温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

日光湯元温泉 湯守釜屋

2013年02月13日 | 栃木県
 
前回に引き続き日光湯元温泉です。今回は当地の老舗旅館「湯守釜屋」にて立ち寄り入浴をお願いしてまいりました。


 
玄関から一歩館内に入っただけで、硫黄の香りがふんわりと漂って来ます。
フロントで入浴料金を支払い、貴重品を預けます(浴室内にロッカーはありません)。近年における冬の奥日光ではスノーシューが流行っているそうですが、この日のロビーにはそれを裏付けるようにアウトドアスタイルを身に纏ったお客さんが目立っていました。


●薬師の湯
 
釜屋のお風呂には「薬師の湯」と「瑠璃風呂」の2室があるのですが、まずは「薬師の湯」から入ることに。ロビーの奥へ伸びる「懐かしの手ぬぐいギャラリー」を抜けた左手に浴室の暖簾が掛かっていました。


 
さすがに老舗大型旅館だけあって脱衣室は広く、棚も籠もかなりの数が用意されており、リノリウムの床には茣蓙が敷かれています。基本的なアメニティ類もひと通り揃っています。


 
5台ズラリと並んだ洗面台。硫黄の影響を受けた水栓は硫化して黒く変色しています。管理なさる方にとってはメンテナンスにご苦労されているかと思いますが、硫黄の温泉はこうでなくっちゃいけませんよね。


 
曇ってわかりにくい画像で恐縮です。私の安物のデジカメではこれが限界でした。
坪庭に面した大きなガラス窓で明るい環境の浴室。その窓を底辺にした三角形の大きな浴槽が据えられています。



洗い場にはシャワー付き混合水栓が7基横一列に並んでいます。


 
木組みの湯口からは3・4・7号の3源泉を混合したアツアツのお湯が注がれて、浴槽を満たしたお湯は浴槽縁の上を静々とオーバーフローしています。館内表示には温度調整のため加水されていると記されているものの、この時の投入量は絞り気味でしたから、実際には投入量の増減によって温度をコントロールしているのかもしれず、加水の程度は少ないのかもしれません。加水が少なければせっかくのお湯の希薄度合いも軽減されますから、濃いお湯が好きな者としてはありがたい方法ですね。なお加温・循環・消毒は行われていません。
湯中では白い細かな湯華が無数に舞って乳白色のコロイド濁りを成しており、透明度は20cm程で底は見えません。
二枚貝の貝殻の内側と見紛うばかりの美しい翠色掛かった乳白色の湯面に、窓から差し込む陽光が反射してキラキラと輝くその様は、まるでパールの如き神秘的な美しさを放っており、その煌々しさにすっかり心が奪われ、気づけばこの時にお風呂で撮った画像のほとんどは湯面の輝きを写したものでした。
お湯を口に含むと弱タマゴ味と強い苦味、遅れてえぐみや渋みが感じられ、渋味が口腔に残って唇や粘膜を痺れさせつづけました。また臭覚面では殺虫剤を思い起こさせるような刺激性と焦げたような感じがある硫黄臭が強く嗅ぎ取れました。


 
大浴槽の右側には四角い小浴槽があり、ここにはぬるめのお湯が張られているのですが、この槽のお湯は縁の上をオーバーフローするのではなく、小さな塩ビ管を通って床へ流れ出させているのが特徴的でした。



●瑠璃風呂

続いて、フロント近くにある「瑠璃風呂」へ。マッサージコーナーを左に見ながら暖簾を潜って、女湯は左、男湯は右へとわかれます。上述の「薬師の湯」は独占状態で利用できたのですが、こちらはフロントに近い立地条件ゆえか、あるいは露天風呂があるからなのか、この日の「瑠璃風呂」は多くのお客さんで賑わっていました。


 
脱衣室は「薬師の湯」よりも一回り小さく洗面台も半分以下の2台ですが、アメニティ類は「薬師の湯」と同じものが用意されていました。



男湯の場合は入って右側に棚が設置されているのですが、棚に納められている籠が泥鰌すくいで使うようなタイプの形状で、見た目こそユニークですが、物を収めた時の安定性はいまいちかも…。


