今回と次回の記事では、福島県奥会津の金山町に湧く2つの温泉共同浴場に関して取り上げます。
奥会津に点在する名湯のひとつ「湯倉温泉共同浴場」は、2011年夏に発生した福島新潟豪雨に伴う水害の影響を受け、2014年12月に完全リニューアルされました。新しく生まれ変わったその姿に関しては、すでに多くの温泉ファンによってネット上でレポートされており、本記事をご覧になっている方の中にはリニューアル後の現地へ複数足を運ばれている方もいらっしゃるかと思いますが、この期に及んで遅ればせながら、私も更新後の様子を取り上げさせていただきます。なお以前取り上げた際の記事はこちらです。
湯屋は以前とほぼ同じ位置に完全改築されましたが、川に向かって落ちている片傾斜の屋根は以前の湯屋の姿を思い起こさせてくれます。ベースとなる土地は、以前は段々になっていたものの、現在はフラットに整地し直され、その分土地が有効活用できるようになったため、湯屋の床面積は広くなりました。右(下)画像はリニューアルに伴って発行されるようになった回数券(半券)です。金山町の公式キャラ「かぼまる」が中央にプリントされている立派なデザインの券面ですね。
湯屋の裏手にあるポンプ小屋は以前のままですが、小屋内に設置されているポンプはピッカピカの新品に交換されていました。
共同浴場は以前と同じく無人施設のままですが、玄関を入って驚いたのが、無人施設とは思えないほど充実した待合室の設備類の数々。川面を望むお座敷にはテレビが設けられているばかりか、トイレがきちんと整備されており、扇風機やエアコンまで用意されいました。冬の寒い日も夏の暑い日も、湯上がりにゆっくり寛げそうですね。
外来利用者は入浴前に括り付けの黒い料金箱へ協力金を納めます(200円以上)。
リニューアルに伴って大きく変わったのが、一般的なお風呂と同じく男女の浴室が分けられた点でしょう。以前この共同浴場は男女混浴でしたが、建て直しに際して行政側(保健所等)から求められた条件のひとつが男女を分けることだったそうです。
休憩のお座敷から奥へ進むと男女両浴室の入口に突き当たり、桜色のカーテンが掛かっている直進側が女湯、引き戸が設けられている左側が男湯となっていました。白い棚に籐のカゴが並べられた脱衣室は、コンパクトでやや狭隘ですが、洗面台や扇風機など何かと助かる数々の設備類が用意されており、以前に比べると使い勝手が格段に向上していました。
浴室も見違えるように綺麗になっていました。室内には温泉の浴槽がひとつ設けられているほか、壁は白い建材が採用されて明るさが強調されており、床は十和田石敷きなので足元が快適です。日中は川面を望む大きな窓から日の光がたっぷり降り注いでいるため、明るく清々しい入浴環境が生み出されていました。浴槽は(目測で)1.8m×2.5mの四角形で、やや緑色を帯びた橙色の温泉がかけ流されています。
男女別浴と並ぶリニューアル後の大きな変更点が、浴室に洗い場が設けられたことではないでしょうか。以前の浴場には洗い場なんてものはなく、湯船からお湯を直接汲んで掛け湯をしていましたが、更新後の現在では洗い場に3基のシャワー付きカランが設置され、ボイラーで沸かした真湯が吐出されるようになりました。
地元(本名集落)の方から伺った話によりますと、浴場リニューアルに際して、この洗い場を新設するか否かに関しては喧々諤々の議論となったんだそうです。設置や維持管理のコストが膨れあがる洗い場は不要だとする意見もあれば、温泉のお湯だと泉質の関係で石鹸が泡立ちにくく、髪もゴワゴワする上、外来者も利用しにくいから真湯のシャワーを設置すべきだという意見もあり、検討の結果、現代の浴場施設にシャワーは必須だという結論にまとまったんだそうです。
洗い場が新設された一方、湯船の湯加減調整はアナログのまんま。以前の浴室では、湯船の奥に源泉の熱いお湯が流れる長い樋があり、その樋から湯船へ落とす湯量を増減させることによって湯加減をコントロールしていたのですが、新浴場では樋が無いかわり、浴槽の隅っこにある湯口から湯船へ落とされるお湯の量を止めたり出したりして、湯加減を調整するようになっていました。その具体的な方法は、湯船上の壁に張り出されている「入浴されるみなさんへ」と題された張り紙で説明されていますので、ここでその一部を書き写させていただきます。
1 冬期間は、外窓は閉じておいてください・・・結露防止のために
2 天然温泉の温度管理について
(1)入浴を終わられる方は、源泉を止めてください(「湯量調整板」で浴槽の湯口を止める)・・・後の人のために
