毎日、心配がぬぐえない情報の中に埋められていますが、震災20日が過ぎて、まだ水も引かない現地の状態や、避難されている人々の状況を思うときいたたまれない気持ちに駆られます。原発の問題も、次々と深刻な状況が現れわれて、いったいどこへ進んでゆくのだろう・・大きな不安を覚えます。
情報過多? かもしれませんが、友人から送付されて来た報告書をアップします。
ビジネスインテリジェンス協会からの情報だということですが、東芝の元原子炉設計者であった人のわかりやすい報告です。
###福島原発から遠くに退避したいときの考え方###
2011/03/21
藤林徹(元東芝原子炉設計部長)
福島原発事故について、「正しい危機感」をもって対処して欲しい、東京の人が原発からさらに遠方に退避する必要はないと、友人の皆様に説明しました。
その後、多くの方から安心したとの連絡を受けましたが、一方では、悲観的な情報がネットに流れ、また米国人は80kmより遠く退避するようにとの米国政府の推奨話もあり、日本の行政機関の公表データは信用してよいのか、健康上影響はないと言われても心配だから遠くに行きたいなどの反応もあります。
皆様の不安のお気持ちはよくわかります。数字があってもそれを信用しなければ意味がありません。また、自分で確かめないと納得できないでしょう。
幸いなことに、このところ、多くの新聞の見出しはショッキングではありますが、書かれている内容は非常に技術的に正確でまた有用なものが多くなりました。
それで、自分が在住しているところの毎日のデータを基にして、自分が日常生活でどの程度の放射線を受けているか計算してみましょう。
この後のデータは文部科学省がまとめた、毎日の午前9時までの都道府県ごとの大気中放射線の値です。これは全国紙に毎日、前日の値が掲載されていると思います。このような、統計データは計算機処理して得られるため、人為的な操作をすることが難しく、内緒にしておきたいデータが外されることはまずありません。信用して間違いありません。
また、ここでは、茨城県と東京都にそれぞれ住んでいる方について分析してみます。
新聞に掲載されている県内の放射線の最大値(場所ごとに違うのでその最大値を示している)は次のとおりです。(単位はマイクロシーベルト)
一時間あたりの放射線の値
茨城 東京
最大値 最大値
16日 1.035 0.143
17日 0.232 0.053
18日 0.203 0.050
19日 0.183 0.043
20日 0.166 0.046
平均 0.364 0.067
このまま続くとすると、東京の人が1年間に受ける放射線の量は、
0.067×24時間×365日=587マイクロシーベルト(0.587ミリシーベルト)です。
一方、茨城の人は、3,189マイクロシーベルト(3.189ミリシーベルト)です。
17日の朝日の朝刊に、日本の一人あたりの年間放射線量は、自然から1.48ミリシーベルトとありました。
東京の人が3月16日から20日までに受けたものと同じ量を1年間受け続けるとしても、その量は日本の自然からの放射線量の3分の1です。これは低めですが、この5日間がたまたま低かったのかもしれません。
茨城の人は、日本の自然からの放射線量の2.15倍ですが、医療被曝などを加えた日本人一人あたりの放射線の量(3.75ミリシーベルト)よりは低い値です。それでも高めですが、前に説明したように、この値は県内の最大値ですから、平均値はこれよりも低いので、安心してかまいません。
東京の人が、原発から遠くに退避しても、日本人の年間放射線量よりも受ける線量が低くなりません。場所によっては高くなるかもしれません。
このように、自分の住んでいる地域の実測値をもとに、自分がどの程度の放射線を大気から受けているか、それが日本の一人あたりの年間放射線量と比べてどの程度なのかチェックしてください。そうすれば、自分自身で納得できると思います。
でも、安全と安心は違います。安全は技術的に解決できますが、安心はそれに心の問題が加わります。どうしても安心できないときは、自分の心のままに従って、自分を大事にしてください。
<もう一つあります>
###福島原発に関する見解と東京の安全性について###
(2011/3/17 一部改訂3/19)
福島原発について多くの情報が飛び交っていますが、皆様からもご質問を戴いていますので、次のようにお返事いたします。
福島原発の地震と津波の被害による現象はニュースでご承知のとおりです。設計上の耐震強度の2倍の地震と設計で予想した高さ以上の津波に襲われて、冷却に使用するポンプやディーゼルエンジンが流されたか損傷してしまったことは、ビルや町が津波に襲われている多くの映像をみるとよく理解できます。現場は時々刻々変化し、また内閣府・保安院などからは、事態が日々悪化していると説明されています。今後どのように推移するか予断は許されない状態です。すなわち現状から悪化する方向か現状以上に悪化しない方向かで、危険性は大きく変わります。
一方で、東京在住の方々から、このまま東京に居続けてよいのか、雨が降ってきたら被曝するのかといった質問が寄せられています。これらの方々は、デマメールやインターネットからの多くの情報に混乱しているようです。今一番必要なのは、正しい危機感をもつことです。情報の発信元とその根拠を探って、正しい認識をもってください。
まず、権威のある情報であっても、二つの方向があることを承知してください。
一つは、現在と将来を悪い方向に評価した情報です。これは、何が起こっても対処できるように、安全サイドに評価した結果ですから、けっして悪いものではありませんが、安全サイドの度が過ぎる情報をそのまま信じて恐慌状態になります。