 
左右に大小の浴槽がわかれている内湯。左側の大きな浴槽は6~7人サイズでとても心地よい湯加減お湯、右側の小さな槽は3~4人サイズでややぬるめのお湯です。


 
左側の浴槽には源泉投入口があり、その真上には換気用のルーバーが設けられています。絞り気味だった「薬師の湯」と違ってこちらの湯口からはしっかりとした量のお湯が注がれており、しずしずとしたオーバーフローも確認できました。おそらくこちらでは一定量の加水が行われているようです。なお浴槽のお湯は翡翠色を帯びた綺麗な乳白色に濁っていました。きめ細かい粒子によって全身が覆われるようなしっとり感と、絹のような滑らかな浴感、そして力強い温まりが得られるお湯です。


 
洗い場は浴室の左右に分かれて配置されており、シャワー付き混合栓が計11基設置されています。水栓は案の定硫化して黒く変色していますが、その程度は軽くて黒というよりグレー程度に収まっていました。


 

マイナス6℃で風が強かったこの日に露天を入ろうとするお客さんは、奇特な私以外にはいらっしゃらないようでした。周囲をコンクリ塀で囲まれているので景色はあまり期待できませんが、雪は否応なく吹き込んでくるので、幸か不幸か雪見風呂は楽しめました。3~4人サイズの岩風呂で、浴槽と一体化した岩の湯口から源泉が落とされています。冷たい外気に触れているためか湯加減はちょっとぬるく、濁り方が弱くて翡翠色ではなくレモンイエローに近く、温度低下で溶解度が下がったのか大きな沈殿が底に溜まっており、お湯を動かすとそれらが一気に舞い上がりました。内湯で感じられたシャキッとするする感じも幾分パワーダウンしているようでした。

私のこの日の目的は硫黄臭まみれになって白濁湯で雪見風呂を楽しむことでしたので、この露天に入ることによって目的は十分に達せられたのですが、あまりの寒さのために、露天に浸かっていたらいつの間にやら湯気で湿った髪の毛がガチガチに凍ってしまいました。そんな髪の毛と体を内湯でしっかり温めてから退館したのですが、湯上りはいつまでも体がポカポカとしつづけ、その保温効果の高さゆえにダウンを着ていたら肌着として着ていたTシャツが汗で湿ってしまったほどでした。日光湯元のお湯は見た目の美しさのみならず、その実力も本当に素晴らしいですね。


奥日光開発(株)3・4・7号森林管理署源泉混合泉
含硫黄-カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩温泉 74.1℃ pH6.5 溶存物質1.284g/kg 成分総計1.440g/kg
Na+:126.1mg, Ca++:191.5mg,
Cl-:77.8mg, HS-:10.9mg, SO4--:496.2mg, HCO3-:236.4mg, S2O3--:0.6mg,
H2SiO3:96.0mg, CO2:119.8mg, H2S:37.2mg, 
源泉温度が高いため加水

日光駅(東武・JR)から東武バス日光の湯元温泉行で終点下車、徒歩3~4分程度
栃木県日光市湯元2548
0288-62-2141
ホームページ

日帰り入浴時間不明
1000円(フェイスタオル1枚付き)
貴重品帳場預かり・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント (2)
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日光湯元温泉 民宿若葉荘

2013年02月12日 | 栃木県
 
東京の街中に強い北風が吹き付け続けていた冬の某日、無性に硫黄臭い白濁湯に浸かって全身硫黄にまみれたくなり、東武線に乗って日光湯元へ向かうことにしました。まずは北千住から特急スペーシアで下今市まで、そして普通列車に乗り換えて東武日光へ。


 
東武日光駅からは路線バスで終点の湯元温泉へ。なおバスで湯元温泉へ行くのでしたら、東武で発売している「まるごと日光 東武フリーパス」がとても便利でして、東武線の乗車駅から湯元温泉まで電車とバスを単純往復するだけでも通常料金より安く上がります。
東照宮など麓ではほとんど見られなかった雪も、いろは坂や中禅寺湖などを過ぎてどんどんと上へ登ってゆくに連れて徐々に車窓が白くなってゆき、戦場ヶ原へ至るに及んでは真っ白になるどころか、強い吹雪で何も見えないような荒天になっちゃいました。晴れていれば右側の車窓にそびえているはずの男体山も完全に姿を消していました。


 
久しぶりに温泉寺でひとっ風呂浴びようかと思っていたのですが、ここのお寺は冬季に閉鎖されることをすっかり忘れており、残念ながらその願いは叶わず…。仕方なく境内すぐ目の前にある湯ノ平湿原の湯元源泉を見学。ここには何度も来ていますが、小屋掛された源泉から白濁湯が湧き光景は何度見ても飽きませんね。