(2)お湯が熱いときは「湯もみ板」で冷ましてお入りください
(3)水道水は入れないでください
つまり、源泉をそのまま入れっぱなしにしちゃうと湯船がアツアツになりすぎて入れなくなっちゃうから、誰もいない時はお湯の供給を止めておく。右(中)画像に写っているのが、その「湯量調整板」です。入浴中ならこの板を外して源泉を注いでOK。湯船が熱かったら、湯もみ板を使うのは良いが加水はダメ・・・といった感じでしょうか。地元の方曰く、お湯を冷ましたい場合は、湯もみ板の他、窓を開けるのも良い方法だと教えてくれましたよ。湯船には温度計も備え付けられており(左下もしくは最下の画像)、この時の湯温は43℃でした。
文章だけでは「湯量調整板」の使い方がいまいち分かり難いかと思いますので、湯口の画像で改めてご説明致しましょう。湯船の隅っこに設けられた扇型の湯口には、小さな板、つまり「湯量調整板」を嵌め込むことができる溝があり、これを嵌め込めば湯船への温泉供給が止まり、外せば湯船への温泉供給が全開になるわけです。左(上)画像は板でお湯を止めている様子。右(下)画像は板を外してお湯を全量注いでいる様子です。入浴中は自由にお湯を注げますが、湯口の時点で50℃以上ありますから、浴室退出時に誰もいない場合は、かならず板で塞いでお湯を止めておいてくださいね。
湯口のお湯を口に含んでみますと、出汁味の効いた塩味、金気味、土気味、そして弱炭酸味が感じられ、金気臭が嗅ぎとれます。湯船ではキシキシと引っかかる欲感が肌に伝わり、とてもよく温まる力強いお湯ですから、あまり長湯はできないかもしれません。
浴室の窓に広がる眺めは山水画のようで実に麗しく、この景色を眺めながら湯浴みしていると、身も心もすっかり癒されました。以前の共同浴場では、浴場から川へ排湯される温泉の成分によって、湯屋直下の川岸斜面に大きな石灰ドームが形成されていましたが、どうやら2011年の水害発生時に(もしくはリニューアル工事の際に)姿を消してしまったようです。しかし新たに生まれ変わった浴場から、再び川へ向かってお湯が排出されており、この排湯によって石灰ドームの赤ちゃんがコンモリと姿を現し始めていました。この赤ちゃんがかつてのような立派なドームに成長するのは、果たして何年先のことでしょうか。
本名集落にお住いのご老人によれば、大昔の湯倉温泉は湯船が3段構造になっていたんだとか。最上段は熱すぎて入れないため、卵や栗などの食材を茹で、人間は下段で入浴。風呂上がりに茹で上がった食材を頬張りつつ、持参した味噌を塩味の効いた温泉で溶かして味噌汁を作り、その味がとっても美味しかったと、お爺さんは頬を緩ませながら想い出話しを語ってくださいました。今も昔も、この温泉は人々を癒し楽しませ続けているのですね。
リニューアルによって混浴ではなくなり、鄙びた風情が消えてすっかりキレイな浴場に変貌したため、鄙びを愛する温泉マニアからの受けは以前ほどではなくなったのかもしれませんが、お湯のクオリティは以前同様に素晴らしく、かつお風呂としての使い勝手は格段に向上しましたので、総じて捉えると、以前以上に多くの人々から愛される温泉へと進化したのではないでしょうか。実際に、地元の女性からは、以前の混浴では利用する気になれなかったけれども、男女が分けられた新浴場は使いやすくなった、という声も聞かれます。一方、設備を充実させることによって懸念されていた維持管理コストに関しては、案の定よろしくない状況になっているようですから、ぜひ温泉を愛するみなさんで積極的にお風呂を利用し、以って浴場の末永い持続を支えたいものです。
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 60.5℃ pH7.3 60L/min(動力揚湯) 溶存物質5.652g/kg 成分総計5.715g/kg
Na+:1242mg(66.49mval%), Mg++:72.8mg(7.37mval%), Ca++:376.6mg(23.13mval%), Fe++:2.8mg,
Cl-:1427mg(47.81mval%), Br-:3.5mg, I-:0.2mg, SO4--:1423mg(35.19mval%), HCO3-:867.9mg(16.89mval%),
H2SiO3:131.5mg, HBO2:18.3mg, CO2:63.1mg,
(平成24年1月17日)
福島県大沼郡金山町大字本名字上ノ坪1944のイ 地図
7:00~20:00(日・木は夕方から清掃を行うため18:00まで)
