園」。円形のホールの壁には白色テロによって迫害され緑島に収容された人々の名前が刻まれています。また公園の東側にある高い塀に囲まれた建物は「緑洲山荘」と称する政治犯の監獄跡です。この他にも一帯には政治犯収容関連施設が残されており、すべては「緑島人権文化園区」として一体的に整備され、二度と繰り返してはならない戒厳令時代の歴史を後世へ伝えています。
今回の緑島紀行では、朝日温泉と並んでこの政治犯収容施設跡の見学が大きな目的でしたので、次回記事でこの施設に関して述べさせていただきます。


 
「緑島人権文化園区」エリアを抜け、坂道を登って島の東海岸へと向かいます。


●島の東海岸
 
東側の海岸を臨む丘の上を走っていると、突如として赤い楼門が現れました。門には「観音洞」と記されています。ということは、観音様が祀られている鍾乳洞なのでしょうか。スクーターをとめ、門を潜って通路を進んでゆくと、予想通り、鍾乳洞へ入る階段が奥へと続いていました。


 
階段を下った先には、のっぺらぼうの石筍と思しきものが屹立しており、そこには「観音菩薩聖尊」という看板が立てられていました。このツルンとした石筍が御本尊なのですね。天然の鍾乳洞とはいえ、さすがは中華圏ですから、紅色の装飾で派手やかに彩られており、洞内にはお線香の煙が漂っていました。


 
この鍾乳洞には魚卵のような形状をした石灰岩があるらしく、台湾では非常に珍しいのだそうですが、それを知ったのは帰国後のこと。下調べをしない状態で訪問してしまったので、私は現地でそんなことに気づくこともなく、「鍾乳洞としては大して面白くなくないな」なんて失礼な感想を抱いたまま、観音洞を後にしてしまいました。多くの観光地は、たとえ一見退屈に思える光景であっても、予習をすることによって見方が変わり、深い関心と印象を抱き、旅そのものの充実度も増すのですが、全ての対象について調べることなんてできるはずもなく、もしできるような才能と時間と造詣があれば、今頃私は世間も驚く碩学の大家になっていただろうから、現状でどう考えても月並みの凡人であるということは、そんな予習を自分に期待する方が間違っているんだと、この文章を綴りながら己の人間としての限界を悟っております。


 

閑話休題。観音洞から「環島公路」をちょっと南下すると、海岸へ下る脇道が逸れていたので、ちょっと寄り道することに。
ジグザグの急坂を下りきったところで舗装路が尽き、岩礁と断崖の間に挟まれた小さな平坦地へ歩道が伸びていたので、そこでスクーターをとめて歩道を進んでみたのですが、歩道のまわりには屋根からゴロゴロと崩れ落ちた複数の廃墟が無残な姿を晒しており、幽霊の1体や2体が現れても不思議ではないような光景が広がっていました。この海岸は柚子湖という集落で、島にある集落の中でも古くから生活が営まれており、台東県の観光パンフレットによれば、珊瑚礁岩で作られた伝統的な民家がこの集落の特徴的な光景らしいのですが、私が実際に見た印象ではその特徴はことごとく廃墟と化しており、夕方に近づくにつれて太陽が早々に断崖の向こう側(山側)へ姿を消してしまうため、島の東に面しているこの海岸は早々に影に覆われて暗くなり、ますます不気味に感じられたのでした。でも海岸自体は大変美しいので、集落跡地が太陽で明るく照らされる時間帯に訪れたら、また違った印象を抱けるのかもしれません。
しばしば「旅は行き当たりばったりに限る」と仰る方がいますが、必ずしもそんなことはなく、少なくとも陰って薄暗くなった柚子湖に限って言えば、太陽が燦々と輝いている時間帯に訪ねるべきだと断言してよいでしょう。何がなんでも偶然が良いだなんて粋がっている場合ではありません。半可通丸出しです。


 
歩道から波打ち際に出てサンゴ礁岩の磯を歩いていると、足元のあちこちにサンゴの跡を発見しました。さきほど訪れた観音洞の石灰岩は、こうした岩が陸地化し、地下水や風雨によって溶かさることによって出来上がったのでしょうね。


 

柚子湖から坂を登って「環島公路」へ戻り、再び時計回りの方向へ進んでゆくと、こんもり盛り上がった地形が海へ突き出ており、その尾根上に歩道が整備されていたので、その歩道を辿ってみることにしました。綺麗な弧線を描く入江は海参坪と称し、この海参坪付近の海に浮かぶ大きな岩はパグ犬や眠れる美女に例えられているんだそうですが、どれが犬でどれが美女なのかな。ここでその譬え表現に異論を挟むことはやめておきます。