 
吹雪の中で源泉見学していたらすっかり体が冷えきってしまったので、本来の目的である湯めぐりをスタートさせることにしました。今回最初に暖簾を潜ったのは、日光湯元では最も小規模と思われる「民宿若葉荘」です。大型旅館やペンションといった種類の施設が多い当エリアでは珍しい鄙び系の民宿であり、それゆえ温泉ファンからの支持を集めているお宿でもあります。
表の看板には「休憩・入浴」と記されているものの、ぱっと見の様子では営業しているか不安にさせる雰囲気。ダメ元で玄関に手をかけてみるとその引き戸はスルスルと開き、中からいかにも好々爺なおじいさんが現れて、訛った口調で「はいはい、お風呂ね。どうぞ。今日は風が強いねぇ」と話しながら、北関東や南東北の人によく見られる心の懐にスルリと入ってくるフレンドリーな接し方でお風呂へと案内してくださいました。



こちらはロビーというべき空間。ソファーを覆っているタオル地のカバーが印象的で、お宿というより一般の家庭におじゃましたような感じです。杓文字片手に民家へ上がり込む桂米助の気持ちになりました。


 
ウナギの寝床のような細長い建物の奥へと進み、洗濯機やトイレを通り過ぎた突き当たりに男女別の浴室があります。水関係の設備や部屋がひとまとめにされているレイアウトのようです。ご主人に「トイレの水はチョロチョロ出したままにしておいてね」と言われて気づいたのですが、北国では常識のこの凍結防止策が、自分の生活しているこの関東地方でも行われていることに意表を突かれ、関東って広くて風土に多様性があることを再認識させられました。


 
浴室手前にはステンレスの共用流し台が据えられており、蛇口からは水道の水とともにボイラーの沸かし湯もチョロチョロを落とされ続けていました。その脇にはカゴに納められたドライヤーが1台置かれています。


 
民宿だけあってお風呂はこぢんまりとした造りであり、棚に籠が並べられているだけの簡素な脱衣室は2人入ると身動き取れないような狭さで、浴室もタイル貼りの室内に3人サイズの四角い浴槽がひとつ据えられているだけの極めて実用的なものであります。洗い場には桶やシャンプーなどバスグッズがところ狭しと置かれていますが、シャワーはありません。


 
浴室正面の大きなガラス窓の他、側壁には2つの換気窓が設けられており、天井付近の横に細長い窓にはガラスが嵌められていないため、冷たい外気が入ってきて半露天のような雰囲気が味わえる他、この湯気抜きからうまい具合に湯気が逃げていってくれるので、冬の内湯にありがちな視界不良をもたらす湯気の篭り方は低程度で済んでいました。一方、湯面近くのルーバーは言わずもがな硫化水素中毒を防止するためのものです。またそのルーバーの左に写っている短い青いホースの蛇口は加水用のものです。


 
湯口から絶え間なくトポトポと音を立てながら熱いお湯が注がれていました。使用源泉は3・4・7号の3源泉混合。温度調整のため加水されていますが、れっきとした放流式の湯使いであり、浴槽縁の切掛けからオーバーフローしたお湯が排湯されてゆく床のまわりは硫黄で黄色く染まっていました。
日光湯元らしいラムネ臭や焦げたような硫化水素臭が鼻を突き、口にふくむと苦味+重曹味+硫酸塩的な味+硫黄味、それからワンテンポ遅れて渋みとえぐみが感じられ、唇や口腔内の粘膜にしばらく痺れが残りました。


 
こちらのお湯は誰も入っていない状態ですとグリーンを帯びた綺麗な透明なんだそうですが、この時は私と入れ違いに退館していったお客さんがしっかり加水したためか、湯加減はベストだったのですが透明なお湯は見られず、翡翠色を帯びたクリーム色に強くはっきりと濁っていました。浴槽の底には細かな沈殿があり、とりわけ湯口の直下に多く、底に手をついたら掌が白くなりました。
浴槽が小さいためか、お湯の濃さも濁り方も強く、知覚面も周辺の他施設よりもはっきりしているように思われます。濃い白濁の硫黄泉ですが酸性ではないため体への刺激が少なく(pH6.5)、また重曹も含まれているためか、シルキーで滑らかな肌触りが非常に良い心地です。それでいてパワフルな温まりと皮膚にしっとり染みこんでゆくような浴感が得られるんですから、さすが日光湯元のお湯は千両役者と言っても過言ではないですね。
周囲の立派な施設に埋没して目立ちにくいお宿ですが、この良質なお湯を愛するファンが多いらしく。この時も先客2人、後客2人が私と入れ替わる形で湯浴みしていました。