協力金200円以上
備品類なし
私の好み:★★★
奥会津に点在する名湯のひとつ「湯倉温泉共同浴場」は、2011年夏に発生した福島新潟豪雨に伴う水害の影響を受け、2014年12月に完全リニューアルされました。新しく生まれ変わったその姿に関しては、すでに多くの温泉ファンによってネット上でレポートされており、本記事をご覧になっている方の中にはリニューアル後の現地へ複数足を運ばれている方もいらっしゃるかと思いますが、この期に及んで遅ればせながら、私も更新後の様子を取り上げさせていただきます。なお以前取り上げた際の記事はこちらです。
湯屋は以前とほぼ同じ位置に完全改築されましたが、川に向かって落ちている片傾斜の屋根は以前の湯屋の姿を思い起こさせてくれます。ベースとなる土地は、以前は段々になっていたものの、現在はフラットに整地し直され、その分土地が有効活用できるようになったため、湯屋の床面積は広くなりました。右(下)画像はリニューアルに伴って発行されるようになった回数券(半券)です。金山町の公式キャラ「かぼまる」が中央にプリントされている立派なデザインの券面ですね。
湯屋の裏手にあるポンプ小屋は以前のままですが、小屋内に設置されているポンプはピッカピカの新品に交換されていました。
共同浴場は以前と同じく無人施設のままですが、玄関を入って驚いたのが、無人施設とは思えないほど充実した待合室の設備類の数々。川面を望むお座敷にはテレビが設けられているばかりか、トイレがきちんと整備されており、扇風機やエアコンまで用意されいました。冬の寒い日も夏の暑い日も、湯上がりにゆっくり寛げそうですね。
外来利用者は入浴前に括り付けの黒い料金箱へ協力金を納めます(200円以上)。
リニューアルに伴って大きく変わったのが、一般的なお風呂と同じく男女の浴室が分けられた点でしょう。以前この共同浴場は男女混浴でしたが、建て直しに際して行政側(保健所等)から求められた条件のひとつが男女を分けることだったそうです。
休憩のお座敷から奥へ進むと男女両浴室の入口に突き当たり、桜色のカーテンが掛かっている直進側が女湯、引き戸が設けられている左側が男湯となっていました。白い棚に籐のカゴが並べられた脱衣室は、コンパクトでやや狭隘ですが、洗面台や扇風機など何かと助かる数々の設備類が用意されており、以前に比べると使い勝手が格段に向上していました。
浴室も見違えるように綺麗になっていました。室内には温泉の浴槽がひとつ設けられているほか、壁は白い建材が採用されて明るさが強調されており、床は十和田石敷きなので足元が快適です。日中は川面を望む大きな窓から日の光がたっぷり降り注いでいるため、明るく清々しい入浴環境が生み出されていました。浴槽は(目測で)1.8m×2.5mの四角形で、やや緑色を帯びた橙色の温泉がかけ流されています。
男女別浴と並ぶリニューアル後の大きな変更点が、浴室に洗い場が設けられたことではないでしょうか。以前の浴場には洗い場なんてものはなく、湯船からお湯を直接汲んで掛け湯をしていましたが、更新後の現在では洗い場に3基のシャワー付きカランが設置され、ボイラーで沸かした真湯が吐出されるようになりました。
地元(本名集落)の方から伺った話によりますと、浴場リニューアルに際して、この洗い場を新設するか否かに関しては喧々諤々の議論となったんだそうです。設置や維持管理のコストが膨れあがる洗い場は不要だとする意見もあれば、温泉のお湯だと泉質の関係で石鹸が泡立ちにくく、髪もゴワゴワする上、外来者も利用しにくいから真湯のシャワーを設置すべきだという意見もあり、検討の結果、現代の浴場施設にシャワーは必須だという結論にまとまったんだそうです。
洗い場が新設された一方、湯船の湯加減調整はアナログのまんま。以前の浴室では、湯船の奥に源泉の熱いお湯が流れる長い樋があり、その樋から湯船へ落とす湯量を増減させることによって湯加減をコントロールしていたのですが、新浴場では樋が無いかわり、浴槽の隅っこにある湯口から湯船へ落とされるお湯の量を止めたり出したりして、湯加減を調整するようになっていました。その具体的な方法は、湯船上の壁に張り出されている「入浴されるみなさんへ」と題された張り紙で説明されていますので、ここでその一部を書き写させていただきます。
1 冬期間は、外窓は閉じておいてください・・・結露防止のために
2 天然温泉の温度管理について
(1)入浴を終わられる方は、源泉を止めてください(「湯量調整板」で浴槽の湯口を止める)・・・後の人のために
(2)お湯が熱いときは「湯もみ板」で冷ましてお入りください