 
尾根道のどん詰まりには、東屋が建つ見晴らしの良い展望台(観景亭)になっており、島の東海岸を一望することができました。岩礁にぶつかってできる白波が、青と緑の景色にアクセントを与え、清々しい色調のトリコロールを形成しています。右も左もひたすら同じような海岸線が続き、正面を向くと太平洋の大海原が果てしなく広がるばかり。高台から海洋を眺めているので、海がわずかに地球の形の沿って円弧を描いてるように見えます。
潮風にあたりながら東屋で休んでいると、崖の下の方から茶色く大きな物体が上がってくるではありませんか。なにかを思って柵から身を乗り出してその方向を見下ろしたところ、2頭のヤギが崖の草を食んでおり、ヤギ達は草を求めて崖を上がってきたのでした。飼われているのか野良なのかわかりませんが、よほど人馴れしているのか、ヤギ達は私の姿を確認しても一瞥するだけで、ひたすら食事に没頭していました。ヤギはいる。でも人はいない。展望台から眺める景色に人家がない・・・。この展望台から眺める景色は、単に美しいのみならず、緑島において人々の営みは島の西側、つまり台湾本島に向いている方へ集中しているということを教えてくれます。


 
ワインディングが続く島東側の「環島公路」を南下してゆくと、島の南部で海べりへ向かって一気に下ります。そして、いくつかの小さな集落を通過すると、やがて「朝日温泉」へたどり着きます。なお「朝日温泉」に関しては前回記事で触れております。


●南寮へ戻ってきました
前回記事で述べたように、私は「朝日温泉」で入浴しながら、洋上にあがる満月を仰ぎ見たのですが、離島という土地柄、飲食店は夜の早い時間に閉まってしまうと推測されるので、呑気にいつまでも露天風呂に浸かっていると、夕食を食べそびれてしまいます。そこで後ろ髪を引かれる思いで夜7時半頃に温泉を出発し、「環島公路」を約30分ほど北上して、当記事冒頭で紹介した島の中心である南寮へ戻ってきました。



南寮へ戻ってきたのは夜8時頃。最大の集落であっても、シーズンオフ且つ夜という時間帯なので、商店街は案の定しんと静まり返っていました。とはいえ、飲食店はまだ何軒か開いていたので、どんな料理をいただけるのかという選択の余地が残されていました。


 
せっかく海の幸に恵まれた島にやって来たのですから、上画像に写っている魚介専門の食堂へ入ってみることにしました。注文したのは、台湾名物魯肉飯のマグロバージョン(一般的な魯肉飯は豚肉ですが、その代わりにマグロを使ったもの)、三杯魚(揚げた魚を三杯酢で味付けしたもの)、そして青菜の炒め物です。なかなかの美味でしたよ。


●緑島における電動スクーターについて
冒頭で申し上げたように、私は宿泊先の民宿で手配してもらった電動スクーターを借りて、島内を移動しました。島内には専門業者が営業しているので、私のように宿を介さなくても、直接業者を訪ねれば利用できるかと思います。なお私の場合は24時間で500元でした。
詳しいことはわからないのですが、どうやら電動スクーターは法律上自転車として扱われているらしく、免許不要で運転できてしまいます。この電動スクーターは、外観は一般的な(ガソリンエンジンで動く)スクーターとほとんど同じ。起動時はイグニッション(かぎ)を回し、ブレーキを握ってスタートボタンを押すと走行可能状態になります。つまり起動方法も一般的なスクーターとほとんど同じです。免許不要で運転できる乗り物なのに、平坦な場所ではフルスロットルで50km/h以上のスピードが出ちゃいます。一方、エンジンの代わりにモーターで動くので走行音が静かなのですが、モーターは如何せん非力なので、急な登り坂だと止まりそうになってしまい、特にワインディングと坂がつづく島の東部では登り坂でしばしば徒歩並みのスピードにまで落ちてしまいました。おそらくテレ朝の深夜に放送されている「全力坂」で駆け上がっている若い女性タレント達の方が速いはずです。
充電に関しては、バッテリーをまるごと交換することになります。乗っているスクーターの充電残量が少なくなった場合は、電動スクーター業者のバッテリーステーションへ行きます。ステーションの店内には充電済みのバッテリーがたくさん陳列されていますので、スクーターのシート下にセッティングされているバッテリーを、店内のフル充電済みのものと交換し、使用済みのバッテリーを店内の指定場所へ置いておくだけでOK。誰でも簡単かつ短時間に交換できちゃいます。レンタル料金にはバッテリー交換代金も含まれているらしく、時間内なら何度交換しても大丈夫のようです。

利用する上で問題になってくるのが、フル充電したバッテリーの走行可能距離(航続距離)。私の実体験ですと、フル充電のバッテリーで緑島1周半相当の距離を走ることができました。つまり30km程度しかもたないのでしょう。でも(私の知る限り)各業者のバッテリーステーションは南寮地区にしかありませんので、島を一周したり、あるいはバッテリー交換ができない島の南東部(朝日温泉など)へ向かう場合は、余裕を持って早めにバッテリーを交換しておく必要があります(残量50%でも交換しておくべきです)。充電残量25%程度で朝日温泉から南寮へ帰るのは相当厳しいかと思われます。またバッテリーステーションは夜になると閉まってしまうので、夜間や早朝に行動する場合も、早めの交換が必須です。


さて次回記事では、当記事でも立ち寄った政治犯収容所跡に関して触れます。

次回に続く
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