奥日光開発(株)3・4・7号森林管理署源泉混合泉
含硫黄-カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩温泉 74.1℃ pH6.5 溶存物質1.284g/kg 成分総計1.440g/kg
Na+:126.1mg, Ca++:191.5mg,
Cl-:77.8mg, HS-:10.9mg, SO4--:496.2mg, HCO3-:236.4mg, S2O3--:0.6mg,
H2SiO3:96.0mg, CO2:119.8mg, H2S:37.2mg, 
源泉温度が高いため加水

日光駅(東武・JR)から東武バス日光の湯元温泉行で終点下車、徒歩2分程度
栃木県日光市湯元2538  地図
0288-62-2523

立ち寄り入浴時間不明
500円
ドライヤーあり

私の好み:★★★
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壁湯温泉 旅館福元屋 後編(3つのお風呂)

2013年02月11日 | 大分県
前編のつづきです。

壁湯温泉「旅館福元屋」には3つのお風呂があり、欲張りな私はその全てを利用させていただきました。その3つとは、内湯、屋外の切り出し風呂、そして壁湯温泉名物の露天洞窟風呂、であります。まずは内湯から見てみましょう。


●隠り国の湯(内湯)

谷根千でお馴染みの森まゆみ女史が「隠り国の湯」とネーミングした館内にある旅館内の浴室すなわち内湯は、貸切で使う家族風呂となっております。


 
貸切ですが事前の予約などは必要なく、誰も使っていなければいつでも(深夜は不可)入浴可能。
利用の際は札を裏返して「入浴中」にします。引っ掛けには古い碍子が転用されていました。


 
お花や人形など、ひとつひとつが繊細で可愛らしい…


 
天井が低くて薄暗い浴室はまるで瞑想室のよう。浴槽には昔の蔵に使われていた石を用いているんだそうです。肌に触れるだけでその重厚感が伝わってきます。
なお浴槽に注がれているお湯は加温の上、掛け流されています。


●切り出しの湯
 
つづいては一旦屋外に出てから、共同浴場の入口付近に建つ離れのお風呂「切り出しの湯」へ向かいましょう。こちらも貸切ですが、宿泊者専用でして、利用に際しては帳場で鍵を借ります。



照明などは各自でON/OFFするのですが、照明のスイッチと並んで泡風呂のスイッチがあったこと、この写真を撮った後にそのことに気づきました。


 
脱衣室は2人でいっぱいになるほどこぢんまりとした空間。美容ジェルや化粧水の試供品が置かれているあたりに、このお宿の方向性がよくわかります。日が暮れるととても冷え込む場所でしたので、室内に用意されていたストーブがありがたかったです。



ご主人が切り出した石を三和土で堅めて造った優しいフィーリングの丸い浴槽は、貸切にしては大きくゆとりのあるサイズでして、3~4人は入れちゃいそうですが、そんな優雅なお風呂に2人寄り添いながら入ってこそ、より一層お籠りムードが昂揚しちゃうんでしょう。しかしながら、一歩旅の空の下へ出た途端、常住坐臥、寝ても覚めても孤影悄然な私はそんな睦み合いにはとんと無縁ですから、面積的にも心情的にもこの湯船の広さを持て余し、意味もなく伸ばした足をバタつかせてみたり、うつ伏せになってお尻をプカプカさせてみたのですが、何ら生産性のないこうした行動は余計に私を疲れさせ、本来は癒しの場であるこのお風呂に浸かっておきながら、寂寥感ばかりが募ってしまいました。一人でこのお風呂に入ると余計な思慮に支配されてしまうのかもしれません。
なお竹の樋から注がれる温泉は、源泉温度が低いために内湯と同様に加温されています。


 
ちゃんとシャワー付き混合水栓もシャンプー類も備え付けられていますよ。
さりげない飾りが心に清涼感をもたらしてくれます。



浴室内に掲げられたこのお風呂に関する説明です。
何!? 浴槽にハートがあるって?