(3)水道水は入れないでください
つまり、源泉をそのまま入れっぱなしにしちゃうと湯船がアツアツになりすぎて入れなくなっちゃうから、誰もいない時はお湯の供給を止めておく。右(中)画像に写っているのが、その「湯量調整板」です。入浴中ならこの板を外して源泉を注いでOK。湯船が熱かったら、湯もみ板を使うのは良いが加水はダメ・・・といった感じでしょうか。地元の方曰く、お湯を冷ましたい場合は、湯もみ板の他、窓を開けるのも良い方法だと教えてくれましたよ。湯船には温度計も備え付けられており(左下もしくは最下の画像)、この時の湯温は43℃でした。
文章だけでは「湯量調整板」の使い方がいまいち分かり難いかと思いますので、湯口の画像で改めてご説明致しましょう。湯船の隅っこに設けられた扇型の湯口には、小さな板、つまり「湯量調整板」を嵌め込むことができる溝があり、これを嵌め込めば湯船への温泉供給が止まり、外せば湯船への温泉供給が全開になるわけです。左(上)画像は板でお湯を止めている様子。右(下)画像は板を外してお湯を全量注いでいる様子です。入浴中は自由にお湯を注げますが、湯口の時点で50℃以上ありますから、浴室退出時に誰もいない場合は、かならず板で塞いでお湯を止めておいてくださいね。
湯口のお湯を口に含んでみますと、出汁味の効いた塩味、金気味、土気味、そして弱炭酸味が感じられ、金気臭が嗅ぎとれます。湯船ではキシキシと引っかかる欲感が肌に伝わり、とてもよく温まる力強いお湯ですから、あまり長湯はできないかもしれません。
浴室の窓に広がる眺めは山水画のようで実に麗しく、この景色を眺めながら湯浴みしていると、身も心もすっかり癒されました。以前の共同浴場では、浴場から川へ排湯される温泉の成分によって、湯屋直下の川岸斜面に大きな石灰ドームが形成されていましたが、どうやら2011年の水害発生時に(もしくはリニューアル工事の際に)姿を消してしまったようです。しかし新たに生まれ変わった浴場から、再び川へ向かってお湯が排出されており、この排湯によって石灰ドームの赤ちゃんがコンモリと姿を現し始めていました。この赤ちゃんがかつてのような立派なドームに成長するのは、果たして何年先のことでしょうか。
本名集落にお住いのご老人によれば、大昔の湯倉温泉は湯船が3段構造になっていたんだとか。最上段は熱すぎて入れないため、卵や栗などの食材を茹で、人間は下段で入浴。風呂上がりに茹で上がった食材を頬張りつつ、持参した味噌を塩味の効いた温泉で溶かして味噌汁を作り、その味がとっても美味しかったと、お爺さんは頬を緩ませながら想い出話しを語ってくださいました。今も昔も、この温泉は人々を癒し楽しませ続けているのですね。
リニューアルによって混浴ではなくなり、鄙びた風情が消えてすっかりキレイな浴場に変貌したため、鄙びを愛する温泉マニアからの受けは以前ほどではなくなったのかもしれませんが、お湯のクオリティは以前同様に素晴らしく、かつお風呂としての使い勝手は格段に向上しましたので、総じて捉えると、以前以上に多くの人々から愛される温泉へと進化したのではないでしょうか。実際に、地元の女性からは、以前の混浴では利用する気になれなかったけれども、男女が分けられた新浴場は使いやすくなった、という声も聞かれます。一方、設備を充実させることによって懸念されていた維持管理コストに関しては、案の定よろしくない状況になっているようですから、ぜひ温泉を愛するみなさんで積極的にお風呂を利用し、以って浴場の末永い持続を支えたいものです。
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 60.5℃ pH7.3 60L/min(動力揚湯) 溶存物質5.652g/kg 成分総計5.715g/kg
Na+:1242mg(66.49mval%), Mg++:72.8mg(7.37mval%), Ca++:376.6mg(23.13mval%), Fe++:2.8mg,
Cl-:1427mg(47.81mval%), Br-:3.5mg, I-:0.2mg, SO4--:1423mg(35.19mval%), HCO3-:867.9mg(16.89mval%),
H2SiO3:131.5mg, HBO2:18.3mg, CO2:63.1mg,
(平成24年1月17日)
福島県大沼郡金山町大字本名字上ノ坪1944のイ 地図
7:00~20:00(日・木は夕方から清掃を行うため18:00まで)
協力金200円以上
備品類なし
私の好み:★★★