もう一つは、現在と将来を良い方向に評価した情報です。これは、人々が心の安堵を保てるように、現状以上に悪くならないことを前提とした評価結果ですから、それはそれなりに正しい情報ですが、それだけを信じると楽観的な態度に結びつく危険があります。
この二つの方向に基づく情報を、自分で正しく判断して、正しい危機感を持つことが重要です。正しい判断をするには、正しい技術的な根拠を理解しておくことが重要です。何も起こらなければ、そのような難しい理論や因果関係を理解する必要はありませんが、福島原発の今の状況は、そのような理解が必要は段階です。わかり難くても、根拠を示すような新聞記事は是非注意して読んでください。
さて、前書きが長くなりましたが、このようなことをベースに私見を次のとおり述べます。
もしも、福島原発が冷却されて現状が維持または改善される方向であれば、放出される放射能は大きくは増えないでしょうから危険度は低いです。
しかしながら、冷却ができない方向であれば、危険度は大きく増えます。すなわち、原子炉にある燃料の、社会で言われている溶融(実際は燃料を包む被覆管の高温腐食)が進んで、燃料は崩れて炉心は崩壊するでしょう。そうなると再臨界になって核分裂反応が始まるのではないかと心配する人もいます。しかしながら、それには核反応を起こす中性子を生み出す水が必要ですし、また中性子を吸収するホウ素が使われているようなので、再臨界の心配はないと思います。
このときでも待避した住民は十分に管理された状態にありますから、被曝の危険性は軽微でしょうが、待避できない人、例えば現場で戦っている東電の職員や作業員の方々には重傷者や犠牲者も出てくるでしょう。
それでも東京都民は安泰です。放射能は大気の流れに沿って拡散して広がり、広がった分だけ薄まりますから、距離が離れれば離れるほど危険度は低下します。例えば発電所の発生点で1時間あたり100ミリシーベルトであった放射性物質が東京方向の風に乗って流れたとすると、1キロ離れていれば1ミリシーベルト、10キロ離れれば0.01ミリシーベルト(10マイクロシーベルト)と低下します。東京は福島から100キロ以上離れていますから、さらに0.0001ミリシーベルト(0.1マイクロシーベルト)以下となり、東京都民のリスクは、10キロ圏内にいる福島県民のそれよりもずっと低いものです。(この距離による低減効果は概念を示す安全サイドのもので、実際は、風向きや風速などの条件でこれよりかなり低くなります。)
17日の朝日の朝刊に、日本の平均年間被曝量は、自然からと医療などから3.75ミリシーベルトとありました。すなわち、一日あたり10マイクロシーベルト、1時間あたり0.5マイクロシーベルト以下になります。
すなわち、発電所で1時間あたり100ミリシーベルトであった放射性物質が毎日24時間、東京方向に向かって365日流れ続けたとしても、東京で受ける被曝量は、これまでの日本の平均被曝量の5分の1にしか相当しません。
したがって、東京から脱出するとか雨が降ったら外出しないなどの話は、まったくナンセンスです。でも、心配だったら、外出から戻ったら、花粉症と同じように、コートや帽子を払うとか、寝る前にシャワーで頭を洗う程度のことは実行すれば、さらに低い値になるのでよいでしょう。
むしろ、人的な影響、例えば危険をあおる報道やデマを伝えるネットやメールによる不安感の方が心配です。これらは人から人へ伝染します。放射能の汚染より、こちらの伝染を心配してください。
福島原発の状況が現状からどちらの方向に向かうかは、今後1週間から1ヶ月しないとわかりません。それは物理的な現象の進展と、行政、東電、国民の努力によって決まります。
東京電力が自らの災害ではなく国民の災害であることを認識して、自衛隊や消防庁など行動できる行政部隊、他電力のエキスパート、国際的な知能などの協力を仰ぐことができれば、国民が納得できる結果が得られます。
それで、将来の道筋ですが、それは東電が世論を見ながら決めることです。修復して再起させるのか、解体して更地にするか、あるいはチェルノブイリのように石棺に閉じ込めるのか、半年か1年後に決まるでしょう。このまま冷却されれば技術的には修復して再起させることができます。でも原子力事業は世論とともに進みますから、おそらく、更地にする道を選ぶと思います。
更地にするには、まず喪失した原子炉の屋根を回復して、原子炉から燃料を取り出して安全な場所に移動させ、容器や部品を丁寧に除染しながら解体します。
それには、5年から10年かかるでしょうから、3ないし4基の原子炉では数十年かかるでしょう。この間にも放射能の問題が付きまといますから、地元の方は長期間の避難か移住が必要になります。その間の生活保障など莫大なお金がかかります。そのようなことから、不名誉な石棺を選ぶことになるかもしれません。
以上がとりあえずの説明です。東京の人は放射の問題は心配無用です。将来の姿は世論が決めます。これが回答です。
地震と津波に遭遇した発電所のうち、使える発電所が復旧して計画停電が軽減されるまで、半年から1年はかかるでしょう。それまで、節電に協力しながら、今後の道を探ることも大切です。
どうか、厳しい現場で、命をかけて水を注入している技術者と労働者、それに関係機関の方々の成功と無事を祈ってください。このため、自宅を離れて不便な避難生活を送られている方々に思いを馳せて、また、心にゆとりが出来ましたら、30年から40年の長期にわたって私たちに電気を送り続け、いままさに息絶えんとするプラントたちに、お疲れ様でしたとつぶやいてください。
藤林 徹(元 東芝原子炉設計部長)