おお! これだな! ハートみっけ!
尤もこういうことは、カップルでこのお風呂に入った時に女の子がはしゃぎながら見つけるものなんでしょうから、医者に体脂肪率を減らすように繰り返し忠告されている小太りのオッサンがハート探しに浮かれたところでただただ見苦しいだけなのですが、幸いにしてこのお風呂は貸切で他の誰にもその様子は見られませんから、オッサンだって女の子の気持ちになりたい時だってあるんだ、とわけも分からぬことを一人で呟きながら、下腹の贅肉を左右に揺らしてハート探しに夢中になっていたのでありました…。


●洞窟風呂

さて、壁湯温泉名物の洞窟風呂(露天風呂)へと参りましょう。
前2者と異なり、こちらは混浴で開けっぴろげな野趣あふれる露天風呂なのですが、「そんな恥ずかしいお風呂なんてイヤ」とお嘆きの姫君のため、洞窟風呂の手前には女性専用の岩風呂(画像に写っている湯小屋)が設けられているんですね。これにより、カップルでここへやってきたとしても、男性は露天へ、女性は岩風呂へ入れば、何ら問題なく且つ同じタイミングで入退場ができるわけです。


 
 
町田川の渓谷を成す岩を穿ってつくったような、まさに洞窟状のワイルドなお風呂。
この底からお湯が足元湧出してくるんですから感動せずにはいられません。実際に奥の方の底から時折プクプクと小さな泡が上がっていました。目の前が渓流というロケーションでしたら他の温泉地にもありますが、こんな条件を兼ね備えている露天風呂って他に類を見ませんよね。全国からここを目指して温泉ファンが集まってくることも納得できます。



湧出量は豊富らしく、このように浴槽の最下流からはドバドバと排湯されていました。



見えにくい画像で恐縮ですが、岩肌には「南無阿弥陀仏」と彫られていました。また奥の方には小さな石仏も置かれていました。壁湯温泉はきっと仏様のご加護があってこそなのでしょう。



あぁいい湯だ…といいたいところですが、この自画撮りを行った時(朝7時前)は、気温2℃にもかかわらずお湯の温度は36.3℃でした。自然湧出のお湯そのままの状態であり、加温なんてできない場所ですから、冬場の壁湯温泉洞窟風呂は寒さとの格闘が避けられないのですね。お宿の方は「(ぬるいので)1時間以上入って下さい」とおっしゃっていましたが、一度入ると寒くて出られなくなっちゃうので、どうしても1時間は入り続けてしまいます。でもお湯自体はとってもアッサリとした優しい性質なので、いくら長湯しても体には負担がかからず、入浴中は気泡が付着していないにもかかわらず、まるで全身が泡で浮いているかのようなフワフワ感に包まれました。

無色澄明無味無臭のいかにも宝泉寺温泉郷らしいお湯ですが、成分総計を比較してみますと、同温泉郷で最も上流に位置する川底温泉「蛍川荘」は1.060g/kgでしかも食塩泉、そこから2キロほど下った宝泉寺の「たから温泉」は0.522g/kg、更に数百メートル下流の壁湯は0.326g/kgという数値になっており、町田川に沿って点在する温泉は下流に向かえば向かうほど薄くなる傾向にあるのかもしれません。


 
洞窟風呂に目を奪われて見落としがちですが、川岸にも小さな露天があるんですね。お湯の温度といいロケーションといい、夏向きの温泉といえそうです。

「切り出しの湯」の女性向きな雰囲気には、何も知らずに代官山あたりの小洒落たカフェに入ったら周囲がみんな若い女の子ばかりで気後れしてしまったオジサンのような自意識過剰に陥りましたが、洞窟露天のワイルドさはまさに男性向きであり、両極端の個性を有するお風呂によって男女それぞれが満足できるという、実に理想的な温泉旅館でありました。お料理もホスピタリティも、とても山間部のお宿とは思えない上品なもので、温泉のみならずソフト面でもお客さんを魅了し続けているんだと今回実感させていただきました。


単純温泉 36.6℃ pH7.9 湧出量測定せず(自然湧出・自噴) 溶存物質0.322g/kg 成分総計0.326g/kg
Na+:53.8mg(77.23mval%), Ca++:8.5mg(13.86mval%),
Cl-:73.1mg(63.00mval%), HCO3-:62.4mg(31.19mval%),
H2SiO3:105.0mg,

豊後森駅から玖珠観光バスの路線バス(小国・菅原・二瀬行)で壁湯下車
(時刻表などは大分交通のHPを参照)
大分県玖珠郡九重町大字町田
0973-78-8754
ホームページ

立ち寄り入浴9:00~21:00
300円
洞窟風呂にはロッカーのみ有り

私の好み:★★★
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壁湯温泉 旅館福元屋 前編(お部屋・食事)

2013年02月10日 | 大分県
 

宝泉寺エリアでの湯めぐりでは、壁湯温泉の「旅館福元屋」さんにて一泊お世話になりました。屋外屋内問わず徹底的に古民家風の趣向が貫かれており、この手の雰囲気が好きな方には堪らないでしょう。


 
帳場、そして玄関横にある囲炉裏の様子。
囲炉裏には一冊のアルバムが置かれていたのですが、それを捲って中の写真を拝見しますと、こちらのお宿は以前はごく普通のどこにでもあるような佇まいの和風温泉旅館だったようですが、それをご主人や女将さん、そしてご家族が一緒になって職人さんたちと共に改修工事に勤しみ、その汗の結晶が現在の古民家風装飾となっていることがわかりました。


 
今回通されたのは渓流を眺められる2階のこちらのお部屋。一人客でも快く予約を受付けてくださったので、普段から一人旅ばかりしている私のような人間にとっては助かります。



お部屋へ案内されて挨拶を済ませた後、女将が淹れてくれたお茶、そしてお着き菓子として蜜漬けのゆず皮。芳香優しく品の良いお味です。



窓の外に流れる渓流は筑後川の支流である町田川。当宿名物の洞窟風呂も多くに望めます。


 
館内には民芸調の装飾がたくさん。寓話の世界に紛れ込んだかのようです。



なお今回のお部屋に洗面台は無かったので共用の洗面台を使わせてもらいました。


 
壁に掛かっているこの藁で作られた龍は小国町(熊本県)の農家の方が農間に趣味で拵えたものなんだそうです。趣味にしちゃ偉く立派で最早芸術の域に達しているんじゃありませんか! 



お食事は食堂でいただきます。


 
夕食の品書きを書き写してみますと…
地元産野菜と山菜の煮付、小鉢、刺身こんにゃく、馬刺、鮎の塩焼き、そばがきのあんかけ、山芋の茶碗蒸し、豊後牛の陶板焼き、山菜の天ぷら(大麦若葉塩でいただく)、高菜漬、椀物、自家製の香り米(ひとめぼれ香り米、壁湯福米)、デザート

全てが美味い! 豊後牛・馬刺し・地産野菜の煮付けなどが美味であるのは当然、鮎や天ぷらは揚げたてを出してくださるし、そばがきのあんかけも非常に上品、そしてお櫃を開けた時に香ってくる白米の芳香が素晴らしく、気づけばお櫃は空っぽになっていました。



夕食を終えて部屋へ戻ると、ふかふかの布団が敷かれ、そして卓の上には温泉を冷やした水がポットに入れられていました。喉越しがまろやかですっと体に入ってゆく優しい水でした。



まるで飾り雛のように丸いカゴに納められた朝食。普段はだらしない姿勢になりがちな男一人旅ですが、こんな可愛らしい配膳を目の前にしたら、自然と居住まいがシャキっとしちゃいます。盛り付けのみならずお料理も一品一品とても手が込んでおり、朝早くから厨房で腕をふるってくれた女将さんに頭が下がります。なお卵料理は生卵か目玉焼きを選択できるので、今回は後者をお願いしました。

さて次回はこちらのお宿ご自慢のお風呂を取り上げてまいります。
コメント (2)
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壁湯温泉 共同温泉

2013年02月09日 | 大分県
 
宝泉寺温泉郷にいくつか存在する共同浴場のうち外来者でも利用できる施設は壁湯温泉にある・・・。そんな情報を仕入れた私は、この日の宿泊先である同温泉の「福元屋」に荷物を下ろした後、すぐ目の前にあるその共同浴場へと向かったのでした。アクセス方法としては、国道387号から「福元屋」へ下ってゆく坂の歩道をひたすら下れば良いだけ。とってもイージーですね。歩道の路肩には数日前に降った雪がまだ残っていました。坂の左下に見える屋根は「福元屋」です。
なお上画像にもありますが、共同浴場利用者は公共駐車場を使ってほしいとのこと(歩道入口傍にある駐車場は「福元屋」の宿泊客専用でして、公共駐車場はそこからちょっと離れています)。


 
「福元屋」の入口を通り過ぎた先の突き当たりが共同浴場の入口。


 
さらに坂を下って渓流の畔までやってきました。川面に近い崖にしがみつくように屋根掛けされているその光景は、会津の木賊温泉を彷彿とさせます。



共同浴場は屋根にこそ覆われているものの、それ以外は特に壁に囲われているわけでもなく、とってもオープンな実質的な露天風呂と言っても良いような造りです。脱衣スペース・浴槽ともひとつしかないため、当然混浴となります。特に板の間の舞台のような脱衣スペースは思いっきり開けっぴろげでして、目隠しが何もないこの脱衣スペースで女性が着替えるのは心理的にかなりハードルが高そうです。


 
無人の施設ですから各自で料金を所定の箱に投入するわけですが、その湯銭箱のまわりには無銭入浴を戒める注意書きが「これでもか」と言わんばかりに掲示されていました。その様子から察するに、いままで相当の被害に遭ってきたのでしょうね。それでも性善説を信じて外来者を受け入れてくださる地元の方に感謝です。



脱衣スペースの一段下に浴槽が据えられていますので、スッポンポンになったらステップを下りてその入浴エリアへ向かいのですが、この日は雪が融けずに残っているほど冷え込みが厳しい気候であったため、全裸で階段を下りてゆくこの瞬間がめちゃくちゃ寒く、しかも周囲に篭っていた湯気がそのステップに付着して濡れ、外気によってすっかり冷えきっていたため、上半身は寒いやら、足の裏は冷たいやら、まるで寒修行をしているかのような辛い状況下で全身はすっかり縮こまってしまいました。


 
浴槽はコンクリ造で大小に二分されており、大きな方は「上り湯」となっていました。


 
一方、まるで用水路のような細長い小浴槽は「体の洗い場」。つまりこの狭いスペースで体を洗ってから、大きな「上り湯」へと入るわけです。大きな浴槽である「上り湯」のお湯で掛け湯しちゃうと、ここのお風呂の構造上、その汚れたお湯が「上り湯」へ流れこんでしまうため、「上り湯」の排湯路を兼ねたこの細長い槽で体を綺麗にするわけです。こんなシステムのお風呂って他に例を見ません。実際にここで体をゴシゴシ洗ってみたら、畑の脇で泥を落とされているダイコンやゴボウの気持ちが多少は理解できそうな気がしました。



「上り湯」では、画像の左下に石がゴロゴロしている箇所があって、その石の間をじっと見つめているとプクプクと泡が上がってくるのがわかります。そう、このお風呂は足元湧出なんですね。前回取り上げた川底温泉「蛍川荘」といいこちらといい、宝泉寺温泉は足元湧出に恵まれた温泉地なんですね。どのようにお湯が湧いてくるのか石を動かして探りたくなりましたが、「湯床の石を動かさないで下さい(底が抜けます)」という忠告に従い、好奇心をグッと堪えて上がってくる泡を見つめるだけにとどめました。お湯は無色澄明無味無臭で癖のない優しいサラサラとしたお湯です。



洞窟のような構造になっている「上り湯」の最奥には竹竿が横に渡されていますが、これはおそらく枕代わりに使うのでしょう。この大きな湯船は源泉が湧き上がるゴロゴロ石の箇所以外は浅い造りになっているため、寝湯にするには丁度良いのです。



当然ながら完全掛け流しの温泉ですが、そのお湯の温度は体温とほぼ同じ36.6℃。この日のように寒い時季ですと、一度お湯に浸かると寒くて湯船から出られなくなっちゃいますが、じっと長湯していればちゃんと温まりますよ。夏に入ったら最高に気持ち良いでしょうね。
プリミティブな造りといい、独特な洗い場といい、足元湧出のクリアのお湯といい、決して忘れることはできない個性的で素敵な共同浴場でした。


豊後森駅から玖珠観光バスの路線バス(小国・菅原・二瀬行)で壁湯下車、徒歩2分
(時刻表などは大分交通のHPを参照)
大分県玖珠郡九重町町田 地図

7:00~22:00
200円(「福元屋」宿泊客は無料)
備品類なし

私の好み:★★★
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